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5/《天上界》って結構・・・全体的に、残念?

白衣から散歩の許可を貰えたので、朝食を食べた後と、昼食を食べた後の二回、館の中や庭を散歩することが習慣になった。だって今まで暇だったから仕方ない。

散歩の許可が降りた翌日は、身の回りの世話をしてくれる女性二人のうち、小柄な方の人が館の中を案内してくれた。白衣と同じ仮面をしているが、見たところ、中学生か高校生ぐらいに見える。もう一人の女性は大体二十歳ぐらいに見える、ナイスバディなお姉さんである。見る限り小柄な方の人が仕事に慣れているのか、お姉さんに指示を出していた。ナイスバディなお姉さんのほうが小柄な方の人を立てている、というにも見える。確かめる術はないのでどうしようもないが。

館の中の案内、と言っても館の中に対して何かがある訳ではない。案内も、私が行っても良いところに限定された。館の大きさの割に広い図書室に、ガラス張りのサロン、庭へ通じるドアのある通路等である。基本的に部屋から出るときは後ろに護衛だと言うのが二人付いて来るから、迷子の心配は無い。迷ったなーと思うと、どこからともなく護衛のどっちかが現れて案内してくれる。

文字とか大丈夫なんだろうかと思ったが、ここにある本は全て日本語に変換されているから読む分には問題ないとのこと。いやはやありがたい。この調子で紙とペンを貰えないだろうか。そうしたらもうちょっと意思疎通がスムーズに行えるのではと思ったが、流石に日本語の読み書きは出来ないらしい。この辺りは白衣に先に釘を刺された。変換するのは出来ても、読めないし書けないらしい。《天上界》の文字を見せてもらったがあれだ、ヘブライ語とかラテン語とか、あんな感じの言葉だった。

ちなみに置いてある本はこの《天上界》の本が半分、元いた世界、地球の文学作品関係が半分の割合だった。

これで暇が潰せる!と勢い込んで《天上界》の本を読みあさり、何故か独学で色々と勉強をしている。いやだって、なんで文学作品なの。古い書き言葉は読みにくいんだけど。


気の向くまま読んでいったら、この《天上界》は、しゅという唯一絶対の神を頂点に、天使と元人間で構成されているらしい。地球のキリスト教やユダヤ教の世界感が混ざっている様な感じだ。どちらかというと《天上界》イコール天国な感じなのか。《元聖アーキサンク》っていう、元聖人様や元聖女様もいらっしゃるとか。日本人の感覚としてだけれど、死後の世界という括りなら間違ってない気がする。

自分は極々普通の一日本国民なので、基本は日本神道になるのだろうが、信仰心ははっきり言って薄い。自覚する様な信仰心は持ち合わせていない。神社仏閣やらにお参りに行くこともあったが、それは信仰心ではなくて、その神社仏閣の文化に対する礼儀のような感覚だ。神社仏閣が観光地と化しているのだから、そこに信仰心ははっきり言って無い。が、八百万の神々に対する信仰の根深さ、もとい考え方は凄いと思う。米粒一粒に七人の神様がいるとか、山にも川にも岩にも食器にも神様がいると考えて大切にしてきた日本人の感性は非常におおらかだと思う。基本的に耳慣れない宗教やら神話にも、まぁ、土地が違えばそんな神様もいるよね、で済ます国民性は得難い。いやそんな国民性持ってるのは日本ぐらいだ。多分。

そんな日本人だから、キリスト教もユダヤ教も馴染みが薄い。商業的にクリスマスやらバレンタインは日本の年間行事となっているが、そこに宗教的なナニかを見出している訳ではない。どちらかというとサブカルチャーのネタとしてのほうが馴染みがあるかもしれないとか、何か間違えてるとしか思えないけれど。


日本人の宗教観はさておき、図書室ではブルカを脱げない為、えっちらおっちら本を自室に持って行って読む日々である。多少は白衣に頼んで外を見易くしてもらえたが、それでも本を読めるレベルかと言われると否だ。私の視力が落ちる。やっぱり脱いだ方が見易い。今のところブルカを脱いで良いのは自室とお手洗いと風呂場だけと決められている。イスラムの一部の女性はこんなものを付けて生活しているとか、本当に尊敬する。いや、彼女達は外に出るときしか付けないと聞いたことがある。あの下けっこう際どいミニワンピとか着てるぞーとか、何か聞いた事がある。噂だから本当かどうか知らないけど。

ただこれだけ肌を露出しないことに慣れるとショートとかミニとか、ノースリーブとか着れなくなりそうだ。ここに居る限りは着させてもらえるとは思えないけど。ただでさえ喉を通るかどうかは置いといてご飯は美味しいから肥えそう。


