魔狼騎士誕生
午前12時20分。深い青色の髪をした少女が満月を見ていた。爪は鋭く、耳は尖り、その姿はまさに狼。
何を悟ったのか、すぐさま森に逃げる少女。そのすぐ後に近未来的な武器を持った青年が少女を追い掛ける。
青年は少女の腕を光線銃で撃ち、勝ち誇ったように走り去る。そのまま少女は倒れたままであった。
午前5時42分。深紅の髪をした青年が走り慣れた道をいつものように走る。森まで全力ダッシュする途中違和感が感じた。
ふと神社の方を見ると木に寄り掛かった狼がいたのだった。前腕や背中など傷だらけ。
すぐに家に帰り、応急処置をしたがいつ死に至るか分からない。近くの獣医に見てもらい、暫くそこでお世話になるそうだ。
その日、青年は受験の勉強をしていた。
「允騎、アンタ勉強しても意味ないでしょ」
允騎、それが青年の名だ。
「うっせえ馬鹿姉貴。俺はお前と違ってちゃんと学校行ってんだよ」
「姉貴に向かって随分な物言いだなァ弟ォォ!!」
允騎の顔に顔面パンチ。パンチの勢いで吹き飛ぶ。
「弱いよ允騎!」
「さ、さすが元ヤンだ……紅の牙」
「その名を出すなァ!!!アタシは莎姫って名前だ!」
深紅の髪をした姉弟。この家には二人しかいない。と言うのも昔両親は事故で亡くなって姉の莎姫が学校を辞めて引き取ることにした。莎姫は必死でバイトをして弟の允騎を養っているのだ。
「あっ、電話だよ姉貴」
喧嘩の途中で廊下に響き渡る電話の電子音。狼を預けた獣医からだ。
「アンタが預けた狼。逃げ出したって」
「……え?」
「ま、いいんじゃないか?自然に戻るんだから」
「アイツは怪我してんだよ!」
それだけ言って允騎は家を出た。やれやれと言わんばかりに見送る莎姫。
允騎は町中探し回り、ある場所を思い出す。『森』の『神社』だ。
すぐさま狼と出会った場所に移動。
「いたっ!」と声を出したが、近未来的な武器を持った青年と対面していた。
(おいおい、何だよあれは……)
「見付けましたよ。悪魔さん」
「……私は、逃げるわけにはいかないっ!」
キリッと目付きが変わる。だが、允騎はそれどころではない。狼が喋っているのだ。誰でも驚くだろう。
目が離せない状況な上に、足が動かない。
(なんなんだよ……この状況は……)
「君を殺してメビウス様に捧げる。大人しく死んでくれませんか?」
徐々に狼に近づく青年。その時──
光が狼を包む。眩い光に允騎は唖然。
光が消え、允騎が見たものはスレンダーな体型に濃い青色の髪。
人だ。
「人形になってもあなたの力が増した訳ではない」
光で出来た剣で狼を斬る。生々しい声で狼はうつむいた。
「あっけないなぁ」
止めの一撃を刺そうとした。が、狼には傷ひとつない。
代わりに受けたのは允騎であった。
「あなたは……」
「誰ですか、あなたは」
ぐぐっと光の剣を抜いて允騎は言う。
「俺は……単なるお節介野郎だよ!!!」
「人間ごときが……あなたもメビウス様に捧げるモノとして死になさい」
「……モノか、随分な言い方だな。俺はてめぇみたいなヤツが一番嫌いなんだよ! 生きているヤツをモノやらなにやらでまとめやがって……」
「人間のゴミがっ!」
光の剣で允騎の心臓部を一突き。ばたりと倒れ、雨が降る。
「人間が……私たち天人に逆らうからですよ」
狼は允騎の所に行き、治療をする。だが、そんなものでどうにかなるような怪我ではなかった。
「無駄ですよ。あなたみたいな悪魔のしたっぱでは」
「無駄……じゃない。やってみなくちゃ分からない」
「無駄です。彼は死にました」
「私はこの人に救われた。だから私もこの人を救う!」
光が狼と允騎を包む。
「まさか……この下等が魔狼騎士だと言うのかっ!」
魔狼騎士。主に使え、主の為に戦う騎士。
魔狼騎士になるにはただ強いでけではなれない。自分の弱さ、自分の思いも必要なのだ。
光が解け、允騎の姿が聖騎士のような姿で立っている。
「……っと、あれ? 俺なんで生きてんの? って何この格好!?」
「允騎」
呼ばれ振り返ってみればさきほどの狼。
「私の名はマリン。あなたの主よ」
「あ、主? え?」
「説明はあと。早くあの男と戦って!」
マリンに突き出され、青年の前に立つ。
武器も無いのにいきなり戦えはないだろう。
「戦うって……俺喧嘩とかしたことないよ!」
「大丈夫、あなたなら」
何を根拠にそんなことを言うのだろうか。と、疑問している間に敵は目の前。
慌てて敵を殴るがあまり効いてない様子。
「な、なにか武器……」
「允騎!サモン・ブレードって叫んで!」
今は何故と質問している暇はないようだ。すぐさま允騎はサモン・ブレードと叫ぶ。すると、允騎の真下から魔法陣と共に炎でできた大剣が出てきた。
「大剣なんか使えないよ!」
「あなたの頭はこの武器の動きを把握してるはず」
やってみるしかない。まさに一か八かの大勝負だ。
「こんのぉ!」
大振りで隙だらけの攻撃だ。だが、相手は動揺していた。
血しぶきが允騎の顔に跳ねる。
「あっ、あぁ……」
ペタンと尻餅をついてしまった。怖がっているのか緊張が溶けたのか。
「大丈夫、相手は人間じゃない。天使どもさ。だから人殺しにはならない」
暫くの沈黙。
允騎が我に返った時はすでに30分は経っていた。