番人の最悪
前世の私では考えられないような、立派な豪邸。これまた大きな庭には噴水が設置されていて、回りには真っ赤な薔薇が咲き乱れている。
私は今、インテグリアー家の舞踏会にきていた。
普段は、こんな会に呼ばれない限りドレスの類いは避けてきたのだが、断れ無いのだから仕方がない。
使用人には、適当に、と言って選んで貰ったので文句は
言いたくないが……………うーむ
まぁ、普段の私の服のチョイスから察してくれるだろうと放置しておいのがいけなかったね!
普段の私は、日によるが基本的に露出は控えめで動きやすさを重視して軽装であることが多い。
しかし、今日着ているこの青いドレスは背中が開いている所の話ではない!お尻が出てないか心配な位ザックリで、胸元は一応覆われてはいるものの、肩は丸出し、しかも首から胸の際どい所までシースルーのようなレースになっていて、あれ?これってドレス?布?みたいな
逆に足元は引きずるギリギリまで長くなっていて、せっかく綺麗な青を汚してしまわないか、心配でつい、チラチラ下を確認してしまう。
首もとのレースの上からは、手袋と同じ黒色のチョーカーがつけられていて後ろでリボンになっている。
髪の毛は綺麗に纏めてあって、この家の奥方が好きだという薔薇がドレスに合わせた青色であしらわれている。
この世界では、青い薔薇など珍しく無いのかな?
少なくとも、私は初めて見たけど。
せめて、上になにか羽織ろうとすればメイド達や一緒になって選んでいた執事達の眉が五ミリほど下がる。
脱ぐ→輝く
羽織る→下がる
使用人として主に逆らうつもりは無いのか、口には出さないが、自分達のコーディネートに余程満足しているらしく訴えるような眼差しが辛い。
結局私は負けて羽織るものは何一つ持ってきていない。
もう、いいんだ。あれだけ進めるなら変では無いのだろうし。
舞踏会と言っても、始まったばかりなので主催者達への挨拶の時間で、まだ踊っている人はいない。
参加はしたが、なるべくなら貴族の長話には付き合いたくない。そのため、貴族出身な上に外交担当な為話術の巧みなコンラットをまっているのだ。
しかも、ここの家長やたら私を息子の誰かと結婚させたがる。魔力は子に遺伝するため、理由はわかるが家長自信も狸で食えないロマンスグレー。
無論、一人で挑むなんてごめんだ。
長話になりそうならコンラットを残して、さりげなく離脱、めんどくさい貴族に絡まれたらさりげなくコンラットに押し付け、また離脱。
これを延々繰り返すだけの簡単な作業です。はい
壁にもたれて会場内を見渡す。
壁際には前世なら御馳走が並ぶのだろうが、そこは魔国クオリティー。ワインのように注がれた血に、普通の2倍は大きな金魚鉢のような器に盛られた、青白く光る魂。生肉まである。
ちょっと、お腹も空いてないのにこれらを食べる気にはどうしてもなれない。
ため息をはいて、目線を上げれば
ん?コンラット発見~
回りにはまだ、貴族達がわいてないのを確認して背中を叩いて声をかける。
「おー!ヴイオレじゃねぇ……………………か?」
「何で疑問形?」
コンラットは黙って此方の足元から顔までを流し見た。
「……………流石魔女だな」
「は?理由によっては精神魔法かけて廃人にするわよ」
「ちょ!?違う違う!変な意味じゃねぇって!………綺麗だなと思ってよ、魔女が人間誘惑して騙すってのは間違いじゃねーなって」
……っ、こいつは。
全くよくそんな事恥ずかしげもなくいえるよね!
照れる処か何かしみじみしてるし、こう言うところが、外交向きなんだなと改めて思った。
なんだ、天然か?