今日も昨日部屋に持って行った本を手に、とことこ歩いて図書室へ向かった。

《天上界》の仕組みについては何となく分かったが、今日の目的の本の目星は付けてある。

そのタイトルは『完全保存版!!美麗絵画で贈る《天上界》人気ランキング100』。

・・・《天上界》も以外に俗な本があるんデスネ、としか思いようがなかった。でも気になる。

あれか、アイドル写真集とかそういうノリですかね。天使は基本的に金髪碧眼らしいから、自分に区別が出来るのかっていうのが一番の疑問だけれども。しかし自分の会える相手の顔ですらマトモに見た事がないのだが。


が、もしかしたらあの白衣が載ってるかもしれない。後ろに居る筈の護衛とか、あの女官さん達もいるかも。素顔が、ひょっとしたら名前も分かるかもしれない。あの仮面を付けた状態から判別がつくかどうかも怪しいが。恐いもの見たさが勝り、えっちらおっちらとでかい本を抱えて部屋に戻った。しかし大きい。紙一枚がA3ぐらいあって、それが両開き。百人分とあって厚さもかなりある。しかも革張りの表紙に四隅は金具で補強されている装丁は、たしかに完全保存版だ。ナニコレそこらの百科事典より重いんじゃないのか。抱えるには大き過ぎて、テーブルの上でないと読めない。


頑張って抱えて部屋まで戻り、朝食が片付けられた机の上に本を置いた。ブルカを適当に脱いで椅子に掛け、ついでに手袋も取った。さっそく椅子に腰掛け、革張りの表紙を開く。

一番始めのページには、載っている順でその天使の名前と、階級が書かれている。見慣れない名前だが、読める。どんな天使様がいるんだろう、ちょっとわくわくする。

載っているのは、見開きの半分にまるまるその天使の絵。写真っぽいが、イラストだ。どちらかというとポスターに近い。もう半分にはその天使のプロフィールと、ちょっとしたインタビュー記事。このランキングに載っている天使には共通で聞いたらしい、質問事項は全て同じだ。

後はスペースによって小さなイラストだったり、その天使の趣味関係が載っていたりする。

アイドルの公式ファンブックみたい。以外に人間と変わらないなーと思う情報が色々載っていた。


おお、正統派の金髪碧眼の天使様がいるーキラキラだー、やっぱうん、天使って言えばコレだよね。・・・やっぱりむきむき系は少ないなー、いや外見のおっさん率が低いのか?もしくはコレに載ってないだけ?護衛ですって紹介された中に、確か一人だけちょっと年上に見える人がいたし・・・年齢的には三十代前半ぐらいまでで成長が止まるらしいし、ってオイなんか美少年がいる、なんだろう、美少年なんだけど、中身は男前なプロフィールだな。・・・・・・おお、宝塚の男役みたいな女性の天使もいる、うん、かっこいい。男装の麗人はどこでも人気なのか。うわー・・・天使でも趣味・料理とかありなのか、いや自分もご飯食べてるから、作る人がいるのは間違いないんだけど。それでもこう・・・天使が料理、なにそれシュール。一体ナニ作ってるんだろう。おお、天使でも赤毛とかいるんだなー、珍しい。銀髪の天使も何人かいたけど、やっぱ金から金茶系が一番多いってあったし。その中で赤毛とか、すっごい目立つだろうなぁー・・・。うお、一番怒らせたらいけない天使?また物騒なこと言われてる天使がいる、外見はまだこの中ではフツーに見えるけど・・・え、武闘派の残念な美女?それって外見詐欺じゃ・・・。うわぁ、聖人って何かおじいちゃんとか、そういうイメージあったけど意外に若い・・・。てか聖女の方々が美少女美女過ぎる。うーむ、神様って面食いなのだろうか。

ぱらぱらとページをめくりながら、キャッチフレーズの如く載っている謳い文句に目を通す。


(何だろう・・・《天上界》って結構・・・全体的に、残念?)


もしくは目立つような天使はどこかぶっ飛んでるか、究極的な奇人変人なのか、凄まじいギャップがあるのかのどれかなのか。

しかし現在の状態では、確かめる術は無いな、と思いながら本を閉じた。

取り敢えずぱらぱら見る限り白衣を見付けるは出来なかった。載っていないのだろうか?




