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誕生石へのエチュード  作者: なつ
第七章 ダイヤモンドとアクアマリンはいつも一緒に
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 2

「それで、いつから気がついていたのだ?」

「そうよ。甲斐君、気がついてたの?」

「二人とも、恐い顔はやめようよ?」

 芹沢雅の部屋で、彼女のベッドの脇に座り、甲斐雪人は両手を前に、ガードするように動かした。

「気がついていたなら、さっさと教えてくれてもよかったんじゃないかしら。わたくし、こんな格好をしてまでがんばってたのに」

「うーん、それは謝るよ。でも、僕も確信はなかったし。それに、どう終わるのか気になってたのもあって」

「それは、誰が犯人か、ということか?」

「そうだよ。あんな犯行を、一体誰が行うことができるっていうんだ? 桃花も一緒に考えている振りをして、もっとも矛盾が少ない回答を考えてたんだろ?」

「まあ、そうだが。私も、どのようなことが起きるか知らなかったからな」

「それで、いつから気がついてたの?」

 甲斐は笑いながら、一日目の来たときのことを思い出す。違和感が何度も付きまとっていて、その原因が分からなかった。

「まずは、萌さんかな。ほら、来たとき門のところでモニターごしに話したんだけど、桃花は覚えてる?」

「もちろん覚えているとも」

「ベールを覆っていて、明らかに顔を見せたくない感じだったし。それは、玄関のところで2階から見下ろされたときも同じ。いかにもっていう怪しさを出してたからね。あれが萌さんだとすると、僕の目を彼女に向けさせるのが最初の目的だったんじゃないかな。丁子さんが残したメッセージも、萌さんを指していたようだし」

「なんだ、甲斐もあのメッセージの意味が分かっていたのか」

「気がついたのはだいぶあとになってからだけど。もしかしたら1文字かもしれない、て考えてからね。翠が現すのは、あの文章から萌さんしかいないし」

 甲斐は一息ついてから続ける。

「そのくせ、萌さんも吊るされた。ミスリードが殺されちゃうなんて、僕をあざ笑ってるみたいじゃない。でも、桃花、一人だけ殺されたのに吊るされていない人がいるんだけど、覚えてる」

「丁子だろう」

「そう。彼だけ、外に運び出したって言ってた。僕があの部屋をもう一度探すという行動に出たのは、かなり予定外だったんじゃないかな」

 雅は答えない。

「それに、僕は一度だけ丁子さん本人に会っているから。もしよく見られた困ったんじゃないかな」

「だから、死体をどこかへ始末した、と?」

「彼は死んでいない。いや、そもそも丁子さんは最初からいなかった、そう考えたほうが単純で分かりやすい」

「でも、あの仕事場にあったのだろ」

「僕は一瞬しか見ていないし、すぐに蘇芳さんに追い出されてしまったから。それも計画通りだったんじゃないかな。つまり、あれは人形だった」

 甲斐の自信のこめた一言に、雅は一度だけ肩をすくませた。

「これで、一つ目の事件は終わり。つまり、誰も殺していなければ、殺されていなかった。じゃあ萌さんは? あれは桃花も推理してくれたけど、蝋燭の光の中では、もしあれが生きていた状態だとしても、すぐに分からなかったと思う。それに、あの暗さの中では、はっきりとその顔を確認することができなかった。僕が彼女をちゃんと見たのは、吊るされてからだったし。それでも、明らかに言えることがある……若すぎる」

「そうよね。あれで5人を産んでるなんて、さすがに無理があったわね」

「ベールで隠してたんだろうけど、隠し切れていない。でも、まあいいや。それで2つ目の事件で言えるのは、誰も殺していないし、殺されていない、ということ。はい、1日目終了」

「だが、甲斐がそれに気がついたのはもっと後でなのだろう?」

「もちろん、そう。あの時はそんなこと考える余裕なかったし、2人とも殺されたと思っていた。だから、スージー捜査官の失踪は見事だった」

「3つ目の事件だな。それをどう解釈した?」

「誰も殺していないし、殺されていない。あの場所に吊るしたのは、死んでいるか確認できないようにするため。要するに、まだ生きている、ということ。これ以上の解説は必要?」

「瑠璃の失踪をどう考える?」

「多分、彼女は本当に何も知らずにこの誕生日に呼ばれたんだろうね。でも、まさか気絶するなんて、それも予定外だったんじゃないかな。だから、僕と桃花が蘇芳さんを探すために彼の部屋を調べていた間に、すべてを白状したんじゃない? だから、桃花もその事実を知らないままだった」

「もう、そんなことまで分かっていたの? わたくしたちの考えなんて、本当無駄じゃない」

「それで、彼女は多分萌さんの部屋にいた。だから、僕がもう一度あの部屋を調べるべきだって言ったとき、菫さんだけ違う行動を取ったんだ。あの状況で、玄関ロビーに待ってたのに、一人でトイレに行くなんて考えられない。それに、トイレなら2階の部屋に戻らなくても、1階にあるっていうのに」

「あれは不自然だったな。私からすれば、おそらく密談に行ったんだろうと思ってたけど」

「僕たちが萌さんの部屋を見ている間に、萌か菫のどちらかが屋上から人形を落とす。多分、丁子の死体を演じた人形なんじゃないかな。それで、もう一人がそれを回収する。犯人が僕たちを近くで監視している、なんて思ってたけど。答えは簡単。犯人は僕以外のほぼ全員だったんだから」


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