たった一人の家族
午後7時。焔家のリビングに允騎、莎姫、そしてマリンがいる。さきほど戦った近未来の青年、マリンの正体、そして允騎の力。
いまだに敵を裂く感覚が覚えている。喧嘩もしない人がいきなり相手を斬るなんてのは刺激が強すぎるだろう。
「いきなりそんなこと言われても信じる方がスゴいよ。で、うちの允騎をアンタの騎士にするってことかい?」
「……はい」
「ふざけるんじゃないよ!允騎はアタシのたった一人の家族なんだ……得体の知れないもんに渡せるわけないじゃないか! コイツはアタシに対して口も悪い。しょっちゅう喧嘩してるよ……でも、それでもたった一人の家族なんだよ!!」
「姉貴……」
黙り。反論は出来ない。マリンの勝手な事情で允騎を巻き込んで、莎姫の大事な家族と離れさせようとしたのだ。下手に芝居や嘘をつくと追い出されるやもしれない。
「姉貴、俺は大丈夫だから」
「アンタが良くてもアタシが良くないんだよ!」
普段の姉と違い、弟に執着。単に素直になれないだけかもしれない。が、今の莎姫は允騎の心を揺さぶる。
「私の勝手かもしれない。だけど、私はあの闘いで允騎に助けられた。2度も助けられた。だから私は允騎を私の騎士に選んだの」
しばしの沈黙だ。その沈黙に耐えきれなくなった允騎は外へ逃げる。
允騎はいつも嫌なことがあると逃げる癖があるようだ。
「思わず逃げちゃったけど、俺が断れば良かったよね……まあいいか」
商店街へ行くと灯りが消えていた。閉店時間までには早すぎるし、停電にしては回りも暗くなるはずだ。嫌な予感した。また今日のような男が来たらと思うと鳥肌が立ってしまう。
商店街の奥の方から地鳴りがした。急いで向かうと、金髪ツインテールの少女が現れた。
「みぃつけた……ふふっ」
不気味な笑みを浮かべる少女。瞬きをする瞬間、目の前に少女が立っていた。
あまりにも速すぎる。
「うっ……!」
鎌で切り刻まれ、よろめく允騎。
「お前……天使か……」
「せいかぁい。ケルビムよ」
「ならお前を倒す!」
「無理よ〜、あなたみたいな下級の悪魔が私たち上級の天使に叶うはずないじゃなぁい」
「俺は近未来的な武器を持った男を倒した」
「あの子はただの天使わたしは智天使。天使はわたし達の下僕ってこと。天使はあなたと同じぐらいかな〜」
允騎と同じぐらいの階級。つまり一番下だ。
あそこまで強いとなるとケルビムは相当と考えて良いだろう。
「さぁて、あなたには死んでもらいますよ〜」
鎌を上に振りかぶり、允騎の真上に刃物がある。急いで武器を出し守りに入る。
「やりますねぇ〜、でも次は当てるよ〜」
「来いよガキんちょ……」
一旦距離を置き、お互い武器を構える。街灯が消えたら始まりの合図。
ごくりと唾を飲み、街灯が消えた。
最初に動いたのはケルビム。高く上に飛び、允騎に向かって振りかぶる。うまく刃で抑え、払う。しかし、後ろ回し蹴りで允騎の頬に攻撃。
「甘いよ〜」
体勢を立て直す暇を与えず二度蹴り。
「こんな弱いなんてやっぱマリンの見込み違いじゃないの〜?」
ドスッ、ドスッと蹴り続ける。勝てない、一瞬脳裏にそんな言葉が響く。
「これでオ ワ リ ♪」
首に刃を当て、振り上げる。
「そこまでよ!」
聞き慣れた声……マリンだ。
「あらマリン、遅かったじゃない」
莎姫との話が付いたのだろう。
「マ……リン……」
「莎姫と話してきたわ。よろしく、だって」
「姉貴……」
それだけ言って気を失った。あとのことは覚えていない。
「さ、反撃開始よ!」
「おうっ!」