「………コンラットも、似合ってるわ。そういうきらびやかなのも、たまにはいいわね」
「おう!サンキューな、ってヴイオレはもう挨拶行ったか?」
「まだよ。コンラットを待ってたの」
ニヤリとすれば、コンラットの表情が歪む。
「俺をまた餌にするつもりだな」
「当・た・り」
はぁ、コンラットは項垂れるが、そんなのは知らんぷりで腕を組む。早くしなさいと目を向ければ諦めたのかコンラットは主催者達の方へ歩き出した。
「おーすげー人が避けて道ができてく」
「そんなに、公爵が怖いのかしら」
「違うだろ。まあ、びびってんのは変わんないがな、着いたぞ」
「?」
いつの間にかインテグリアー家、家長の近くまで来ていたらしく、コンラットの表情がにこやかなものに変わった。
「お久し振りです。今日はお招き頂き光栄です」
「お久し振りですわ」
「おぉ!!コンラット殿にヴイオレちゃん久しいな。今日は息子の為に来てくれたこと嬉しく思うよ。まだ、もう少し経験を積ませようとは思っているが、いずれは公爵位を継がせるつもりなんだ、その時は宜しく頼む。」
えぇ!勿論。所で……………と話を始めた二人に暫くついていたが、長くなりそうなのでさりげなく………
「そうだ!ヴイオレちゃん息子も、もう成人なんだよ。年も近いしぜひ話してみるといい!ね、おーい!!ロッソ!!」
ちょ!!呼ぶな!!
「ロッソ、私がよく話していただろう?公爵のヴイオレちゃんだ。」
どや顔で説明する父親に
紹介された息子のロッソ君、いや、さん??
君って感じじゃないな。美形一族ということでも有名な
インテグリアー家の名に恥じぬ美形ぶり。
白銀色の長髪に涼しげな赤色の瞳、背も高く体も鍛えているのか結構胸板が厚い。
親しみやすい美形のコンラットとは違い、なんというか、彫刻のような美形って感じだ。
同じ年下でも、ミラ君の可愛さには負けるな!なんてどうでもいい事を考えながら当たり障りのない挨拶をするが、返事がない。
「…………?あの」
ピクリ
ちょっと反応をみせたが、相変わらず動かない。
な、なに?そんなに見られると流石に穴開きそうなんですが………
ぐっ!
うおっ!!近づいていた!?
顔近!近いんだけど!
「おい?ロッソ君?ヴイオレが、ど、どうしたのか?」
コンラットが言うとロッソさんはギロリと、何故か一瞬睨み、やっと姿勢を元に戻した。
父親は隣で呆気に取られている。
ロッソ君は、私の両手を自らの両手でぎゅっっと握ると一言、
「ロッソ・インテグリアー…………です」
「えっ、はっヴイオレ・ドッチオーネ、です。」
ばっ!!
ロッソさんは手を放すと早足に何処かにいってしまった。
「…………何だったのかしら」
「さ、さぁな……」
あれが息子さんの、普通なのかとチラリと父親をうかがえば何やら、にやつきながらブツブツ言ってる模様。
コンラットと目で会話。奴も逃げるらしいので、小声で挨拶をしてそうそうに去った。
「天然の次は電波ね?」
「何の話だ?」
わからないならいいのよ。
首をふってから歩き出せば、前を見ていなかったせいか何かにぶつかった衝撃で少しよろけてしまった、
「あっ、ごめんなさ………!!!」
「いえ、此方こそ大丈夫で……………お前!!!」
「「ちっ!!」」
計らずとも、舌打ちがハモって更にお互いのイライラが高まる。
「ヴイオレ・ドッチオーネ……」
「イブリス・ワイズ……」
クソっ!!最悪だ!!
ここで陰険もやし仕事メガネに出くわすとは!
