第360話 中央庁舎潜入、救出
今回は、「残酷描写あり」です。書いてる人が書いてる人なので、そこまでではないと思いますが念のため
中央庁舎という名前ではあっても元は帝宮。星明りだけの暗がりではあるがアデレードの王宮と比べてもこちらの方が大きいようだし、石を多用しているせいか全体的に重厚に見え荘厳さのようなものがある。
今俺たちは建物前の石畳の広場のような場所にいるわけだが、クエストマーカーは目的地に近づいて、いつもの位置から少しずつ下がってきている。ということはソニアさんは地下にいるようだ。ここで、地下牢という言葉を思い出してしまった。その可能性は高いと思う。
「アスカ、今何時だ?」
「午前3時15分です」
今の季節、夜明けが5時頃だとするとあと1時間もしないうちに夜も白み始める。
建物正面の石段を上がった先の金属製の大扉は閉め切られているし、またどこか適当な壁をぶち抜く必要があるようだ。
ミニマップで壁の向こう側の気配を確認しながら、建物の壁際に回り込んで、いつもの方法で適当な壁をくり抜いて屋内に侵入後、元に戻してやる。
侵入した先は広々としたホールの隅だった。倹約しているのか灯りがところどころにしか点いていないので、ホールの広さをカバーしきれていない。これなら見回りが来ても音を立てずに暗がりを移動すれば見つかることはまずなさそうだ。
クエストマーカーの指し示す方向をみると、ホールの奥の方に二階へつながる大きな階段があり、その脇に幅の狭まった下へ向かう階段があった。
「あの階段から下りてみよう」
「はい」
二人組の見回りが通り過ぎたすきに、暗がりから音を立てないように階段まで急ぐ。
階段を下りると、地下階はその階だけでなく階段はその先も続いていた。そこから先の階段はさらに細く、下を覗いても照明など何もないらしく真っ暗で先は見えない。クエストマーカーはまだ少し下を向いているのでソニアさんはこの階段を下りて行った先にいるようだ。
さすがに照明がないと真っ暗なので、指先ライターで足元を照らしながらゆっくり階段を下りる。段差のあまりない階段だったが100段以上あったので20メートルは高低差があったようだ。
階段はこの階で終わった。ようやくこの階で、マーカーがいつもの高さに戻ったので、ソニアさんはこの階にいるはずだ。
先ほどの地下一階は普通の石組みの建物の一部に見える造りをしていたが、ここ地下二階では、岩盤を掘りっぱなしのかなり細い坑道が階段を下りたところからまっすぐ一本先に延びている。坑木などの支保が全くないので崩落の危険があると思うが、よほどしっかりした岩盤なのか、崩落してもいいと思っているのか。
指先ライターでは5メートル程度しか先は見えないのでその坑道がどれほど続いているのかは分からない。
ミニマップ上には50メートルくらい先に黄色い点が一つ見える。マーカーの方向と一致しているようなので、その黄色い点がソニアさんにちがいない。
今は夜明け前だが、夜が明けたとしても、こんな地下では光は射さないだろう。やはり、ここは牢獄の可能性が高い。
細い坑道を進んでいくと、何だかひどく嫌な臭いが漂ってきた。腐敗臭と汚物の臭いだ。
「マスター」
先を行くアスカが振り返り、指先ライターの黄色い明かりの中で俺の顔を見る。
「大丈夫だ。急ごう」
急いで進んでいくと坑道の左右の壁に、木製の扉が並んでいるのが見えてきた。臭いはかなりきつくなってきている。
手前から3つ目の扉の先にソニアさんがいるようだ。今気づいたが、ミニマップ上の黄色い点はかなり小さい。
扉は鍵がかかっているようで取っ手を引いても押しても扉は開かなかった。
「アスカ、頼む」
異臭はやはりこの扉から漂ってきている。
「はい」
アスカが扉の蝶番を切断して、ゆっくり扉を押しながら横にずらした。
