食欲
どうも白髪大魔王です。ちょっと思い付いたのでこういうのを書きました。あまりいい出来では有りませんが、最後までお付き合いお願いいたします。
人間の脳の食欲を司る部分と性欲を司る部分は近い位置にあると聞く。つまり、食欲と性欲は密接した関係にあるということだ。だから好きな人を食べたいと思うのは当たり前だと思う。
そう、当たり前なのだ。
「ただいま」
深夜2時頃、自分の声以外聞こえぬ時間に僕はアパートにたどり着いた。深夜残業は心身共に堪える。お陰で帰る頃には既にへとへとだ。
リビングには1枚の紙が置かれていた。
『お仕事お疲れ様。ご飯冷蔵庫にあるよ』と、御世辞にも上手いとは言えない字で書かれていた。――また拝めるのは寝顔だけか――
小さなアパートで一足先に寝ているのは僕の愛する彼女だ。少し奥を見ると寝ているのが分かる。
僕は彼女を愛してる。彼女も多分僕を愛してる。だからこそ僕たちの関係は2年たった今も続いているのだと思う。僕たちは自他共に認めるおしどり夫婦 ――入籍はしていないが―― だ。
しかしここ最近、すれ違いが増えつつある。今みたいに都合が合わなかったり、つまらないことで口喧嘩したり、付き合いたての頃と比べるとそういう点が目立ってきた。
それでも僕たちは愛しあっている。本当に愛しているのだ。
帰りたくない
それが今の俺の心情だ。今日は家に帰っても彼女がいない。彼女は仕事の都合上、暫く出張するらしい。具体的には明後日まで出張らしい。彼女に会えないのは残念だが、仕事に勤しむ彼女も好きだ。ちょっとくらい、耐えれるさ。
それにしても、最近彼女の出張が増えた気がする。
「ハァー…」
1つ大きな溜め息をつく。こうやってたまっている不満を放出する。
家に帰っても仕方ない。気分転換に少し遠くの店にでも行くか。幸い仕事が早く終わり、今はまだ6時だ。いつもなら9時までも仕事、この前みたいに深夜まで残るのも珍しくない。逆に今日みたいなのが珍しい。
そんな訳で電車で少し行ったあたりの料理店に来てみた。前に彼女が言っていた店だ。色々あって来れなかったから少しドキドキしている。彼女が言っていた店だ、さぞやいい店なのだろう。
お腹減ったな…
そこに入ろうとしたときだった。窓ガラス越しに俺は信じられないものを見た。
彼女が他の男と食事をしていたのだ。
何故ここに彼女がいる。彼女はまだ出張のはずだ。そんなことより一緒にいる男は誰だ!? 俺は知らないぞ。
もしや、浮気!? 彼女が!?
「ハハ、ハハハハ……」
信じられない、彼女が浮気しているだなんて。もしかすると今までの出張も全部嘘で本当はあの男に会っていたのか?
許せない。
彼女は俺だけのものだ。あんな奴なんか彼女に指一本触れることすら許さない。彼女は俺だけのものだ。どんなことがあっても……。
「ただいま」
帰ってきた。予定より1日遅れている。まあいいさ、もう気にもならない。家で飲まず食わずじっとしていると時間感覚も無くなる。
「どうしたの?なんかやつれてない?顔色も悪いし」
僕を心配してくれている。やはり彼女は僕を愛しているのだ。ならば僕も応えないと。
「ねえ、君が会っていたのは誰?」
「えっ……、な、何のことかな…」
目を泳がせながら、右手の人差し指で顎をかいている。彼女が嘘をつくときの癖だ。
「僕はね、あれを見たときからどうしようもない感情に襲われた」
狂ったように愛を囁く。
「君が僕以外の誰かといるのが許せない。君は僕だけのものだ。君に対する愛しさがもう爆発寸前なんだ。僕は君が大好きだ、心の底から大好きだ!! だから…」
そこで一旦区切ってから言った。
「君を食べる」
「へっ……」
彼女が可愛い声を出す。ああ、そんなところも愛しい、食欲をそそる。
「君を僕だけのものにしたい。一緒になりたいと思ったとき、思い付いたんだ。愛しくて愛しくて、君を食べたいんだ」
「……冗談だよね、ねえ、そうなんだよね?」
救いを求めるように彼女は言う。一体何故そんなに怯えているのだろうか?
「僕は本気だよ、本気で君を食べたいんだ。君の全身を感じて、一緒になりたいんだよ。こんなこと当たり前じゃないか。人間の脳の食欲を司る部分と性欲を司る部分は近い位置にあると聞く。ならば愛しい人を食べたいと思うのは極自然なんだよ」
「いや、いや、いやいやいやいやいやああああああ!!」
彼女は叫びながら玄関に向かって走る。が、それよりも早く僕は彼女の腕を掴み逃さない。そのまま力任せに引き寄せる。
これでやっと1つになれる…。
押さえきれない高揚感と共に、美しい彼女を食べた
『次のニュースです。昨日、某県某所で女性の変死体が発見されました。犯人は交際相手の男性とみられ「愛を表した」と供述し、罪を認めています。男は精神に異常があると思われ―――』
余談だが、男性は空腹のとき、女性は満腹のとき性欲が強くなるそうだ。彼も満腹ならこんな事態は避けれたかもしれない。
最後までお付き合い有り難うございます。ちなみに僕はあんな人間ではないはずです。うん。