kiss
「うらあっっ!!!」
勢い任せの攻撃にすんなりかわすケルビム。ただ単に攻撃をするだけではかわされる一方だ。
いくら攻撃しても当たらないのがおち。允騎がとった行動は逃げる。だが、いくら逃げても人間と天使。勝てるはずがない。しかしマリンは対策を考えていた。それは『時間を稼ぐ』ことだ。天界人は長くこの人間界に居ることは出来ない。30分立てば天界へ強制的に帰ると自信満々に言う。
「その前に俺死んじゃうよぉぉぉぉ!!!!」
ギリギリで避けるもたまに髪にかする。
「ほらほらぁ、早く倒さないのぉ〜?」
煽りで允騎を急かすが、そう簡単にいくものでもない。
允騎は剣の刀身を下に向け、一歩、二歩と後ろに下がる。
「怖じ気ついたぁ? あははっ♪」
「……スカーレット──」
そのまま地面に刀身を突き、切り裂くように下から上へと振る。
「イラップシェンッッ!!」
火柱がケルビムを襲う。真っ赤に燃えるケルビムを見て、勝たなくてはいけないのか、と思う允騎であった。
翌日、いつもの朝の光景が目に写る。高校最後の年にも関わらず騒がしい。
朝のホームルームが始まり、皆静かになる。後ろの席の男──氷雨 霞──は允騎の耳元でそっと呟く。
「おい、今日転校生が来るらしいぜ?」
「ふぅん……」
素っ気ない反応だ。何しろ允騎は今日転校生が来る事が分かっていたのだ。その転校生とは──
「允騎ー!」
紹介もしていないのに勝手にクラスのドアから入るマリン。先生もやれやれ、と首を振る。
「ゴホンッ……えぇ、本日このクラスに新しく仲間が増えました。焔 マリンさんです」
昨日の夜。帰り道にマリンから「明日から允騎と学校だーっ!」と、言うから、軽く流した。冗談だと思っていた事がホントに転校してくるとは思わなかっただろう。
「マリンさんは允騎君ん家に住んでいるそうです。確か親戚だったかと……」
「俺の姉みたいなもんだ」
と、適当にホラを吹く允騎。
大体この学校に入るには試験があり、70点以上取らないと編入出来ないのだ。さらに言うと、入学手続きなど行って、編入最低3日は掛かる。色々ツッコミ所が満載だ。
(視線が痛い……)
その視線の正体はクラスの男子であった。
可愛い子が允騎の姉にあたるとなると、殺気どころではない。さらに、実の姉の莎姫も黙っていれば美少女である。二人の美少女に囲まれ、端から見たら両手に花の状態。
「チッ……」
無言でマリンの手を引っ張り、屋上に連れ出す。屋上は誰も使ってない。故に『二人きりの状況は明らかに怪しい』と、なるのだ。
「どうしたの?允騎」
「何でうちの学校にいるんだよ!うちの学校は途中編入が難しいと言われてるんだ。そんな簡単に入れるわけないだろ!」
マリンに詰め寄り、目と目が遇う。もう少しで口が届く距離。
「お、落ち着いて! こーちょーとか言う人に頼んだの! 莎姫からもお願いしてもらったんだ」
顔を赤らめて必死で訴えるマリン。
いつもと違うマリンに気づきもしない允騎はこう言う「邪魔だ」と……
一緒に戦うと言ったが、学校までまとわりつくとは思ってもいなかっただろう。
允騎が「あ」と、自分が言ってしまった事に気が付くまでほんの少し遅かった。
マリンは頬に涙を流しながら屋上を後にする。
午後4時31分。焔家に入る、と勢い良くバットが振りかざされる。
「……姉貴」
「アンタ、マリン泣いて帰ってきたよ。嫌われたって」
「ち、違うっ!俺は別に嫌ってなんか──」
反論の余地も与えず、バットが地面に突き刺さった。
ここまで起こった莎姫は初めてだろう。
「何が違うのよ……ならなんでマリンは泣いてたのよっ!」
「……っ!」
言葉が出ない。莎姫は間違ったこと言っているわけではないのだから……
「黙ってちゃ何も分からない……話しておいで。部屋にいると思うから」
黙ったまま頷き、マリンの部屋に行く。
「……マリン、今日はすまなかった……その、俺が間違ってた……えっと……その……」
しどろもどろしていると、部屋のドアが開き……
「允騎っ!」
口と口が合わさった。