第466話 宝物
俺は『魔界ゲート』については、やらかしてしまった手前もあり、常々《つねづね》気にはかけているのだが、自分からその話題について積極的には触れないようにしているので詳しいことは分からない。ただ新しい砦の建設も順調だということはなんとなく聞こえてきている。良かった良かった。
騎士団がベルガーさんのお姉さんのアデラさんに魔導砲の改良のための研究を委託していたところなどは、ちゃんと組織として動いているのだなあと感心する。やみくもに武器を振り回すのが騎士団ではない。こういったところにも合理的なものの考え方がされているということだ。
ベルガーさん姉妹がうちにお礼に来た翌日。
俺とアスカの王宮出仕の日だ。今日はアスカが教師をできないのでマーサが朝から六人の面倒を見てくれることになっている。
王宮に到着して、俺たちにあてがわれた部屋に入り、しばらくしたら、俺担当のいつもの宰相の秘書の人がやって来て、
「パルゴールより手紙が届いています」
受け取った手紙の封印は丸に六芒星。いつか見たパルゴール帝国のものだった。
開けてみると、思った通り、アリシア陛下の戴冠式へ俺とアスカに出席してほしいとの招待状だった。式は二カ月半後の予定となっている
王都からパルゴールの都のハムネアまで陸路では二カ月はかかるということだが、リーシュ宰相の依頼で、『スカイ・レイ』でリリアナ殿下を連れて行かなくてはならない。五日前ぐらいに出発すれば、帝都観光もできるだろうと、殿下との昼食を共にしたときにそう説明したところ、リーシュ宰相からもその話を聞いていたらしく、その線でお願いしますと了承してもらった。
『スカイ・レイ』でも片道十時間。それなりに時間がかかる。『スカイ・レイ』は飛空艇の最初の型で、今のボルツンシリーズと比べ速度などが劣っているので、そのうち改修して高速化したいところだ。俺の場合は燃費などは気にする必要がないので、そのうち、アデラさんに新機軸的な魔導加速器でも開発してもらって、一気にレベルアップしたいところではある。
王宮では、休みの日に見学に行って考えていたセントラル港の浚渫についてのレポートを書いてみた。でき上ったらリーシュ宰相に提出しようと思うが、まだ未完だ。
それ以外は特段変わったことも無くその日の出仕は終わった。
帰りの馬車の中でアスカに、
「王宮に通っているだけで、俸給をいただけるのはありがたいよな。屋敷の居間でアスカと駄弁っているのが、王宮の中に変わっただけだものな」
「国としては、わずかなお金でマスターを近くに置いておけるのですから、仕事などを押し付けてくることはないでしょう」
「そういうふうに割り切って物事を考えれば気楽でいいものな。うちの国でも、国会議員は中身が有ろうがなかろうが当選回数だけで優劣が決まるらしいから、俺もこのまま王宮勤めを永いことやっていけば偉くなれるのかな?」
「今のようにこれといった仕事のない状態ですと失敗はありません。官僚組織内は減点方式ですから失敗がなければ必然的に上に上がっていきます。マスターは今のところ官僚組織に組み込まれているわけではありませんが、このままだと上に上がっていくのでしょう。
とはいうものの、数年後にはリリアナ殿下が即位するのでしょうしマスターはその前には、殿下の補佐役に就任するのでしょうから、そうなればかなり忙しくなると思います」
「その時はよろしくな」
「もちろんです」
「今月の予定で残っているのは、月末の冒険者学校の卒業実習旅行くらいだな」
「その前に、今週末はラッティーの友だちがやってきます。みんな保護者の許可が出たと言っていましたから、四人がうちでお泊りということになります」
「なんだか、賑やかになってきたな。最初は、キルンで俺とアスカ、次にシャーリー、そしてヒギンスさんの四人だったが、随分前のことのような気がする」
「それは、濃い時間、いいかえれば情報量の多い時間を過ごしたということでしょう」
「それは言えるな。この前はドラゴンの墓場のようなものも発見したし、まだまだ見たことも無いような凄いところがこの世界にはたくさんあるんだろうな」
「そのうち、二人で世界を巡ってみましょう」
「そうだな、家のことはシャーリーたちに任せて、何年もかけて世界を巡ってみるのも面白そうだよな」
「そういった不思議情報を集めることができれば無駄なく世界を巡れるのでしょうが、今のところそういった情報を私は掴んでいません」
「時間はたくさんあるわけだし、そういった無駄もあってもいいんじゃないか?」
「マスター。マスターの時間は私の時間と比べて限りがあり、決して時間はたくさんあるわけではないので無駄にはできません。私にとって数十年程度の年月は誤差のようなものですが、マスターとこれから先数十年間一緒にいる時間は私にとって宝物になると思います」
「そうか、俺と一緒にいた時間がアスカの宝物か。そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
そして、週末。
ラッティーの友だち四人が、シャーリーたちを迎えに行ったうちの馬車に一緒に乗って付属校から直接やってきた。狭くなってしまったが客室にはベッドを五つ入れてある。やって来たのはいずれも女の子だった。着替えなども持参しているようで、みんな学校のカバンの他、手提げ袋を持っていた。
「こんにちは。お邪魔しまーす」
玄関先で迎えた俺とアスカに、ラッティーの友達から挨拶されたので、
「こんにちは。ゆっくりしていってくれ」
「はい!」
元気があってよろしい。
「わー、これが置時計。わたしは初めて見た」
「これって、王都にまだ十台もないものなんでしょ? すごーい」
「私は遠くからは見たこと有るけどこんな近くで見たのは初めて。ラッティーちゃんのおうちはお金持ちなのね」
「ここはわたしのおうちじゃなくて、ショウタさんのおうち。うちはアトレアって言ってたでしょ」
「そうだった。忘れてた」
……。
女三人寄れば姦しいとは言うが、五人もいると五月の蠅になるんだ。