※※※※※※




昼食を食べ、午後は運動代わりに庭の散策をする。ついでに午前中で読み終わっていたら図書室に返してから散策だが、今日は置いて来た。

この館の庭自体はイングリッシュガーデンのような、公園のような庭である。正面玄関には綺麗に整えられた花壇があり、裏に回ると池や東屋がある。白衣から「あまり広くはありませんが、気晴らしにはなるでしょう」と言われたが、まだ上限の柵にはお目に掛かっていない。

ブルカを被っているので、ゆっくりてくてく歩くぐらいしか出来ないがそれでも部屋に軟禁されているよりマシだ。

庭に出る様になってからは、ティータイムを東屋や、ピクニックのようにシートを敷いて行う様にもなった。ブルカを被っていても食べ易いようにか、飲み物にはストローが付いているし、お菓子も一口で食べられるものばかりである。相変わらず女官の方々は準備と案内だけして直に行ってしまうが。

でも準備をしてくれたのに手を付けないのも申し訳ないので、少しは手を伸ばすようにした。

スイーツの誘惑に負けた訳ではない。うん。


「ああ、こちらにいらっしゃいましたか」


東屋で寛いでいたら、そこにひょっこり現れた白衣にはびっくりした。いや純粋に。

ブルカの前の布を膝上までたくし上げて、硝子のグラスに入っていたレモンティーをストローでちゅるちゅると吞んでいたが、うっかり落とすところだった。


「・・・心穏やかに過ごせていらっしゃるようで、安心しました」


そう言えば四日後に来るって言っていたことを思い出した。此処では誰かが明日来るよとか今日来るよとか言ってくれないし、カレンダーも無いからすっかり忘れていた。曜日感覚なんてとうの昔に消えている。

すると、すっと手を差し出してきた。


「こちらで脱いで頂く訳には参りませんので、お部屋に戻りましょう」


《珠》の取り出しの為には、ブルカを脱ぐ必要がある。その為だろうとは思ったが、まるっと無視して東屋の椅子をてしてしと叩き、もう一つのグラスにアイスレモンティーを注いだ。

さぁ座れ、お茶に付き合えと無言の訴えに白衣はおとなしく椅子に座った。


「・・・一杯だけですからね」


はぁ、と大きく溜め息を吐く白衣に、さらに焼き菓子が乗せられた皿を目の前に差し出した。無視だ無視。ただでさえ話せないから意思疎通が難しいのだ。図太くなければやってられない。

常に傍いるらしい護衛も女官さん達もほぼ姿を見る事が無いので、どうも見知らぬ場所にいると落ち着かない。誰かいるだけでも随分違うものだ。


「図書室は、如何ですか?好みが分からなかったので、適当に任せたんですが・・・面白いものはありましたか」


大きく頷いた。

あのランキングは楽しかった。天使ってこんなのがいるんだーと思った。


「なら、良かったです」


うっすら口元を綻ばせた白衣に、う、わ、と驚いた。

元々、この白衣は天使らしい容貌をしている。すらりとした体型は細いが、ひ弱な印象は無く、モデルの様に手足が長くスタイルが良い。雑にサイドで一つに纏めている金茶色の髪は緩くうねり、肌は羨ましいぐらい白くて綺麗だ。目元は仮面で見えないが、顎のラインに口元、鼻も綺麗に整っているので、よっぽど酷い眼をしてないかぎり相当な美形なのは間違いない。神から産まれた天使が不細工なわけないとも思うが。

ただ、ほんの僅かでも微笑んだ顔も声も、とんでもなく甘かった。元の世界のアイドルとかとは、まさに次元が違う。仮面を付けていてこれでは、素顔は一体どうなのか。


しかしあのランキングに載っているとしたら誰だろう・・・?

ざっくりとしか見てないが、この特徴的な白衣姿の天使のイラストは無かった。


凝視する視線に気付いたのか、何か付いてますかと聞かれたのでふるふると顔を横に振った。


その後、部屋に戻ってからあのランキングを持ち出したら、初めて見る特大級の笑顔と共にランキングを取り上げられた。仮面は付けてたけど、口元だけは完璧笑顔だった。自分では両手で頑張って抱えていたぐらい大きくて重い百科事典並みの本を、片手でひょいと。その様子にぽかーんとしていたら、口元は笑顔なのに底冷えする声で「一度図書室は中身を確認させて頂きますから、暫くはお部屋でお待ち下さい。女官には適当な本を届けさせますので」と言われ、逆らってはいけないと本能的にこくこくと頷いた。冷気寒い。

白衣はよろしい、と言わんばかりに満足そうに頷き、そのまま《珠》の取り出しにより意識はフェードアウトした。目が覚めたら白衣は居なかった。


あれ、白衣マジで載ってたの?どれなのか全く分からなかったんだけど。



※※※※※

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 美麗イラストは我こそはと思う者が描いて送って主宰者の厳しい選別を受ける。

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 天使から《元聖アーキサンク》まで、話題&人気のある方々の美麗イラスト集

 主宰は《元聖》であり《聖母》と名高いマリア様。

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