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誕生石へのエチュード  作者: なつ
第七章 ダイヤモンドとアクアマリンはいつも一緒に
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 4

 芹沢茜がパーティーの始まる少し前に、庭の奥に隠れている女性を見たと言っていた。あのときは、きっと見間違いだろうと思っていたし、そんなことはありえないと思っていた。

「菫さんから聞いた」

「菫が裏切ったのか」

「本物の、菫さん。全然似てないじゃないか。偽者は痩せすぎだったけど、本物はもっと……えっと、理想どおりの体型だった」

「ありえない!」

「どうして? ここは芹沢家の屋敷なんでしょ?」

「だけど、彼女は今仕事で外に出ているはずではないのか?」

「仕事のはずだけど、分からない。お父様とお母様が外国にいるのは分かってるけど」

「何か、証拠があるのか?」

「僕が菫さんに会ったっていう証拠? うーん、二人が双子のふりをしているってことかな」

「なっ」

 芹沢雅と篠塚桃花の声がきれいなハーモニーを奏でる。

「た、確かに、本物に会ったのかもしれないな」

「だから、会ったんだって。でも、菫さんに、これは全部芝居ですよって聞いたわけじゃないよ。だって、彼女名乗ってすらくれなかったんだから。僕は、本気であの時殺されるんじゃないかって思ったんだから」

 甲斐の視線が、少し上を向く。そのときのことを思い出しているのかもしれない。それにしても、本物(、、)の芹沢菫が本当に戻ってきているとは、全くの想定外だ。

「でも、甲斐はそれが菫本人だと分かったんだな」

「そう。だから、ここにいる芹沢菫が偽者だということに気がついた。あとは、簡単なビリヤードと同じ。彼女が偽者なら、他のメンバーも偽者かもしれない。または、偽者と知ってそう振舞っているのか。少なくとも僕は、茜さんが本物ってことは分かったけど、他は不明」

「そういえば、甲斐はどうして茜のことを知っているんだ? 私が知る限り、甲斐が茜と知り合う機会などないのではないか」

「僕が丁子さんを知っているのと同じなんだけど」

「それも疑問だ。いつの間に知ったんだ?」

「知ったっていうほどのことじゃないよ、二人とも一瞬すれ違っただけだし。ほら、雅さんが入院したとき、お見舞いに行っただろ。そのときちょうど二人がいたから」

 雅は、甲斐がお見舞いに来たときのことを思い出す。力を込めてその頬を殴ったことは覚えている。甲斐が来る前に芹沢茜と芹沢丁子もお見舞いに来てくれていた。だから、雅は茜に協力をお願いしたんだ。

「なるほど、な。それで、甲斐は2日目の朝には、すべてが分かっていたのか」

「そういうこと」

「ではなぜ、知らない振りをしたんだ?」

「だから、最後まで見たかったんだって」

「何のために?」

「動機が、分からなかったから」

 甲斐は続ける。

「騙しているのが僕だけってことも、まだそのときは分からなかったし。でも、一番はやっぱり動機かな。どうしてこんなことをするのか、それも、誕生日を半ばつぶしてまでも」

「あの、ごめんなさいね。その誕生日というのも嘘なの」

「ええっ?」

「あれ、意外?」

「そこは、疑ってなかった」

 甲斐は頭をかく。

「それで、実はまだ動機が分からない。どうしてこんなことをしたんだ?」

「だって」

 その声があまりにも弱々しく、雅は篠塚を見ると今にも泣き出しそうな表情をしている。

「あらら。ここまでかしら」

 それから雅は何事もなく立ち上がると、二人の頭を軽く叩く。

「それじゃあ、わたくしは他の皆さんを呼んでまいりますから。そうですわね、みんなを降ろすに1時間くらいかかるなんてこともあるかしら。それまでに、桃花、甲斐くんにちゃんと話しておくのよ」

「だぁってぇ」

 その声にはすでに涙が混ざっている。

「それじゃあ、甲斐くん、ちょっと桃花をよろしくね」

 雅が部屋を出るときには、すでに後ろから泣き声が響いていた。


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