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今の話から、数日間は特に何もありませんでした。
ああ、一つだけ変わったことがありましたね。あれから加藤くんが友達を無理矢理連れて、昼休みに屋上に来るようになったんです。加藤くんは同じ話を毎回してきましたけど、僕は聞き流して昼食をとっていましたね。
そのまま何事もなければ良かったんですけど、そんな都合が良いこともありませんでした。
先週の話です。
学内で一つの事件が起こりました。
どんな事件かは詳しく聞いていませんけど、どうやら夜中に窓ガラスが割られていたとか、そんな話でしたよ。
僕は犯人が見つかるとは思ってませんでしたが、次の日、その犯人が見つかったという噂が流れました。
そうです。加藤くんがその犯人だって、皆が噂をしていたんです。
その噂は瞬く間に学校中に広まりました。
そもそも何処から流れた噂なのか、聞いてみるとどうやら裏サイトが出所のようでした。『昨日、加藤が夜中に学校へ入るところを見た』という目撃証言を誰かが裏サイトに書いたようです。
彼はその日に限って家に一人でいたので、自分のアリバイを証明することが出来ませんでした。
でも、彼は言っていました。俺はやってない――俺は知らない――俺はその日は家にいたんだ――ってね。
そこで思い出したかのように、彼が自分のドッペルゲンガーが出たと以前言っていたことが、裏サイトに書き込まれました。
その結果、更に状況は悪くなりました。出たよ加藤の虚言癖――いい加減白状したらどうだよ。ドッペルゲンガーとか馬鹿じゃねえのお前――とか、裏サイトによく書かれていました。実際にも陰でひそひそ、そんな話をしている奴等を僕は見ましたね。
ここまで広まってくると、流石に学校側も見過ごせなくなったみたいです。彼をこっそり呼び出して話をしたようです。
その話の後、彼が僕の所に来ました。
彼は生徒だけでなく教師まで自分を疑っていると嘆いていましたね。それに本当にドッペルゲンガーが出たんじゃないかと疑っていました。
彼は完全に疑心暗鬼を生じていましたよ。
だから僕は彼を励ますためにこんな話をしました。
「この前も言ったけど、こういうことは信じなければいいことなんだよ」
「俺だって信じてるわけじゃねえよ」
「でも君は疑っているだろう? その時点で危ないんだよ。この前は言いそびれたけど、ドッペルゲンガーについて文献にはこう書いてあるんだよ」
ドッペルゲンガーに実際に会った人の話。
最初はあり得ないって信じていなかったが、あることをきっかけにあり得るのかもと疑ってしまった。
疑ってから自身に実害が被ってきて最終的にはドッペルゲンガーに出会って死んでしまう。
「――だから逆説的に考えれば、信じなければドッペルゲンガーという現象は進行しないんだよ。実際に、信じなかった人はドッペルゲンガーに会うこともなかったらしいよ」
「…………」
彼は黙り込む。
僕は続けた。
「よくさ、肝試しに遊び半分でミステリースポットへ行って、実際に怪奇現象にあってしまうなんて話があるよね」
「……それが?」
「これも今回のことと同じでさ。例え遊び半分であったとしても、そういうことを全く信じていなかったとしても、――肝試しに行った時点で、あることを望んでしまう。怪奇現象にあってみたい、と心の隅では考えてしまうんだ。つまりこの場合は望むことであり得るかもしれないと疑ってしまっている。だから、実際に怪奇現象にあってしまうんだよ」
だからさ、信じなければいいんだよ――と、僕は言った。
「…………」
でも、彼は変わらず黙り考え込んでいた。
ここまで言っても、彼を説得することは出来なかったようだ。
……仕方ない。
もう一押ししてみるか。
「君は少し考え過ぎなんだ。ちょっと気分転換でもしてみなよ」
「気分転換なんてする気にならねえよ。それに何をしろって言うんだ。どうせ何をやっていたって、無駄だ。つい考えちまうんだよ。何で俺がこんな目にあってんだって。俺が何か悪いことでもしたのかって。……何が悪かったんだろうな」
「だから考えすぎだって。こういう時は趣味でもなんでもいいから好きなことをやってみればいいんだよ」
「……好きなことか」自分を見下ろして彼は言う。「そういや新作も出てる頃だったな」
「新作?」
「ああ。俺がよく行く店、原宿にあってな。定期的に限定物出すんだよ。この前の服だってそうだったんだぜ」
「へえ」
どうやら彼は自分の服を見ていたようだ。
「まあとにかくさ、買い物や散歩でもしてみなよ。気分転換になるよ」
「ああ、そうだな。そうしてみっかな」
彼は少しだけ微笑みながら言った。
この後、彼は週末に新作の服が出るから買いに行くと言っていました。
で、実際に買いに行ったんです。
そこまでは良かったんですけど、その次の日に彼は――交通事故に遭いました。
どうやら彼はその日、自分のドッペルゲンガーに出会ってしまったらしいです。
いえ、出会ったのではなく、見たというのが正しいですね。遠巻きに後ろ姿を見ただけだったみたいですから。
その後ろ姿を追う内に、気付かず道路に飛び出して――という話だそうですよ。
彼は事故後、『あれは俺だった』、『見た瞬間に分かった』って言っていたらしいです。それに『こんな偶然はあり得ない』とも言っていたようです。自分とまったく同じ服装で同じ髪型だったから、そんな偶然はあり得ないって。
まあ、どう考えても見間違いですよね。
でもどういうわけか、彼は信じてしまった。
結局、彼は今も入院中で、いつも何かに怯えるように錯乱している状態が続いているみたいですよ。




