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誕生石へのエチュード  作者: なつ
第五章 ガーネットとトルマリンには血の赤を
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 2階の踊り場にメンバーが集まる。甲斐雪人、篠塚桃花、芹沢鴇、芹沢菫、芹沢浅葱、芹沢茜、そして芹沢雅。7名、幸か不幸か、新たなメンバーの欠損は見られない。芹沢丁子、芹沢萌、芹沢蘇芳、スージー・F・パール、日達瑠璃は今ここにない。

「どこから屋上に出られるの?」

 甲斐は、まだワンピースのネグリジェ姿の雅に声をかけた。

「どちらからでも、出られます。廊下の突き当たりに外へ出る扉がついていまして。でも、どちらも鍵がかかっていますわ」

「鍵はどこに?」

 その質問に、浅葱が一歩退くようにして、丁子の仕事場の向かって左側の部屋を指した。これまで、数度甲斐も足を踏み入れたことがあるが、モニターが多くついた、管理室のような部屋だ。施設の門の操作もあの部屋から行うことができる。

 鴇が代表して部屋を開けると、中に進み奥のテーブルの引き出しを開ける。そこから鍵を一本取り出して、今度は入り口近くの壁面に設置された、小さなキーボックスの鍵を開ける。甲斐はちらりと見ると、いくつものフックに、たくさんの鍵がかかっている。

「あれ、ない?」

 鴇の手が、そのキーボックスの右下で止まる。確かに、その一番端の下に鍵はぶら下がっていない。フックの上に印字された文字には、避難用と書かれている」

「いつから?」

 鴇は首を振る。甲斐がメンバーの顔を順に見るが、誰も鍵がいつからないか分からないようだ。少なくとも、誰かがその鍵を使ったのは確かだと言えるだろう。けれど、昨日スージーを探すために、順に部屋を見て回ったとき、先ほど瑠璃を探すために、同じように順に回ったとき、あの端の扉は開かなかった。鍵は内側からなら簡単に開けられるドアノブ式のものだ。外からは鍵が必要となる。あの時は、そこは外への出口だと聞いていて、一階に降りることができるとしか思っていなかったから、それほど気にはしなかったが。

 鴇がキーボックスを閉めると、再び部屋の外にみんな集まる。

「とにかく、一度屋上を見てみましょう」

「そうね。でも、そこから外に出てそのままどこかに行ってしまったのかもしれない」

 茜が腕を組みながら答える。

「それでも、この敷地からは出て行ってない。それに、先ほどの落下事件を考えるなら、屋上の調査も必要であろう。もっとも、誰かが屋上に残っているとは思えないが」

「えっと、その前に、わたくし着替えてしまいたいのですけど」

 遠慮がちに雅が手を上げる。

「昨日の夜からこの格好ですし、あまり長い間この姿でいるのは、少し恥ずかしいわ」

「そういえば、雪くんもそれ、ジャージでしょ? しかも、雅の中学のころの」

「ええっ、そうだったんですか? でも、スーツは着慣れてないから、こっちのが動きやすくて、助かるんですよ」

「全く。甲斐よ、お前はもう少し身なりを気にしたほうがよいぞ。なんなら、私がそろえてやってもよいと言っておるのに」

「ああ、うん。それは、またいつか。それじゃあ、雅様が着替え終わるまで、ここで待ってますよ」

「すいません、わがままを申し上げまして」

「あたしもついていくよ。一人にするのは不安だ」

「なら私も」

 ありがとう、と答え雅は茜、菫と一緒に廊下の奥へと歩いていった。

「さっき、お母様の部屋を見てきたのだが」

 三人の姿が見えなくなってから、鴇が甲斐を振り返った。

「あれは一体どういうことだ。意味が分からない」

「それは、僕にも分かりません」

「俺は確かに昨日、あそこでお母様の死んでいる姿を見た」

「俺も、見た。それに、俺は確かめた。俺は、蘇芳と一緒に部屋に入って、あの姿を見て、すぐに確認した。確かに、息をしていなかったし、脈もなかった。あの時、お母様が殺されていたのは確実だ」

「浅葱よ、それは本当か?」

「間違いない」

「では、誰かが萌の死体を動かした、ということになるな」

 やはり萌は死んでいた? 甲斐の思考が再び動き始める。これまでの最も有力な仮説が崩れてゆく。もちろん可能性として、自らを仮死状態にしていたことも考えられる。考えられるが、その率はきわめて低い。いくつもの歯車が絡み合い、ラプラスの悪魔はけれど、甲斐にまだ答えを導き出してくれそうにない。それとも篠塚ならすでに、同じ歯車から回答を得ているだろうか。

「分からない」

「ああ、分からなくなった」

 甲斐の独り言に、篠塚が相槌を返す。

「可能性として甲斐よ、お前が見た屋上から落ちたか、落とされた人物は誰だと思う?」

「ルビーが指し示すのは、赤系の色の持ち主だと思うけど、桃花は違うし、茜さんは対象外。そうなると、ここにいなくてその可能性があるのは、蘇芳さんしかない」

「むろん、それが罠かもしれないが」

「犯人は、僕たちの行動を監視している。それも、ごく近くで。それは間違いない」

「どうしてそう思うのだ?」

「そうでなきゃ、あのタイミングでルビーを示すはずがない」

「もし、私たちがもっと遅いタイミングで萌の部屋を調べていたとしたら、どのような状況になったか。萌がいないことは、同じように気がつくだろう。床に落ちているルビーにも、同じように気がつく。そうなると、やはりベランダから下を見る可能性がないか?」

「下には何もなかった」

 けれど、と甲斐は続ける。

「ベランダから見る時点ではあるかもしれない」

「なるほど。確かにそうだ。けれど、結果は同じになるだろうな。外へ行くとそこには何もない」

「そうだろうな。けど、ルビーが床に落ちていただけで、それの過程は分からない。置かれた状態なのかどうか。僕なら、蘇芳さんの部屋を確認に行くと思う」

「その直前に、何かが落ちる音を聞いていたとしたら」

「そうか、そうだな。でも、分からない」

「そんな仮定の話は、今大して価値もないがな」

「お前ら、すごいな」

 ラフなシャツを着ている浅葱が、感心した表情をしている。

「ももは知ってたけど、甲斐も、よく頭が回るな。俺はそんなことまで全然考えていなかった」

「ああ、俺も」

「甲斐は私が認めた男だ。そうであってもらわねば困る」

「いえ、僕なんて。でも、問題は今、このメンバーの中に犯人がいるかもしれない、てことですよ」

 甲斐の言葉に合わせるように、奥から雅たちが戻ってきた。驚いたことに、雅は髪をポニーテールのように上でまとめ、高校の体操着を着ていた。


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