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『理想戦争』 ~ビヨンド・ヴィルテリア~  作者: 中上スパ
第3章「推理編①。グレイとウィル、リリアント」
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第21話「追憶リリアント」T

 2月10日。私は、妹エリカと弟メリオンに事情を話した。ヴィクターとアルファンにも同席してもらった。

「では、僕とアルファンはシリカの提案通り、ガイヴ教(きょう)に行ってみようと思う」

「ですわ」

「うん」と私は頷いた。「うちは、自由に出入りしてくれていいから。今日の夜、集合しようね」

 ヴィクターとアルファンは私に別れを言って、リリアント邸を出て行った。彼らには、ガイヴ教が必要だと思うから。

 時刻は朝7時半。気持ちのよい朝日が差すなかで、メリオンがベランダに出る音が聞こえた。彼は敬虔(けいけん)な主の信徒で、朝と夕にはいつもベランダから主に祈りを捧げているのだ。

 目下(もっか)、問題は明らかだ。

 魔法局副局長であるグレイお父様と、エラ中央政府の高官であるウィルお父様。どちらが本当の『お父様』なのか?

 メリオン、エリカ、マリカ、イリカの4人には、それとなくお父様の話題を振ってみた。が、全員が全員どちらのお父様もお父様と信じ切っていて、父親が2人いるということに全く疑問をもっていないみたいだった。まるで、昨日までの私のように。

 ヴィクターとアルファンと話しあった結果、私の言った通りあの兄妹2人はガイヴ教に行くことに、そして私自身はまだ魔法局員なのだから、副局長であるグレイお父様のところに直接行ってみることになった。時間があれば、エラ城に行ってウィルお父様の方にも行ってみようと思う。

 リビングで着替えながら魔法局に向かう準備を進めていると、後ろからエリカに話しかけられた。

「ねえ、シルねえ」

「なあに、エリカ。学校の準備、マルとイルはできてるの?」

「うん。私が手伝って、もう後は行くだけだよ」

「さすが。偉いわ、シル」

「シルねえ。あのね。気付いちゃったの、私。シルねえさ、今から魔法局に行くんでしょ? それって……グレイお父様のところに行くってこと?」

「えっ。エル……気付いた?」

「うん。おかしいよね。お父様が、ふたりって」

「すごい。よく気付いたわね。やっぱり、精神系の魔法なのかな」

「だとしたら……すごく怖いね。マルも、気付くかも」

 精神系の魔法の効果の話をするときに出てくることが多いのが『魔法力勝負』という言葉だ。魔法使いと、魔法を受ける相手の魔法力を比較して、魔法使いの魔法力が強い場合は、魔法がよく効くことが多い。逆の場合は、エリカみたいに、自分でその魔法が解けることがある。私達家族の中で魔法の才能があるのは、エリカとマリカだった。

「そうだよね。だって……誰かが、直接私達に魔法をかけたってことだもんね。気付かないうちに……」

「うん。シルねえ、あのね、あのね……見て欲しい、記憶があるの」

「えっ? どんな記憶?」

 エリカは、記憶魔法という類(たぐい)まれな魔法を持っている。このまえもマホ局長に使ったけど、自分の記憶をはっきり覚えていられる上に、エリカのタイプでは、人に記憶を共有することもできるのだ。

 そうだ。よく考えてみれば、お父様の問題に気付いたエリカの記憶の中には、どちらが本当のお父様なのかということを特定するためのものがあるに違いなかった。それをエリカは、見せてくれるという。

「手、にぎって。シルねえ」

 差し出されたエリカの手を握る。温かくて、すべすべした子供のだった。突然、目の前が暗くなる。

 ……。

 緑色の粒子が舞う世界。記憶の世界。その中に、私は見た。

『私』(エリカ)は、リリアント邸のリビングの扉の前で聞き耳を立てていた。耳を壁にぴたんとくっつけて、口を両手で覆って静かに息をして、音が漏れないように。『私』の視界の端にある玄関に目を移すと、セリカお母様の靴があって切なくなった。というか、あの靴があるということは、えぇっと……6年くらい前の記憶かな?

