表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

6/Saide→F

えー・・・私は下級天使第七位、権天使アルケーのファルシオン。

第七位の権天使ですが、天使の軍勢の中では第六位大佐を務めています。有事の際には中級天使の方々が率いる旅団の指揮官補佐も務めることになっています。正直、中級天使の方々の相手は大変なので、お呼びが掛からない事を切実に祈る日々でございます。同僚から押し付けられた地位ですので、とばっちりとも言いますかな。権天使アルケーは戦えればそれで良いと考える天使のせいか、そういう駆け引きは苦手な者が多いもので。そういうのは中級天使第六位、能天使エクスシアイの方々に任せておけ、と言って憚らない者が多いのですよ。まことにどうしたものか。

尊敬する能天使エクスシアイのシャエル様は、恐れ多くも我々権天使アルケーと共によくお力を奮われていらっしゃいますが、彼の方はまた特別ですね。彼の方を基準に中級天使を語ってはいけません。


基本的に、権天使アルケーが職場を異動することは珍しくありません。希望すれば、悪魔との戦いにどっぷり浸ることも、上級天使の方々の護衛任務しかやらないことも可能です。それに、天使の軍勢の中であれば、定期的にそれなりの頻度で異動もございますので。本人の希望であったり、上司の意向であったりと理由は様々ですが。それでも天使の軍勢の中に限られます。極稀に上級天使の方々がご自分の手足に護衛にと引き抜かれていく者もいますが、それもまた珍しいことです。そもそも天使の軍勢から離れて生活ができる権天使アルケーはほぼいないと言っても良いでしょう。いえ冗談ではなく。

そもそも戦闘・武闘に特化している、それが存在意義である権天使アルケーが戦わずにいることはできません。筋金入りの脳筋集団ですから、ええ、自分で言い切っておきます。そんな中で自分が権天使アルケーなのは何かの間違いじゃなかろうかと何度も思った時期もありました。ですが、どうやっても戦いから逃げたくないと考える思考とこの性根は間違いなく権天使アルケーです。


そんな中、実に珍しいお方から密やかに招集が掛かり、職場を異動することになりました。

正確に申せば天使の軍勢から、そのお方の元へ出向ということです。


お召しがあったのは、中級天使第四位、主天使ドミニオンのシェズリエル様。

主より医療、医術の御業を授けられた、主の力の片鱗を「統治」し「支配」なさる偉大な天使の一翼。

有事の際に特別編成される、上級天使の方々も多く参加された軍団に従軍なさったお方でございます。まわりでは決して怒らせてはいけない等といわれていらっしゃるお方ですが、その功績は素晴らしいものです。

主天使ドミニオンの中では珍しく第四位中将を拝命なさっており、自ら編成した医療師団を率いて第一線で天使の治療を行われたとお聞きしております。治療の為に自らの研究成果を惜しげも無くお使いになり、治療の為に悪魔相手に一歩も引かず戦いを繰り広げ、その戦果は主天使の中では抜きん出ていたと記録にあります。今はもう既に天使の軍勢からは離れていらっしゃいますので・・・いえ、私はまだその時には存在していなかったので、記録に残っている事象でしか存じません。後はたまに実験とおっしゃって訓練場にいらっしゃるお姿を垣間みる程度です。

・・・失礼致しました、稀に、本当に極稀に、そのお力を訓練場で奮っていらっしゃいます。たかが下級天使が中級天使第四位のお力を奮われるお傍にいるなど、まず自分の身が守れません。その戦いぶりを拝見したことはございません。まずシェズリエル様が完璧に訓練場を隔絶なさるからですが、戦場であれば兎も角、私もまだ自分の身が可愛いので。シェズリエル様がご自分のお力を本気で奮われた場合、私たち下級天使どころか訓練場が跡形も無く消し飛びます。いえこれも冗談ではなく、純然たる事実です。

