第98話 まさかの学園編スタート?
屋敷ができるまで、することの無くなった俺たちは、たまにリリアナ殿下を訪れ様子を見たりしていた。
Aランクのギルド証もすでに受け取っている。シャーリーに見せたらまた目を丸くして、俺たちを尊敬のまなざしで見てくれた。
崇め称えてくれたご褒美にアスカが情報収集してきたいつぞやのカフェ・レストランにまた三人で行って食事をとりデザートをいただいた。
シャーリーを連れて外出するときは乗合馬車に乗るか、箱馬車を利用するのだが、アスカと二人ならば駆けて行った方が格段に速いので、たいていは街中を走っている。そろそろ王都でも俺たちの走りが認知されつつある。
キルンから王都に来る人から広まったらしく、『ショタアスが来た!』とか言われるようになってしまった。自業自得かもしれないが、『キルンのゴリラ男』ことキルンの冒険者ギルドのギルマスには腹が立つ。
最初のうち、俺たちの走りで驚いた人からの苦情が巡回中の警備隊に寄せられていたそうだが、走っている二人がリリアナ殿下を救って最近貴族になった錬金術師だと知れたため、苦情も下火になったそうだ。
ただ、アスカの柿染め色のローブ姿はインパクトがありすぎるので控えるように言われた。そのせいで、王都内にいるときのアスカは、上はゆったり目の白のシャツ、下は膝丈よりやや短めの紺のフレアスカートといった普段着に、双刀をクロスさせて差した剣帯という出で立ちになっている。
ここ数日、王都を巡回する警備隊と出くわすことが多くなった。まさか俺たちのせいじゃないよな?
リリアナ殿下薬物事件の実行犯と思われた侍女、ヨシュア・ハルベールが自害しかけたところを、なんとか俺たちが救ったわけだが、犯行の手口が明らかになっただけでまるで進展はないらしい。いまのところ、ヨシュア・ハルベールに毒薬を届けていた人物の特定を進めているそうだ。その人物は、少なくとも簡単に王宮に出入りできたわけだから、間もなく見つけ出せるのではないかと思う。
実行犯の実家であるハルベール家も家宅捜査されたが、既に当主以下主要な人物は服毒自殺していたそうで、何の証拠も発見できなかったようだ。
それでも身内から犯罪者を出したハルベール伯爵家は、伯爵家として公職からの追放と謹慎が言い渡された。ハルベール家を継ぐ者もなく、居たとしても継ぐ意味もなくなったわけだ。
軽いのか重いのかわからない処分だと思うが、確たる証拠がない以上、いくら身内が重大な犯罪を犯そうがこれ以上の処罰は難しかったらしい。良くも悪くもアデレート王国は法治国家だったということだ。
ヨシュア・ハルベール本人については、王族、しかも王位継承権第一位の王族に対する重大な犯罪を犯していたため、死刑が言い渡される可能性が高かったが、俺がエリクシールを使ってまで助けた命であることが考慮されたらしく、死刑は免れた。結局、彼女は犯罪奴隷に落とされ一生罪を償っていくことになった。通常は鉱山などの過酷な環境の中での重労働が課せられるのだが、彼女の場合は今のところ刑が執行されておらず宙ぶらりんの状態らしい。
薬剤方を務めていたパレアナ・カフカは体調不良を理由に辞任した。そこから先は王家の事情ということで追及できなかったらしい。ここら辺はあとでリーシュ宰相に聞いた。
今の薬剤方はアルマ・ベーアさんが返り咲いた。
一時セントラル港を騒がせた、巨大モンスターによる大波事件は既に収束しているはずだ。こちらについては怖いので確認していない。
ヨシュアが薬物事件の実行犯であったことを知り、リリアナ殿下は大いに悲しんだそうだが、これまで体調不良のため遅れていた王族、しかも現国王の後継者として必要な高等教育を取り返すため勉学に励んでいるうちに見た目だけではあるが乗り越えることができたようだ。
今日も暇だったので、様子見もかねてリリアナ殿下の元にアスカとともに訪れている。われわれが見たところ薬物の痕跡も見受けられず健康そのものに見える。
殿下も俺たちが訪れると家庭教師から一時的にでも解放されるので大変喜んでくれている。俺にとっても美少女との会話はそれなりに楽しい。