陰険宰相イブリス・ワイズ。名からも分かるように、コンラット・ワイズの双子の弟だ。
思えばイブリスとは最初から印象最悪だった。
前門番を倒し、公爵となった私は当時まだ、幼くそれこそ12才位の見た目であった。
魔族は個人差こそあれど、大体成人くらいで成長が止まる。つまり、正確な年齢こそ孤児だった私にはわからないが、少なくとも成人していなかったのだ。
そして、宰相兄弟はまだ公爵位は次いでおらず、
お父上が宰相をしていた。宰相殿は年の近いだろう私達を会わせようと、私を宰相殿宅に招待したのだが、兄弟は私に興味深々だった。
年は同じ頃だが、言うなれば父親の同僚である私にも、屈託もなく話かけてきたのはコンラット。
警戒心丸出しだったのはイブリス。
イブリスはコンラットとは違い色は白く、髪も長いため顔は似ているものの兄妹のようだった。
そして、私は可愛いものが大好き、もう当時からそうだったのだから病気と言われても、甘んじて受け入れよう、つまり私は最初が肝心だと、ぎゅんぎゅんするドSメーターを抑え、微笑んだ。
「初めまして。ヴイオレ・ドッチオーネです、宜しくね!」
「おう!宜しくな!」
コンラットは、にかっと無邪気に笑った。うん、可愛い
イブリスを見れば
「…………貴女が、公爵?前門番を打ち破った最年少魔女?はっ弱そうですね。」
鼻で笑いやがったのだ。
瞬間、可愛いとか大人気だとか言うものは、私の頭から吹っ飛んだ。
今世の私の人生はまさに谷ばかり、山なんて無かった。孤児ということで、魔力も少ないだろうと侮られた私は散々酷い目にあった。魔王領外のスラム街で暮らしていた私は食料を持っていては襲われ、いや、何も持っていなくてもつい漏らしてしまった魔力に釣られた馬鹿に襲われ…………まあ、返り討ちだけど。
でも、やはり子供、魔力コントロールも未熟なわたしが強い相手に当たれば勝てる筈もなく……
殴られたり、せっかくの食料を奪われるなんてザラだった。
そんな経験から、当時の私は相手に見た目で侮られることが一番嫌いだっのだ。
「……黙れよ、坊っちゃん。お前を魔法で操って一生スカートしか履けないようにしてやろうか?」
これが、奴とのファーストコンタクト
あの後イブリスとガチな取っ組み合いを始め、コンラットが半泣きで止めにかかったが止まる筈もなく、帰宅する頃にはお互い
「ちっ!覚えてろよゴリラ女!」
「はっ!次は泣かす!」
コンラットには、お前イブリスが関係すると性格変わるよな、と言われてしまうほど犬猿の仲だ。
だから、自分のキャラ維持のためにも、こいつには会わないようにしていたのに!!
「貴女もこの夜会に参加しているとは、毎度の如く貴族の責任も忘れ、欠席するのだとばかり思っていましたよ!しかも、そんなにめかし込んで、馬子にも衣装とはこのことですね!遂に婿探しですか?無理じゃないですか?ヴァァカ!!!!」
「あら、ごめんなさ~い!私も貴方に会うなら欠席したのだけど、生憎眼中に無くて予想もつかなかったわ!!それに、もやし仕事マシーンの貴方と違って婿なら選り取りみどりよ、ブオォケ!!」
「もやし仕事マシーン?ふっ!未だに提出する書類に誤字脱字が無くならない貴女から、私への僻みですか?それに選り取りみどり?寝言は寝ていいなさい、精神魔法で操った魔族を婿とは呼べませんよ、いきおくれが!!!」
「そこまで言うなら今すぐ結婚してきましょうか?そうね、貴方のお兄さんを婿にして、義姉になってあげる!貴方は毎日私にイビられながら、「おねぇちゃま」と私をよぶのよ!!このブラコンが!!」
「俺を巻き込むの、やめろ!!」
「「うっさい!!!!」」
はぁ、はぁ、はぁ、
流石に息が切れて、お互い肩で息をしているものの睨みあう、視線は逸らさない。
コンラットも、もうとばっちりは御免だと話には入ってこないようだ。
しゅっしゅっ! 「ひっ!フォーク投げんな!!」
「…………私はもう帰ることにするわ」
「ふん、次は会わないことを祈りますよ」
「無視か!?」
お互いの投げたフォークは残念ながら当たらなかった
ちっっ!!!!!
もう、ファンタジージャンルやめて、この話は恋愛ジャンルにいった方がいいのでは?と思いはじめた今日この頃。突然ジャンル変えちゃうかもしれません
ていうか、途中でジャンル変えられるのかな?