もし主天使ドミニオンのお力を受けた場合、並の天使アンゲロスではそれだけで存在が消滅します。ええ、敵である悪魔より味方の上級天使の方々のお力の方が恐ろしいです。権天使アルケーの中でならそれなりに名を知られている私ですが、悪魔より中級、上級天使の方々の方が恐ろしい存在です。

上の方々にとっては所詮は権天使アルケー天使アンゲロスなどいくらでもいる駒に過ぎませんので。

その中で主天使ドミニオンでありながら、そのお力故とは分かってはおりますが慈悲のお心を向けて下さるシェズリエル様は下級天使の中で慕う者は多くいます。


・・・・・・本当に慈悲なのかは存じ上げませんが。

それは私如き下級天使の与り知らぬところ、私はまだ我が身が惜しいので。


シェズリエル様のお召しに従い、指定された宮にお伺いしました。シェズリエル様のお持ちである宮でございます。研究施設や、研究に伴う素材や機材、研究道具が併設された宮は、どちらかというと研究所とか、簡易的な治療院も兼ねている様です。私達は普段は軍勢の医務室で済ませてしまいますから。

さらに、かつての部下が二名いたのは誤算でしたな。いや気心しれた相手がいれば、私の心労も多少は減るでしょう。

今では二人とも第七位中佐の位を持つ権天使アルケーで、戦闘に秀でた権天使アルケーらしい権天使アルケーですから。剛胆な性格をしているツヴァイヘンは、大隊や中隊の切り込み隊長として重用されています。指揮官や兵としては良いのですが、作戦の立案に関してはからっきしでした。もう一人の女性は、大きく波打つ豪奢な金髪に、天使にしては珍しい榛色の瞳をしているフランベルジェ。その麗しい外見とは裏腹にとても好戦的な性格をしています。凛々しい姿に女性天使からの人気も高いと聞いていますが、本人は戦闘以外にあまり興味がないようで、任務以外ではあまり良い話は聞きません。

二人とも権天使アルケーらしく、好戦的で戦闘ではとても頼もしいのですが、指導・教育係としてとても、とても苦労した部下でした。救いは二人が同期では無かったことですかな。そんな二人とまた同じ職場とは・・・これは、また二人のお守役ということなのでしょうか。

痛む筈の無い胃が、なにやら切々と訴えて来るような気分であります。これも何かのしゅより課せられた試練なのでしょうか、と日々自問自答しております。


その二人を引き連れて、シェズリエル様の宮に向かいました。

研究のサポートをしているという天使アンゲロスの女性に案内され、応接室に通されました。清潔感、というより無機質な印象のある部屋は、あまり使用されていないのか、いささか味気ない部屋です。シェズリエル様がこのようにどなたかを招くことは少ないからでしょうか。

少々遅れていらっしゃったシェズリエル様は、いつも通りの白い衣を纏った姿でいらっしゃいました。態々遅れたことを詫びられ、さらに簡単に挨拶と自己紹介を済ませると、一つ上座にある一人掛けの椅子に腰を下ろされました。ここまで下級天使に礼を尽くされる方は、本当に少ないので少々惚けてしまいました。

しかし、腰を下ろされてからのお言葉は、それを上回る程の衝撃がありました。


「お前達には、私の下に異動してもらう。私の私兵として」


・・・・・・・・・・・・初っ端からナニやら不穏ですな。私は辛うじて微笑みを保ちましたが、横の二名が戸惑ったのは感じました。・・・上位天使の前では平静を保てとあれほど教えましたが、教育が足りなかったですかね。まぁ、これから共に任務にあたるのであれば再教育できる時間もありましょう。

軽く現実逃避をしてしまいましたが、シェズリエル様は固まった私たちに構わずお言葉を続けられます。


「名目上は主天使ドミニオン付きの天使の軍勢、三名だから小隊だが、実態は私の私兵扱いになる。今後主しゅを除いて、私以外の如何なる上位天使が何を言ったとしても、私の命令に必ず従え」


