ファンタジーショートショート:エリクサーを大切に取っておいたら
エリクサーそれは正に万能薬として知られていた。飲めば瀕死の傷もあっと言う間に治癒し、枯渇した魔力を完全回復する。そして不老不死が約束される。そんな薬が実際にある世界があった。
しかしその国でもエリクサーの作成技術は既に失われており、世界に1本のみになっていた。時の権力者達はこぞってそれを求めた。そしてその時代の支配者に手元に必ずあると言われるアイテムとなった。しかし誰もこれを飲もうとしなかった。1本のみであるという事でもしものとき、自分が命の危険にさらされた時などということで誰も飲めなかったのである。
そのエリクサーの保管場所は様々であった。
熱帯の王国にあった時には王宮の一番太陽が降り注ぐ場所。極寒の国にあった時は地下深くの宝物庫へ。海の王国では深海へと保管されていた事もあった。エリクサーという存在は知っていても誰も保管方法など知らなかったのである。
数百年エリクサーが各国をさまよった頃、世界に突如危機が訪れた。別の世界からの侵略者である。その時は覇を唱えようとしていた各国が世界を守る為に一致団結することになった。
侵略者との戦いは一進一退であった。お互い決め手を欠く中、侵略者を討つ為ある作戦が動き出した。
それは各国の一騎当千と言われる者達を集め、各国の軍が囮として攻撃を開始、その隙に侵略者の根城の中枢まで突破破壊すると言うものであった。
それを実行する為各国から選ばれた者たちが集った。そしてその彼らに手渡されたものがエリクサーであった。
そしていよいよ戦闘が始まった。その最中少数精鋭で次々と侵略者の中枢に足を運ぶ面々。正に各国の英雄が力を合わせているからこそ出来る凄まじい戦いぶりであった。そんな彼らが中枢で見たものは巨大なクリスタルであった。そしてそのクリスタルが彼らを検知したのか激しい警報が鳴り響き、そのクリスタルを守る敵が現れた。
今までの敵とは何だったのかと思いたくなるほど強力な敵に攻めあぐねる英雄達。そんな中1人の男が己の命も顧みず特攻を行った。その甲斐あってか敵を打ち倒す事に成功したのだが彼自身も大怪我を追ってしまった。
未だ鳴り止まない警報。そして瀕死の彼を救いたいという気持ちが彼らをあるアイテムの事を思い出させてくれた。エリクサーである。これさえ飲めば彼もたちどころに全快するに違いない。それどころか不老不死にでもなればとんでもない戦力になりえる。そう思いエリクサーのビンのふたをあけた。
そうすると途轍もない悪臭が放たれた。その臭いに彼らは悶絶しなんだこれはと怒りの声を上げた。簡単な話、腐っていたのである。
あまりにも大事にされ過ぎて、消費期限なぞとっくの昔に過ぎていたのだ。その後も彼方此方地域を転々とし、保管場所も様々その場所の気温、湿度も様々。そんな中では流石のエリクサーも一溜まりも無かった。
そうとは知らず、各国の王達はこんな時でさえがめついのか!と怒りの声が英雄達から聞こえだした。その怒りを糧に侵略者の中枢を破壊。見事任務を終えると、軍と戦っていた侵略者の兵達も消えうせ戦闘が終了した。
そんな重傷者を1人出しながらもなんとか無事に帰ってきた英雄達。しかしそこには怒りの表情しかなかった。各国の王達に愛想が尽きた彼らは、そこから彼らと敵対することになったのだ。
こうしてエリクサーの誤解が原因で始まった戦争は侵略者との戦争よりも長く続くモノになってしまった。
どこかでそのエリクサーを飲んでいればこんな事にならなかったのだろうが、それを知る人間は誰も居なかった。