そのとたん、むせ返るような異臭が鼻を突いた。
指先ファイヤーで照らされた扉の先は、幅2メートルほどのかなり狭い部屋で、その部屋の一番奥に何かいる。近寄って確認すると、骸骨のようにやつれた人物が辛うじて床に倒れ込まない位置で、両手を鎖のつながった枷で引き上げられていた。下着のようなものは着けていたが、どす黒く変色した皮膚と同じ色をしていた。
垂れ流しになった汚物の臭いと、腐った肉の臭いがないまぜになって、頭がくらくらしてしまった。
「マスター、ソニアさんです。見たところ、両手首の腱と足の後ろ、アキレス腱が切られています。息はまだありますが、危険です」
「分かっている。『万能薬』ではなく効きの速い『エリクシール』を飲ませよう。
アスカ、飲ませてやってくれるか?」
「はい」
指先ライターを点けておくわけにもいかないので、収納から魔導カンテラを取り出して明かりを点けて、『エリクシール』をアスカに渡した。
俺の渡した白く輝くポーション瓶を受け取ったアスカが片手でソニアさんを支え、枷も破壊して両手を自由にした。倒れかかるソニアさんを抱きとめたためアスカの衣服もかなり汚れてしまったが今はそれどころではない。
アスカが、支えたソニアさんを仰向けにしたところ、傷跡のある額の下に両目は無かった。耳と鼻もそぎ落とされてしまっているようだ。
シワシワになったソニアさんの口元を何とか開けて、アスカが『エリクシール』を少し流し込んだ。しばらく薬が喉を通るのを待ち、その後、残りの『エリクシール』を流し込む。
「鼓動も少しずつ大きく、強くなってきました。呼吸も安定しています」
外面的には、額の傷は瞬く間になくなり、しわだらけの体に張りが戻ってきた。耳や鼻の部位も肉が盛り上がってきた。一番心配だった穴の空いた目元も少しずつ盛り上がってきている。
これなら何とかなる。死んでさえいなければ『エリクシール』は【あらゆるものを癒す】
この異臭では脱出中おそらく見回りに見つかるだろうし、本人に意識が戻ればかなり嫌なものだろう。アスカも汚れてしまっているので可哀そうだ。
時間的にはまだ余裕がある。
「アスカ、ソニアさんの体に貼りついている布を取り払って、体を水で洗おう。アスカも今着ている服を着替えた方がいいだろ?」
「そうですね」
アスカの前に、水樽を二樽と、タオルを数枚出してやった。
アスカは、一度ソニアさんを汚れていない床まで運んでそこに寝かせ、慎重にソニアさんの体にくっ付いていた布切れを引きはがしていく。その過程で内部から肉が再生してきたのか、腐って異臭を放っていた部位なども剥がれ落ちていった。
そのあと、アスカは水を浸したタオルで何回かソニアさんの体を拭いてだいぶ汚れも取れたようなので、きれいな水を最後に体にかけて、乾いたタオルで体を拭いてやった。
その作業の間にもソニアさんのしわだらけ、腐った部位で穴だらけだった体は回復を続け、穴も塞がり張りを取り戻していった。ブラブラしていた両脚も、両手もしっかりしている。ただ、髪の毛にこびりついていて凝固した血はここではきれいに落とすことはできなかった。
「マスター、私も着替えますから、二人分の衣服をお願いします」
マッパになったアスカから汚れた衣服を受け取って収納し、代わりにアスカの衣服を渡し、アスカがそれを着終わったところでソニアさん用の衣服を渡してやった。
アスカの下着も衣服も、もともとアスカのものなので普通仕様なのだが、ソニアさんの下着だけはアスカが選んだハデハデ下着なので、自分で気づいたらビックリすると思う。
ソニアさんに衣服を着せ終えたアスカが、そのまま彼女をお姫さま抱っこして、
「マスター、準備できました」
水樽の一樽はかなり汚れてしまったので、ここに残して捨てることにして、もう一方だけは収納しておいた。
「よし、脱出だ」




