第382話 海水浴5、水泳教室2
「よーし、全員できたようなので、水に慣れるその2、立ったまま海水に顔を浸けたあと、両足を持ち上げて両手で抱き込んで丸くなる。そうやって、海水に浮いて1から10まで数える。
それでは、みんな息を吸ってー、はい、始め!」
海水に顔を浸けて両足を持ち上げ、両手で両足を抱え込んだら体が丸くなり背中だけが海面に出てぷかぷか浮いているのがよくわかる。
1、2、3、……、9、10。
プファー。
「よーし、今回は一度でみんなできた。
次は、今のようにいったん体を丸くして海水に体を浮かした後、両手をまっすぐ前に、両足をまっすぐ後ろに伸ばす。それで10まで数えるぞ。
みんな息を吸って、はい、始め!」
海の中で丸くなり恐る恐る体を伸ばしていく。
水平に体を伸ばしているつもりなのだが、だんだんと足の方が下に下がっていき、とうとう底の砂地に足が着いてしまった。意外と難しい。しかし、俺が今まで持っていた水に対する恐怖心というものは全く感じなかった。アスカのコーチしてもらえば俺でも泳げるようになるかも知れない。
10数えたので立ち上がったら、
「マスター、手足を伸ばすとき背中を少し猫背気味にして、頭を完全に水に沈めてください。そうすれば浮力も大きくなり重心が少し後ろに下がりますから足も浮くようになると思います」
的確な指導だ。
アスカが俺以外に注意やアドバイスをしていないところをみると、みんな一度でうまくできたようだ。ちょっと情けないが、それは仕方ない。
「それでは今のをもう一度。
息を吸ってー、はい、始め!」
先ほどのアスカのアドバイス通りにしたら、足を伸ばしてもちゃんと足が沈んでいくこともなく浮いていることができた。なーんだ。俺もやればできるじゃないか。
「次はいよいよバタ足。脚をこんな風にバタバタ動かす」
アスカがそう言って両手をパタパタ動かしてみせる。
「こつは足の表側に水の力を感じるようにバタバタさせること。うまくバタ足すれば、体が前に進むのでその感覚を早く覚えるように」
「それでは、先ほどの浮かんで手足を伸ばすから、続けてバタ足。息を吸ってー、はい」
ゆっくり海中で手足を前後に伸ばして、それから足をばたつかせる。アスカが言っていたように、上から下に足を動かすときに、足の表側に水の抵抗を感じるように意識して足を動かす。
意識しすぎたら上半身がおろそかになって、下半身がまた沈んでしまった。
やり直して、もう一度。
手足を伸ばして、そこからバタ足。なんとなく体が前に進んでいる。下に見える海の底の砂地の動きからすると思った以上に進んでいるぞ。もしかして俺は生れてはじめて自力で泳いでる?
俺のステータスのおかげなのだと思うけれど、海の中で長い間目を開けていても痛くならないのはありがたいな。そう思うと今まで底の砂地しか見ていなかったが、水の中でキョロキョロ周りを見回す余裕も出てきた。
海底の砂地の上には、砂色をした小魚がじっとしているのが見えた。俺が近くを通っても、逃げ出さなかった。すれていないというか、怖いものを知らないのだろう。
気にして、海底をよく見れば、似たような小魚がたくさんいた。なんだか、楽しいぞ。
女子たちが俺と同じように手足を伸ばしてバタ足をしているのが見える。残念なことに、水の中なのでかなり澄んだ海水なのだが、裸眼ではぼやけてしまう。これが大人の世界のモザイクってことなのかな。ぼんやりは見えるがはっきりは見えない。そこに風情を感じる。
そう言えば屋敷の風呂場の仕切りもああなってしまったけれど、屋敷を設計したフォレスタルさんの気持ちも今になって思えば十分理解できる。
おっと、俺は何を考えているんだ?
おそらく、今の俺なら10分は息を止めていることができそうだが、あまり水の中でキョロキョロしていると、またアスカに何か言われるので、30秒くらいで止めておこう。
立ち上がって、次のアスカの指示を待つ。
「みんなだいぶ水にも慣れてよくなってきた。次は、手を使って、水をかいていく。こんな感じだ」
アスカが両手を使って、いわゆるクロール的な動きを見せる。
「ここでの注意点は、手のひらはこのように指を閉じて開かない事、水を手のひらでかいて、後ろの方に動かそうとする意識を持つこと。この二つだ。
それじゃあ、やってみよう。息を吸ってー、始め!」
ほう、さっきよりもよほど早く前進する。ここで意識を手だけに集中するんじゃなくて足にも背中にも、体全体を意識する。
おっと!
前を見ることができないので、気付けなかったが、手の先がなにやら柔らかいものに当たってしまった。実際何にあたったのかは判別不能だ。
だが、知らん顔はできまい。紳士は傷口が広がる前に、素直に謝る。
泳ぐのを止めて立ち上がり謝ろうとしたら、当の相手がそのまま泳いで向こうに行ってしまった。ドンマイ。
それじゃあ、もう一度。
バタ足をしながら、手で水をかいていく。こうやってちゃんと成果が出ていると、何だか嬉しい。俺も泳ぎが好きになってきたのかもしれない。
いい気になって泳いでいたら、また誰かの柔らかい部分にあたってしまった。すぐに謝ろうと立ち上がったのだが、相手はさっきと同じようにそのまま向こうに泳いで行ってしまった。ドンマイ。
泳ぎを再開したら、今度は誰にも当たらず泳ぐことができた。
疲れを知らないこの体。以前テレビで見た抜き手のようなものを真似て、さらにスピードアップ。沖に向かってしばらく泳いで、そろそろ息が続かなくなってきたので立ち上がろうと思ったら、足がつかない。
ヤヴィ!
過去の悪夢がフラッシュバックする? あれ? しない。
我慢すればあと、二、三分は息を止めることもできそうだ。岸に向かってUターンして、足の着くところまで頑張ろう。
一分ほどそうやって進んでいたら、どうやら足がつきそうなところまで戻ってこれた。
プファー!
なんとかなった。もう一度頭を水につけてみんなの方に戻っていく。
「マスターは一体どこまで泳いで行くのかと見ていましたが、あまり勝手な行動を取らないでください」
おっしゃる通りです。
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