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勇者がキレた!

作者: こころ

 平和な現代にいた少女は異世界に勇者として召喚された。

長い長い戦いの日々。

平和に慣れ血や戦いに無縁だった少女は、泣きながらも、傷をおいながらも、戦った。

―――愛する者と平和のために。


そんな勇者の戦いの旅ももう終わった。

魔王を封印したのだ。

だがしかし、その代償として世界は大きなものを払った。

 そう、代償は勇者。世界は、大切な勇者を失った。 嘆きに染まりながらも世界は、前に進み出した。



とか、綺麗に纏める気なんだろうね。

事実はもっと残酷なんだよ。

私こと勇者はこの世界に召喚され、王道通り王子と恋に落ちました。ええ、今思うと気がおかしかったのでしょう。あんな金髪碧眼美形王子なんか好きになるわけないんだよ。非現実すぎる。乙女の夢すぎる。あ、鳥肌たってきた。

まぁ、とにかく王子と恋に落ちた私は頑張った。頑張りに頑張った。

そして魔王を封印して浄化したのだ。だがこの浄化が曲者で、時間がかかるわ、世界の狭間にいかないといけないわで大変だった。それでも私はやりとげた!嬉々として仲間や恋人の元へ行った。


そこで見たのは、自分の恋人が見たことがない美少女と抱き合い、笑いあっている姿。

何故、なんで、そんな愛しそうにその女を見るの?私のことが好きなんじゃなかったの?

なんで、どうして、そればかり頭の中をグルグルまわって動けなかった。無意識に転移魔法でかつての魔王城へ行っていた。

泣き喚き、空っぽになった心に生まれたのは、怒り、憎悪。

 そうして、決意しました。

 

 ―――――――――――ぜってぇ、復讐してやる。ぼっこぼこのギッタギタにしてやる。首洗って待ってろよ!!!



 「てな、わけですよ。つーわけで、私のために働けこのヤロウ」

 「……俺に拒否権は?」

 ないと満面の笑顔で言えば、目の前の元魔王は額に手を当てて俯き大きな溜め息を吐いた。

 「瘴気にのまれて理性のかけらもなかったてめぇを、懇切丁寧に浄化して元にもどしてやってあげたんです。私に感謝して奴隷にしてくださいと言うのが普通でしょう。私の手伝いができるのです。喜べ」

 「あー、はいはい。嬉しーよ。だから、その変な口調をやめろ。敬語なのかなんなのかわからないぞ」

 「元魔王の癖になまえきな。しょうがないな。普通にしゃべってやる」

 「フッ、で、どうするんだ?」

 おいこらこのイケメン、無駄にカッコよく微笑むな。ま、失恋と裏切りで傷ついた心には効果ないけど。

 「とりあえず、この世界のことをもっとよく知ること始める。どうやら帰る方法があるっていうのは、あのクソ王子たちのデマぽいし。その後、色々考えて復讐する」

 「まぁ、好きにすればいいさ。俺も暇だからな。――――それにあれだけいろいろ世話になったんだ。礼をしないとな」

 「ふふふふ、この私を怒らせた事後悔させてやる」

 元魔王と勇者が手を結ぶんだ。できないことがあるはずがない。




 

 

 「ふふふふ、あーははは!!ついに!この時がきた!!せいぜい泣き叫べ!!!」

 「おい、その趣味の悪い笑い方はやめろ。品性が疑われるぞ。どこぞの三流悪党のようだ」

 「おかしな事をいわない。私は正真正銘の勇者だよ?悪役?ハッ!」

 「鼻で笑うな。女だろうが」

 とある王国の客室。そこで勇者と元魔王はアホな会話まんざいをしていた。

 黒いローブに白い仮面を付けた勇者は元魔王が言うようにどこぞの悪党のようだ。いや、最初の発言でもうアウトだろう。これが勇者だというのはなにか間違っている気がする。

 そんな2人がいる一室は、かつて彼女(勇者)を召喚した国の一室。裏切られたこの国で彼女は戻ってきた。

 復讐のときが来たのだ。


 あれから1年と少し。

 王子とかつての仲間たちは完全に私を忘れ、幸せに、楽しそうに暮らしていた。

 あ、そうそう、あの美少女は王子と結婚したらしい。しかも二人は私がこちらに召喚される前から仲だったとか。

 そんな彼らに今日は会いにきたのだ。今の私の肩書は前とは違いだいぶ増えた。その肩書の1つを使い会いにきたのだ。

 下準備は完璧。復讐の失敗はありえない。

 メイドの呼ぶ声と共に歩き出し、彼らが待っている部屋に向かい歩き出す。目の前の扉を開けば彼らがいる。興奮で震える手。

 「やるんだろ。頑張れ」

 肩に乗せられた手と声音に自然に力が抜けていく。まったく、元魔王のくせに生意気な。

 手にぐっと力をいれ、扉を開いた。


 「これはこれは真国の王わざわざ出向いていただき感謝する」

 「こちらこそすまないません。理由があり、顔をさらせないのです」

 「いえ、なみなみならぬ事情がおありなのだろう。おお、そうだ。こちらにおる者たちを紹介させてもらおう。これから、長い付き合いになるであろうからな。オーリ」

 「王太子のオーリ・ド・ストラドスです。隣が私の妃のリンセンと申します」

 深い椅子に腰かけている王の隣にいる王子と妃が頭を軽く下げる。

 それに一瞬目を細めるも、視線を王に戻す。本当ならこちらからも何か彼らにいわなけばいけない。けれど、よろしくもしなければましてや長い付き合いにするつもりのない私にとってはどうでもいいことだ。無視したことで彼らの目が剣呑になろうとも、どうでもいいこと。