「ねえ、みなさま」と、リビングの中から声が聞こえる。セリカお母様の声だ! 「うちの夫は……だいじょうぶですか」

「ええ」と、誰か知らない男の人の声。「あの方は、たいへん勇敢な方で、ヴェイルと相棒のようにやっておりますよ。ご心配でしょう、シリカ様」

「そうですね……。でも、パテルさんとマテルさんって、頼もしいですから。安心しています」

 こんどは知らない女の人の声が、「まあ」と言って笑う。「セリカ様には頭が上がりません。セリカ様がこんなに素敵だから、あの人も、ああなんでしょうね」

「ふふ。あの人ったら、『ああ』ですよね。ふふ」

 セリカお赤様の笑い声。懐かしい。なんだか気付かなかったけれど、私の笑い方といっしょだなあ。3人で喋っているみたい。パテルって言う男の人と、マテルっていう女の人が、この扉の先にいるんだな。

「ねえ、おふたりさん、お庭をご覧になったでしょう?」

「はい、セリカ様」

「こっちにね、見ていただきたいものがあるのです」

 やばい、こっちに来る! そう思った『私』の記憶は、そこで途切れた。

 ふうっと息が詰まって、緑色の粒子が目と耳に飛びこんでくる。パァンと何かが弾けると、私は私に戻っていた。ここは、2222年の、おうちのリビングだ。

「エリカ。……ありがとう、見せてくれて。セリカお母様、懐かしいね」

「ね。私ね、シルねえになりたいんだ」

「え? なあに、急に、エル」

 エリカは私の手を離して、くしゃっと笑って見せた。

「シルねえと、いっしょだよ。シルねえってさ、セルお母さんになろうとしてるでしょ」

「……え?」

 びっくりした。賢いエリカなら、なにを考えていても驚かないけれど……エリカが何を言いたいかが分かって、私の胸に熱いものがこみ上げる。エリカが引っ込めたちいさな手を、私は追うように掴んで、想いをこめて包み込んだ。

「うん。あたりだよ。エリカ、よく分かるわね」

「分かるよ。だって、シルねえ、セルお母様とおんなじなんだもん。おんなじみたいに笑って、おんなじみたいに、私たち家族のために、尽くしてくれてるでしょ?」

「ふふ。そうかもね」

「だからね、こんどは私が、シルねえみたいになるの。そうして2年後にはマルが私と同じ年齢になって、また同じことが続いていくんだよ」

「うん。そうなったら、素敵なことなのかもしれないわ」

「そう。……だからね。シルねえ。……ぶじに、戻ってきてね」

 私はエリカを抱きしめた。さらさらの髪を撫でて、ありがとう、と呟いた。エルも優しく抱き返してくれる。

 エリカはもしかしたら、私なんかよりも遥かに大人かもしれないと思う。まだこの子、12歳なのよ。12歳だよ? お勉強も学年でいちばんだし、なんていい子なんだろう。年相応なはずのメリオンやマリカが赤ちゃんに見えちゃうわ。

「じゃあ、エル。みんなを学校に連れて行って、お手伝いもさせて、みんなで過ごしてられるかな」

「うん。だいじょうぶだよ。でもね、すぐに帰ってきてね。みんな、寂しがるから」

「うん、ゼッタイすぐ帰るよ。1か月も2か月もなんて、いなくならないからね」

「わかった。……じゃあ、行ってらっしゃい、シルねえ」

 行ってきます。ちゃんと私はエルの目を見て、はっきりそう言った。そうして、メリオン、マリカ、イリカとも簡単に話をして、家を出る。よかった。今日も言えた。

 私は、ノヴァにありがとうって言えなかった。最初に言えなかったら、いつまでも言えなかった。私は、そういうのが苦手なんだと思う。だから私はあれから、そういう挨拶はもちろん、自分の気持ちを、思ったとき、伝えたいときにすぐに伝えるように気を付けていた。

