優しい王様
ブログ掲載していたものを加筆修正しました。
王は国をひいては民を守らなければならない
それが我が魔王家の生き方だ
平和であった国
ところが魔王の持つ強大な力を奪うために隣国が攻めてきた。
隣国は勘違いをしていた。魔王が持つ力は世界を治めることが出来る力なのだと。
しかし魔王はそのような力を持ってはいなかった。
魔王が持つ力は安定と平和を守るものであったのに、隣国は知らなかった。
隣国から攻撃を受け、何ヶ月にも及ぶ戦いに兵士も民もボロボロに傷ついていた
そして、まだ魔王になって年若い王は決断した
(民も兵士も安全なところへ逃がせ)
それが王である俺が腹心の部下に下した内密の命令だった
すべてを腹心の部下に託し、魔王はおとりとして一人城に残った。
城の地下は神殿になっており、そこには必ず逃がさなければならない者が一人残っていた
重たい扉を開ける
石のひんやりとした空間にあり何処か神聖な空気の流れる場所
その中心に彼はいた
本来なら柔らかな光と豊富な水に守られた光の神殿は、その頃の面影も無く
今にも崩れ落ちそうになっていた。
「そなたが最後だな、神官よ」
神官と呼ばれた少年は跪いた。
「魔王…」
神官の一族は成長が魔族より遅いため、少年のような姿をしていても神官は
魔王よりも遥かに年上であった。
そうして、気が遠くなるほど共に国を支え続けた同胞。
「そなたには幼い頃からたくさんの事を教わったな」
この少年の姿をした神官が、魔王としての有り方やその存在について多くの事を
俺は神官から学んだ。俺の父であり先代の魔王のように。
「若き魔王、国の民にはまだ貴方が必要だ」
民を信頼し、民に愛されている王は絶望のふちに立たされてもなお瞳の奥に見える暖かな光を失う事はない。
「そんなことはない、私の民は強く気高い心を持ち他者を温かく包む優しさがある。けっして他者を虐げるような行いはしないだろう。それに…私の民は新たに王を選ぶ。
たとえ王族では無くても。それが…生きていくということだ」
魔王は優しい光を称えていた。
「若き王よ…」
「そうだ、私が王だ。私が民を守り何者にも傷つかせないと誓った
私は民を守る、守り抜いてみせる。だが…たくさんの兵士が傷ついた。たくさんの者たちが泣いたそんな世界はもう厭きた」
俺を守るために死んでいった仲間たち
本当は私より守りたい人が居るはずなのに
守られるべき存在でもあったのに
「私が、民の盾であり矛であるんだ。守る、絶対に守る」
ゴゴゴゴ・ゴゴゴゴ
激しく揺れる振動に地下が絶えられなくなっていた
ここはじきに崩れるだろう。
「魔王、貴方は全てを守るといった。国を捨ててでも
では、全てを守るといった貴方を誰が守ってくれると言うのですか?」
神官の問いかけに、若い魔王は笑った
「誰も、俺を守る必要は無いんだよ」
ゴゴゴゴ・ゴゴゴゴ
二度目の揺れ
敵兵士たちが魔王を探しているのだろう、人の気配がすぐ近くまで来ていた。
「さぁもう時間が無い」
「ならば私も王と供に戦いましょう」
神官の申し出にまだ年若い魔王は笑って横に首を振った
「言った筈だ。誰も必要ないと」
「しかしっ」
「それに、そなたには頼みたいことがある」
魔王は紅色のマントの下から小さいが光り輝くものを取り出した。
「ここに、アディカロナスの冠・アディマリナスの指輪・アディエルヌウスの杖がある。そなたも知っているように、この三つの宝があったからこそ我が国は守られていた。
どうかコレをもって逃げて欲しい」
「なっ!」
魔王の力によって本来の形を失った、この国の至宝。これを輝かせられるのは魔王として魂の資質があるものだけ。魔王によって本来の形を失っていても有り余る光の渦
「奴らは私の命と供にこの宝も狙っている。しかしコレは初代王が国を守り
この国の、しいては世界の平安を保つために造られたもの。そうそう奴らに渡っていいものではない」
「なぜ、腹心の部下殿に託さなかったっ」
魔王から手渡された至宝は、魔王の手を離れると次第に光を失っていった。
「我々はそんな多くのものを守れはしない、あいつらにはもう守るものが充分にある。
これ以上必要ないだろう」
ゴゴゴゴ・ゴゴゴゴ
三度目の揺れ
「さぁ、行け…私も行かなければならない。この宝を託すぞ」
「魔王!」
様々な悪しき力、悪しき意思が年若い魔王を飲み込もうとしていた。
「逃げてくれ、そなたが行ったあとここを封鎖する。出口にはあいつが待っているはずだ…重たいものを託す、すまない、できることなら私の民を導いてやって欲しい」
それでも若き王は笑っていた。
「貴方がそれを望むなら…」
「いつか…本当にいつか、遥か未来に私は必ず宝を受け取りに行く」
「待っています」
魔王は神官が消えるのと同時に重たい扉を封鎖した
神官と魔王の民は遠くから見た
国のあったところが黄金に光り輝き天高くに消えたこと
昔、遥か昔
でもそれほど昔ではないのかもしれない。
本当の事はだれにも分らない。
でも昔、優しい王様がいた。
民を信頼し、民に愛された優しい魔王。
でも本当の事はだれにも分らない。




