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誕生石へのエチュード  作者: なつ
第一章 ぺリドットに愛を込めて
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 名古屋の地下は無駄に広い。地下街を歩き続けていると、いつの間にか駅一つ分過ぎることもあるほどだ。甲斐雪人がどの店に入ろうか迷っていると、甲斐の前を歩く夢宮さやかが、制服のスカートをひらひらさせ、キョロキョロしながら一つのアクセサリーショップに目をつけた。

「こういうのがいいんじゃない?」

 甲斐も夢宮に続いてアクセサリーショップを覗く。

「うーん、僕の予算だとあまりいいのが買えないんだけどね」

「あはは、雪くんってば、そんなこと気にしないほうがいいよ。絶対、もらえるものなら何だって嬉しいもんだって」

 こうして一緒にアクセサリーを見ていると、夢宮に頼んだのは正解だったのかもしれない。ただ、何のための買い物か、夢宮には嘘をついたのだけど。本当は、芹沢雅の誕生日のプレゼントなんだけど、そもそも誕生日に呼ばれていない夢宮にそのことを言うと、発狂してしまいそうで恐い。だから、少し罪悪感を持ちながら、妹の誕生日プレゼントに、と言って夢宮に協力をお願いしたんだ。

「それに、絶対似合うと思うよ。こういう、ちょっとしたネックレスのようなものが嬉しいんだから、女の子は」

 夢宮が今指差しているのは、何でできているのかわからないけれど、細い鎖が連なっていて、ワンポイントのアクセサリーとして小さな黄緑色の宝石が光っている。それに、値段もそれほど高くない。

「あらぁ、彼女にプレゼント?」

 後ろから店員が、顔を傾けながら声をかけてくる。振り返ると、エプロンをかけた女性の店員がにこにこと笑っている。

「ちょわっ、彼女って私を指した?」

 予定以上の驚きの言葉を夢宮は発する。

「あらら、違うの?」

「全然違います。私は、雪くんのためにプレゼントを選んであげてるだけなんです」

「そんなに否定することないのに、ねぇ?」

「いや、本当にそうですから」

「あら、そうなの。それは失礼しました。でも、彼女のセンスとてもいいと思うわよ」

「でしょー」

「あなたの好きな人は、もうすぐ誕生日なのかしら?」

「だめよ、雪くん、そんな危険な関係に落ちちゃあ」

「あらら、それも違うの?」

「まあ、誕生日っていうのは合ってます」

「ふふふ。もし誕生日が8月のうちにあるなら、ぜひこれを買ってあげなさいな。きっと彼女喜ぶわよ」

 甲斐が悩んでいると、店員の女性はもう一度ふふふと笑って続ける。

「これはね、ぺリドットっていう宝石でね。8月の誕生石なのよ。それに、こういうアクセサリーって貰うと嬉しいものよ。男の子は実用的じゃないって思うかもしれないけどね。身につけてるだけで幸せになれるんだから」

「分かりました。それじゃあ一つ下さい」

「はい、ありがとうございます」

「雪くん、だめよ、妹に恋しちゃぁ」

「ないない」

「それならいいけど。だって、この間妹さんみたとき、とても兄妹とは思えなかったんだもん」

「そう?」

 内心甲斐は動揺する。

「だって、私が話しかけるだけで、すごく妹さん不機嫌そうだったし。後で考えると、まるで嫉妬されてるみたいだったし。それに、普通電話ボックスに二人で入るかしら」

「……そこまで見てたの?」

「あ、はは、しまった。いや、ほら、気になったから校門まで見に行っただけよ、他意はないのよ」

「気になる以外の意なんてどうでもいいんだけどな」

「以外のイ?」

 くくくと夢宮が笑う。

「いや、笑うところじゃないんだけど」

「はいはい、お待たせいたしました。プレゼント用に包んでおいたから。あと、メッセージカード添えると完璧ね」

「あ、ありがとうございます」

 店員の女性から包装されたネックレスを受け取ると、甲斐は頭を下げた。

「あらら、いいのよ。こちらこそありがとうございます。どうぞ、また寄ってくださいね」

 それから甲斐は夢宮をひっぱるように歩き出した。


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