 これから、私は自分の父親が誰なのか、突き止めないといけない。怖いことも、つらいこともあるかもしれない。憧れだったノヴァを失ったときのように、親友だったジェイルが失踪したときのように、今は大事だと思っている人をひとり失うことになる。

 でも私は覚悟を決めた。私は、この大事な家族たちを守るために、この子たちの幸せを守るために、頑張るんだ。たとえエリカが、ほんとうのお父様が、主のもとで私を見ているお母様が私に反対しようとも、私はセラフィタスの仕事をすることを決めた。私は、家族に幸せになってほしかった。

 さて! 魔法局に行かなくちゃ。

 さっき、エリカの記憶の中でヴェイルという名前が出てきたのには驚いた。失踪したジェイルの、お父さんの名前。お隣さんであるセンタネイル家の家督で、魔法局員でもあるおじさんだ。魔法局の中でもエラ城との連携を扱う仕事をしている人。

 あの記憶の中でセリカお母様たちが話していた『あの人』っていうのは、私たちのお父様のことなんだと思う。だとすれば、お父様は、ヴェイルさんと仲が良かったってことだよね。

 魔法局員という意味では副局長であるグレイお父様と仲が良いかもしれない。でも実際にはヴェイルさんは局員よりもエラ城の官僚の人とばっかりお仕事をしていると思うから、エラの高官であるウィルお父様と仲良くしていても不思議じゃない。これだけでは、どちらが本当のお父様なのかは分からないけれど……そうだとしても、すごく大事な情報だとおもう。

 こういう謎解きみたいなのは得意じゃないけど……セラフィタスには私以外にも頭よさそうな人いっぱいいたし、なんとかなるよね。いま私にできるのは、行動することだけだ。

 王様とフィリアは、事情が事情だからセラフィタスに入るというのは強制じゃないという言い方をしていた。でも私にとっては、家族のためなら、セラフィタスに入るという選択肢以外は存在しなかった。それに、私たち以外にも、たくさんの人たちが幸せになれるお手伝いができるのなら、それは、もしかしたら世界でいちばんのやりがいのある仕事かもしれないとも思う。今まではそれが、魔法局でのお仕事だと思っていたけれど。

 ……うん。魔法局に行こう。行かないと始まらない! このときの私はさっきの覚悟に後押しされて、ふんふんと鼻息を荒くして気分よく中央都市を闊歩(かっぽ)していた。まさか、あんなことになるんだとは、予想も予知もできなかったから。

【TOPIC……ヴィルテリア語・文字(子供用)】


文字は5種類の大文字、17種類の子文字から成る。

大文字単体で大音を表すか、5種類の大音と19種類の小音を組み合わせることで使用する。


大文字……a, i, u, e, o

小文字……m, p, n, l, y, t, c, h, s, k, g, z, d, b, v, f, w


大音……a, i, u, e, o

小音……m, p, n, l, y, t, ch, s, c, th, k, g, s, z, t, d, b, v, f, h, w


また、すべての文字にはA種とB種があり、自由に使い分けられる。

A種......A, I, U, E, O, M, P, N, L, Y, T, C, H, S, K, G, Z, D, B, V, F, W

B種......a, i, u, e, o, m, p, n, l, y, t, c, h, s, k, g, z, d, b, v, f, w


言葉の例

 イグニクア        : igunikua

 エラ           : era

 ソテル・ミレカータ    : sotelu milekaatha

 レテア・フォン・プロアミル: lethea fon puloamilu

 ヴィクター・デ・ササラ  : vikutaa de sasara

 アルファン・デ・ササラ  : alufan de sasara

 シリカ・フォン・リリアント: thilica fon lilianto

 エレアナ・スパルフォン  : eleana supalufon

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