底冷えする声音に、胃に直接氷を突っ込まれた様な感覚を覚えました。

深く澄んだ湖水の瞳が、シェズリエル様の漂わせる冷気に呼応して酷く冷徹な眼差しになります。今までお見かけする際の無関心な印象は欠片も無く、ただひたすらに冷たい冷水のような、この場での絶対的上位者の重圧感。今ではトレードマークとして定着している白の衣を纏っていらっしゃっても、今此処にいるのは主天使ドミニオンの方では無い、と付き尽きられた心地でした。

かつてしゅより第四位中将を拝命され、医療師団を率いて悪魔と戦った天使の軍勢の一翼。天使の軍勢から離れて久しいとはいえ、その事実は揺るぎなく、そして拝命された第四位中将を辞した訳ではないのでしょう。戦いの後、自らが旅団を率いる必要が無いから旅団を解体なさっただけで。

そんな方が、非公式とはいえまた隊を率いることの意味は。

ですが、階級の上の天使の方々の手足である権天使アルケーに、拒否権等ありません。


「ーーー我らの心はいつ如何なる時もしゅの御心と共に御座います。シェズリエル様の御心が主の御心と共にあるのでしたら、我らに何の躊躇いが御座いましょう」


「良いだろう」


にやり、と唇の端だけを吊り上げて、シェズリエル様が満足げに笑われた。そのシェズリエル様の微笑みに、えも言われぬ恐怖を感じました。背中に大きな氷を突っ込まれた様に、ぞくぞくと悪寒が止まりません。

・・・間違った選択をしたわけでは無いのに、何か、盛大に選択を誤ったような。


「これからお前達は、極秘任務についてもらう。内容は、とある女性の護衛だ」


ああ、やはり何か不穏な気配が致します。






※※※※※






・・・・・・やはりと申しますか、相当な厄介事でございました。

シェズリエル様より支給された白い仮面の下でうっすら遠い眼をしながら、痛む筈のない胃が何かを切々と訴えてくるような気が致します。

天使の軍勢の引き継ぎと転居の時間の為、三日間の猶予を頂きました。これからは戦いではなく、護衛任務に付くので一応スタンダードな物を揃えましたが、充分かどうか怪しいところです。護衛任務の研修は受けましたが、極秘任務となると何が必要か分かり兼ねましたので。失礼ながらシェズリエル様に何が必要かお伺いしましたら、特殊な物は全て揃えて頂けるとのことでしたので、必要最低限の支度を整えて再びシェズリエル様の宮を訪れました。

念のため、再び自分の下についたツヴァイヘンとフランベルジェの支度も確認しておいて良かった、と付け加えておきます。分かっていた事ですが、この二人にも護衛任務経験はありませんでしたから。


「護衛任務中は必ずコレを付ける様に。基本的に割り当てた私室以外では外すな」


渡されたのは、磁器のような質感の白い仮面でした。目元を覆うだけの物ですが、視界が悪くなるのは・・・と思っていたら、横にいる二人も似た様な反応をしております。


「ソレはあくまで防具だ。視界は妨げないから安心して付けてくれ。まぁ、眼鏡のようなものとでも思ってくれれば良い。私も赴くときは付ける」


そこまで言われては付けない訳にはいきません。念のため軽く目元に当ててみれば、確かに視界の妨げにはなりません。それどころか視力の強化の術式に、強力な眼の保護術式が施されております。権天使アルケーではまず使えないタイプの術式です。

・・・このような術式を惜しげも無くお使いになられるとは、一体どのような女性の護衛を任されることになるのでしょうか。


ああ、胃に続いて頭からもなにやら訴えられて参りました。

シェズリエル様に薬を処方して頂けますでしょうか・・・



主人公の後ろにくっついてる護衛のうちの一人です。

さらに言うなら第一話の冒頭に出てきてたあの護衛君です。一応。


頭脳労働を遠慮なく部下に押し付けられ、

上司シェズリエルからは「コイツは権天使の割に使える」とロックオンされた不憫君。

頭脳派ぶってるけど面倒になったら再教育(物理)に走るタイプ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