王宮の門衛の人へ最初のうちはリーシュ宰相にもらった通行証を見せていたが、そのうち正門前の大通りを人を避けながら驀進してくる俺たちを何度か見ているうちに顔パスになってしまった。それもセキュリティー上どうかと思うが、あの走りができるのは俺たち以外にはいないのも確かなのでそういうものかと思おう。
今は、リリアナ殿下の部屋の前のテラスに置かれた白いテーブルに設えられた椅子に座り、アスカとともに三人でお茶会を楽しんでいる。
……
「……ええ、うちには、シャーリーという孤児奴隷の子がいるんですが、歳はちょうど殿下と同じ十三になります」
「そうなんですか。そのお歳で、孤児奴隷の方の面倒を見ておいでとは、さすがはコダマ子爵です」
「ありがとうございます。それで、その子は家事のほかに読み書きができるようなので、将来的にそれを生かせるような仕事につかせたいなと思っている次第でして」
どこのお父さんだよ。
「シャーリーは計算もそれなりにできます」
おっと、ここでまさかのアスカによるフォロー。アスカは身内と思っている人には優しいよね。
「それで、十三歳くらいの子が勉強できるような学校みたいなものが王都にはないかと思ってるんですが。あれば、その学校にやってその子の才能を伸ばしてやりたいんです。孤児奴隷から解放したあと、自分の好きな道を歩んでほしいですから」
「そこまで孤児奴隷のシャーリーさんのことをお考えとは。やはりお優しい方なのですね」
尊敬の眼差しっていうのこれ。シャーリーで見慣れてはいても、ここまでの美少女にこんな目を向けられると男子高校生は守備範囲を拡げちゃうよ?
「どこか、良いところをご存じありませんか?」
アスカに聞くなり、商業ギルドのリスト理事長辺りに聞けば早いのだろうけど、美少女との会話は楽しいからね。
「そうですね、私はこの王宮から物心ついて以来出たことが有りませんので侍女達から聞いた話ですが、……」
王宮から出たことないってそれマジ? 殿下の話、たまに重くなるよ。
「……侍女達から聞いた話ですが、王都にはセントラル大学という大きな王立大学があってその下に付属校が何校かあるそうなんです。その付属校についてお調べになって、シャーリーさんに合っていそうな学校を選ぶのはどうでしょうか」
「私も不勉強で、そういった知識は持ち合わせていなかったんですが、良いことをお聞きしました」
ほう、付属校か。何か頭よさそうな響きがあっていいな。シャーリーの制服姿も見てみたいし。
「さっそく調べてみて、よさそうならシャーリーの意向を確かめたうえで学校に行かせたいです」
それから、しばらくリリアナ殿下と楽しくお話をし、王宮を辞した。王女殿下も息抜きになってよかったろう。
今俺とアスカは『ナイツオブダイヤモンド』に戻り、シャーリーも呼んでリビングでくつろいでいる。
「シャーリー。突然だが、学校に行ってみる気はないか?」
「ご主人さま、どうされたのですか?」
「マスターは、お前の将来のために学校に行くのが役に立つと考えている。私も同意見だ」
アスカうまい。
「俺たちは、新しい屋敷ができるまでここにいる予定だが、シャーリーもここでは時間を持て余すだろ。それに新しい屋敷だと広すぎてシャーリー一人ではまわらないから新しい人も雇う必要があるからな。
新しい人たちの監督をさせてもいいけどシャーリーはまだ若いから監督しづらいだろうし。そのくらいなら、シャーリーが学校で勉強して、将来コダマ子爵家とエンダー子爵家を支える人になってもらいたいのさ」
「分かりました。ご主人さまとアスカさんのために頑張ります。ですが、私はどのような学校があるかは全然わからないのですが」
「アスカさん、お願いします」
何でも知ってるアスカなら何とか答えてくれるだろ。
「マスター、私は何でもは知りません。知っている範囲のことしか知りませんので」
でも知ってるんでしょ?
「シャーリー、私の知っている範囲だが、王都には……」