 「それより、聞きたいことがあるのですが?」

 「……真国は礼儀がなっていないようだな」

 「礼儀を払う必要がないのですから」

 「なっ!貴様!」

 控えている近衛隊が声を上げた。見てみれば、かつての仲間の一人だった騎士。旅の途中で気遣ってくれた姿はそこにはない。視線を引き剥がし目の前の王を睥睨する。

 「貴殿らが1年前に召喚したこの世界の英雄である勇者を裏切り、亡き者にしたとういうのは本当でしょうか。国民間でされている噂は無視できない規模になっている。現にその噂を聞き国に不信感を抱いた者達が集まっているらしいじゃないですか。返答しだいでは我らの国も対応しなければならないので」

 あらあら、みなさん顔色が悪いですよ?ん?妃だけ不思議そうというより怒っている?

 「無礼ですわよ!最近できたばかりの小国が、歴史が長く神聖なわが国を侮辱するなんて!世界が救われたのはどこのおかげだと思っているのです!」

 へぇ、ほんとに知らないんだ。 

 「もちろん、勇者様のお陰だと思っております」

 「その勇者を召喚したのは我が国なのですよ!」

 「おかしなことをおっしゃる。その言い方では、勇者様の功績が全てこの国のものだと言っているように聞こえます。確かに召喚したのはこの国です。ええ、確かに少しの功績はあるかもしれません。しかし、勇者様が成したことは勇者様の功績です。旅の途中で人々の心を救ったのも、魔王を浄化したのも、全て勇者様の功績。あなたがたの国の功績ではありません」

 「なっ!」

 ぷるぷると怒りで震える王太妃を見下げる。この程度の女に私は負けたのか。

 「ストラドス王よ、答えてください」

 「……我らは、勇者を亡きものとなどしていない。勇者は魔王を倒したさいにの衝撃に巻き込まれどこかに消えてしまったのだ」

 「あなた方は助けようとしなかったのですか?異世界からの召喚が可能なのんです。勇者様を探すことはできたように思えるのですが」

 「……それは」

 「考えなかった、と。それとあなた方は勇者様を害していない、そうおっしゃるのですね?」

 「そうだ」

 「……そうですか。ああ!安心してください。あの噂は間違いのようですから。だって勇者様は生きてこの世界で過ごしているんですから」 

 「……なに?」

 「次元の狭間から御帰還されたのですよ。よかったですね」

 絶句している面々に優しく微笑む。

 「でも、おかしいんですよ。勇者様が言うにはあなた方に裏切られたと。そう、おっしゃっているのですよ」

 何故でしょうね?と首を傾げながら言うと、王子が唇を震わせ声をあげた。

 「彼女は、今、どこに」

 「我が国のことをどこまであなたがたは知っているのでしょうか。1年ほどまえに建国した我が国は虐げられた獣人やエルフやドワーフを迎え入れ、戦争や魔王の影響で孤児になった子供を受け入れできている国です。その大きさは大国も無視できないほどになりました」

 「それが、なんだというんだ!彼女は、どこに」

 「だから言っているでしょう?我が国ができたのは1年ほど前なんです」

 「まさか、そんな」

 「建国者の名前はケイコ。勇者にして現在の王」

 仮面とフードを取れば息をのむ彼ら。

 「ただの小娘だと思っていたんだろ?操るのは簡単だと。優しく微笑めば簡単に堕ちたと。完全に騙されたよ。王子の君に好きだと愛していると言われて浮かれていたあの頃の私は確かにただの小娘だった。でも今は違う。この世界を知った。君達の目的とやって来た事を知った。私は王になったよ。でも、私は負けず嫌いで、根に持つ方なんだ。――――復讐にきたよ」

 黙りこんだ彼らの顔を順々に見ていく。 

 この瞬間を何度も夢に見た。なんども想像した。泣くかもしれないと、昔の思いがじゃまして最後の一手を打てないかもしれないと悩み不安だった。でも、杞憂だったらしい。彼らの目を顔を見ても、負の感情を向けられようがおかしなほどなんとも思えなかった。

 何かわめいている彼らに現実をプレゼンとしよう。

 「噂はただの種火。もともとあった不満は爆発した。反乱軍はもうこの城に到着するだろう。安心していい。次の王は君達よりよほど適任な有能な人達がやるから。ああ、王族特有の魔法や魔力は封じさせて貰ったよ。城のみんなはもう2度魔法は使えない。無駄な抵抗せずに捕まるんだね。もう君達は英雄を害した立派な悪として世界に知れ渡っている。逃げ場なんてないよ」

 縋るように私の名前を呼び、何かを言い募っている彼らに一言告げずっと後ろで見守ってくれていた元魔王を連れてこの部屋を出ようと扉を開いた。

 「待て!待ってくれ!俺を愛していると言っていただろう!?俺も愛しているから!だから!!」

 最後まで耳触りで不快ことを言う王子に見せつけるように元魔王の襟元を掴みキスをした。

 「悪いけど、私が愛してるのはコイツなの。君達のことなんて、もうこれぽっちも思ってないよ」

 呆然としてる元魔王の手を引き自分の国へ転移した。

 

 「お、お、おい。い、今の」

 「本当だよ。もう一回告白してくれたら付き合ってあげるヘタレの魔王様」

 「好きだ。この世界の誰よりも愛してる」

 「ふふふ、これからもよろしくね(かわいい魔王様)」









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