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誕生石へのエチュード  作者: なつ
第四章 パールとルビーが重なって
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 4

「三つの事件を並列にしてみると、ある共通項がある。分かるか?」

 風に、篠塚桃花の首もとの鈴が小さな音を立てる。篠塚の首には、緑色のリボンがあり、その中央に、鈴をあしらったバックルがついている。紺を基調にしたゴシックの服は、胸元が大きく開いているが、リボンがそこに時折かかり、ひらひらと揺れている。甲斐雪人は、その篠塚の問いに、少し考えてから、宝石のこと、と答える。

「うむ。もちろんそれもある。だが、状況の構図において、だ。丁子が殺されたとき、おそらくはパーティーの最中であろう。あのとき、萌の姿はなかった。そして、萌が殺されたときも、私たちはパーティの会場にみんな集まっていた」

 ハスキーだけれども、小さな声が、甲斐の思考を刺激する。

「あの時、会場にいなかったのはスージーだけだ。そして、スージーが発見されたとき、今度は蘇芳がどこにもいない。つまり、常に一人だけ、同時にいなくなってしまっているのだ」

「では、次にもし、蘇芳さんが発見されたとしたら、そのとき、誰かがいなくなってるってこと?」

「その可能性はある。だが、そのいなくなっている人が、犯人という仮説が成り立つ。つまり、この三つのケースにおいて、すべて犯人が違う場合だ」

「すべて」

「仮説だ。証拠もないし、確証もない。だが、今私が考えている仮説の中で、最も説得力のあるものだと思うが」

「だったら、宝石は?」

「それが分からない。誰が、あの会場から宝石を盗んでいったのか。どうして、宝石を一つずつ返しているのか。それを考えると、やはり犯人は一人なのかもしれないとも思う。甲斐の仮説は?」

「僕は、スージー捜査官のあの姿を見て、犯人は複数いるんじゃないか、という可能性もあると思う。後は、桃花の仮説とほぼ同じかな」

「……犯人たちが、その犯人を殺している、ということか?」

「口封じか、仲間割れか分からないけど、その可能性がないわけじゃない。それなら、宝石を盗んだ犯人が、それを仲間内で持ち合っている可能性もあるし」

「甲斐は、その犯人の一人ではないのだな?」

 不安そうな表情で篠塚が上を向く。あまりに予定外の反応に、甲斐はつい笑ってしまう。

「大丈夫だよ。それはない。もしかして、桃花、僕を疑っているの?」

「そ、そういうわけではない。それに、そうだな。そんなはずがない」

「それに、雅さまもその一人ではないと信じている。以前桃花からそう怒られたし」

「そうだな。雅がこのようなことをするはずがない。だが、それなら他の誰でも同じだ。私が分からないのは、あの日達瑠璃だけだ。スージーも分からない一人であったが、すでにない」

 問題は、規模にある、と甲斐は思うが口に出さない。この仮説でもっとも重要なのは、犯人の規模である。どれだけの人間が関わっているのか。スージーの殺人のときに複数犯人がいるのではないか、と甲斐は考えた。ということは、今どこにいるか分からない蘇芳以外にも関わっている人間がいるということだ。

 それとも、感情的にただ一人素性の分からない日達瑠璃が一人で、ここまでの殺人を構築することができるだろうか。

 宝石に関しては、可能であろう。

 丁子に関しては、どうだろう。パーティーのとき、少なくとも一度は部屋を出たと思う。が、それは自信がない。見ていたわけではない。だが、それに関しては、スージーが取調べでメモをとっていたはずである。後で、そのメモを確認すれば分かるかもしれない。

 萌のときはどうか。殺害時間は分からない。それでもおそらく、あの取調べを行っていた時間であろうことは想像できる。瑠璃が篠塚を呼びにいく、その間に犯行が可能かもしれない。が、篠塚が現れるのが遅ければ、スージーが疑惑の目を向けただろう。

 だから、スージーを殺した?

 三番目の殺人なら、動機が成り立つ。けれど、丁子と萌に関しては、理由が分からない。甲斐の知らない、何らかの事情があるのかもしれないが。

「この仮説も、ありえない話じゃないな」

「何だ?」

 甲斐が今の考えを篠塚に告げようとしたとき、蘇芳の部屋の扉が開かれる。息を切らせて、芹沢茜が立っている。

「いたー」

「なんだ、騒がしいな」

「た、大変なこと、が。先にあんたたちが見つかったから、ちょっと手伝って」

「どうしたんだ?」

「瑠璃ちゃんが、気がついた途端に、走って逃げちゃったの」

 甲斐は篠塚と視線を合わせると、一緒に走り出した。


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