第4話 収納
そんなこんなで、召喚されてから数日が経った。
今日の座学はおじいちゃん先生。マーロンという名のどこぞのお偉い魔術師の学者さまだそうな。三人組は座学には出なくてよくなったようだ。というより、講師の先生たちが匙を投げたらしい。授業中、つまらなそうにあくびはする。私語はする。俺が講師ならとっくにたたき出してやったはずだ。いや、物理的にできないけどね。
「収納士ですか? そういった職業は初めて耳にしますが、おそらくアイテムバッグがなくとも収納が出来る職業なのでしょう」。とマーロン先生。
逆に言えばアイテムバッグがあれば不要な職業なんですね。そうですか。
俺だって、収納士という職業については、当然すごく気になっていた。
「アイテムバッグ!」
「アイテムボックス!」
「アイテムバッグオープン!」
「アイテムボックスオープン!」
などと、自室でテーブルの上のコップを手に持ち、大きな声を上げているところを、食事を運んできてくれた侍女の人に見られてからは部屋での自主練は控えている。ノックぐらいしてくれよ。男子高校生特有の取り込み中だったらどうするんだよ。
何? ノックはしたけど返事がなかったので仕方なく入りました。そうでしたか。気付かなくて、すみませんでした。
「アイテムバッグと同じようにペンを持ったまま『収納!』と唱えてみてください。それで、今お持ちのペンが収納できると思います」
「『収納!』 わっ! ペンが消えた」
「無事収納できたようですな。それでしたら、先ほどのペンを思い浮かべながら『排出!』と唱えてください」
「『排出!』… 」
ポロッ! 右手の脇に急にペンが現れて取り落としてしまった。
「おそらくですが、今のように『収納』、『排出』を繰り返し練習していけば、他の職業と同じように職業の熟練度が上がり、大きなものや重いものが自由に出し入れできるようになるのではと愚考いたします。午後からでも、さっそくお試しください。ただ、アイテムバッグでも『収納』、『排出』にはそれなりのMPを消費しますから、その範囲までしか練習できません」
午後になり『収納』、『排出』を練習するため中庭っぽいところに侍女の人に連れて行ってもらった。勇者さまご一行の三人組はそれぞれ表の広場で武術や魔術の特訓を受けてるらしい。
ありがたいことに、講師の先生たちも侍女の人も、騎士の人たちもみな俺に対しては親切だ。鎧を着た騎士の人たちは実は美少女殿下づきの近衛騎士で、それなりに偉い人たちだったようだ。
どうも、あの三人組、特に勇者の行状がすこぶる悪いらしい。
その反動でか、俺が戦力外だったにもかかわらず、みんなが俺に非常に親切に接してくれているように思う。ここで働いている人たちには気の毒だが、あいつらには間接的にだが感謝だな。口先だけだけどね。
中庭の真ん中には丸い庭石が鎮座しているので、それを収納して、出してを繰り返し練習するようにとマーロン先生に言われている。
目の前に置いてある庭石に手を触れ、『収納!』と唱える。そして、目の前の庭石が収納されるとそれを今度は、収納した庭石を思い浮かべながら『排出!』と唱える。そうすると最初の場所に庭石が現れる。
ただこれをひたすら繰り返す。そのうち『収納!』、『排出!』と口で唱えるのが面倒なので、口に出さずに頭の中で唱えるようにしてみたら、同じように収納、排出が出来た。
繰り返していくうちに、さらに慣れてきたようで、庭石に手をあて、
「1」と数える。そうすると、庭石が消えてしばらくするとまた現れる。
「2」同じように、庭石が消えてすぐに現れる。
「3、4、……」。まさに作業だ。
「……、99、100」
……。
これで800回かな、いや、900回だったか。もう何が何だか。
そうこうしていると、庭石に手を触れなくても収納できることに気が付いた。
「1、2、3、……、……、99、100」
どのくらい離れてもいいんだろう? そう思って、ちょっとずつ庭石から離れて収納を試みる。
一歩、OK
二歩、これもOK
三歩、これもOK
四歩、これはNG
今のところ三歩が限度のようだ。ただ、このまま練習を続けていけば、なんとなくもう少し遠くでも収納可能になるような予感がする。
三歩離れたところで、庭石の出し入れを繰り返す俺。
あれ? もう1000回ぐらいは収納してるけどまだまだいけそうだ。アイテムバッグの出し入れにはMPを使うんじゃなかったっけ。俺の収納はそれとは違うのか?
今まで庭石のあった場所にそのまま出していたけど、今だって三歩離れてるところで出し入れしてるんだ、別のところにも出せるんじゃね? そんなことをふと思いついた。
やってみたら出せました。だいたい自分から三歩半ぐらい? その範囲ならどこでも庭石を出せるようだ。
「1、2、3、……、……、99、100」
そろそろ、四歩先に出せるか?
四歩、OK! できました。
五歩はどうだ? おっ! できた。
「1、2、3、……、……、99、100」
「1、2、3、……、……、99、100」
……
だいたいこんなところか。もういい時間だろう。与えられた自室への帰り道が分からないので庭石に腰かけて、ボーとしていたら、侍女の人が呼びに来たので部屋に帰った。
いまさらだが、俺の近眼も直ったらしい。最初のうちは眼鏡を習慣で掛けていたが、どうも目がかすんで見えにくいので度が進んだのかなと思っていたのだが、寝る前に眼鏡を外して目と目の間を揉んでいると、周りがなんとなくよく見える。その日は眼鏡を収納してぐっすり眠った。




