第36話 フレデリカ
例の喫茶店でお勧めのケーキを八個買い、四個ずつ二箱に詰めてもらった。
「フレデリカ姉さん、おはようございます」「おはようございます」
くぐり戸を開けて元気に挨拶。
「ショウタ。朝も早くから何だい?」
「今日は、お金も貯まったんで、フレデリカ姉さんなら上級錬金セットが何とかならないかと。それとこれ、お土産です」
そういって、ケーキの入った手土産を渡す。
「おや、ご丁寧に。ありがと。上級錬金セットはうちにはないけど注文すれば何とかなるよ。そうさね。一月くらい見ておいておくれ。かなり値の張る代物だけど大丈夫かい?」
「大金貨五十枚程度ならなんとか」
「おや、お大尽だね。そんだけあれば結構な錬金セットが手に入るよ。任しときな」
「お願いします。それだけ高額なら、手付みたいなものはいりませんか?」
「ああ、問題ない。ショウタを信じてるさ」
「ありがとうございます。とりあえず、用件は済んだんですが、先日頂いた本の中にあったキュアポーションのレシピが私の知っているレシピと違ったんですが」
「ああ、あれかい。あたしがあんたに上げた方は、少し古臭いレシピなのさ。その代り、今の一般的になってるレシピより効能は高いよ」
「そうなんですね。納得しました。PAポーションの次は、そのキュアポーションに挑戦しようと思うんですが、どうも素材がここらで手に入らないんですよ」
「だろうね。欲しいんだったら、錬金セットと一緒に注文しとこうか? あれは、そんなに高いもんじゃないから安心しな」
「ポーションで百本できるくらいでお願いします」
「任せな」
「よろしくお願いします。ところで、フレデリカ姉さん。前から不思議に思ってたんですけど」
「何だい?」
「どうして、フレデリカ姉さんは、魔法で見た目を変えてるんですか?」
「ど、どうして、おまえさんに分かるんだい!?」
ばあさんがキョドった。
「いえ、なんだか、フレデリカ姉さんの周りに不自然に魔力が漂ってまして、時折、姿がダブって見えるんですよね」
「あんた、魔力が見えるのかい?」
「ええ、アスカも見えるようですよ」
「見えてるんなら、薄気味悪いだろう、姿形を誤魔化してる相手は」
「いえ、フレデリカ姉さんが、私たちに悪意のないことはわかりますから。そこは気になりませんよ。それより何か事情があるのかと」
「そうかい。あんたは、優しいんだね。何、大した事情じゃないんだ。ちょっと待ってな、いま、偽装魔法を解くから」
「……」
「ビックリしたろ。これがあたしのほんとの姿だ」
フレデリカ姉さん、ヒロイン枠、決定か?
そこには、色白のスレンダー、超美形、耳が横に長く、おそらくはエルフの姿があった。
銀色の髪の上の緑色の石をあつらえた金色の髪飾りが素敵だ。髪飾りは蝶の羽の片側をかたどったもののようだ。
目線を下げたところで、エルフはやっぱり残念胸が標準なのかなどと妙に納得してしまった。
「あんた、今失礼なこと考えてなかったかい。ま、見ての通りあたしはエルフなのさ。事情があって、森から出て人の社会に溶け込もうとしたんだけど、どうもこの姿のせいで、馴染めなくてね。それで魔法で見た目を人間にしてたわけさ」
「そうだったんですか。やっぱり、フレデリカ姉さんがヒロイン枠だったんですね」
「何言ってるんだかわかんないけど、もういいかい?」
「踏み込んだことをお聞きしますが、森から出た事情っていうのは何だったんですか? もしよろしければ」
「ああ、別に隠すようなことじゃない。あたしたちの住んでた村に、ドラゴンがやって来たのさ。それで、みんなばらばら。あたしはこういった魔法が得意だったから生き延びられたのかもしれないね。あたしの家族も死んじまったんじゃないかな。もう、三十年も前のことなのに何の音沙汰もないからね」
「そうだったんですね。もし、その住んでいるところを襲ったというドラゴンまだいるなら、かたき討ちしたいですか?」
「そりゃ、できるもんならしたいさ。それとドラゴンはまだそこに住み着いているみたいだね」
「わかりました。その場所を教えてください。われわれが何とかしましょう」
「何とかって?」
「もちろんドラゴンを見つけたら斃すんですよ。安心してください。私とアスカは結構強いですから」
「よくわかんないけど、どうしてそこまでしてくれるんだい」
「そりゃ、フレデリカ姉さんに恩を売るのと、ドラゴンの素材をゲットするためですよ」
「分かったよ。はーー。あたしたちの住んでいた村はこっちで言うところの大森林。その真ん中あたりだ。北から南に流れる2本の河が合わさる場所にあったんだ。この街の東を流れるユリア河に沿って下っていけばわかると思うよ。ドラゴンのせいで、この国から船で、南の海に出ることが出来ないんだ。そういうわけで、もしドラゴンを斃せたら、国から莫大な報奨金が出るかも知れないね」
「ありがとうございます。私たちを信用して話してくれて。とにかく何とかしますから安心して吉報を待っててください」
「気を付けるんだよ」
「それでは失礼します」「します」
アスカ、挨拶を略すなよ。
「アスカ、ああは言ったけど、ドラゴン大丈夫だよな?」
「先日も申し上げましたが、上位種ならば、力の差を理解できますから問題有りませんし、力の差が理解できないようなドラゴンはそもそも相手になりません。どちらにしてもドラゴン程度、何の問題もありません。マスターの言葉を借りればメクソ、ハナクソです」
ひっどいこというなー。ドラゴンかわいそうだよ。
「道順だけど、街道を大森林の中ほどまで下っていって、そこから森の中を東へ河にぶつかるまでいけばいいだろ。そのうち、クエストマーカーがでるかも知れんし。あれ? もう出てた」
「私たちの駆け足で街道を行けば大体時速二十キロですから、大森林の中ほどまで三百キロとして十五時間。それから森に入って、百キロ程度移動すると考えると、時速十キロと考え十時間。移動に片道二十五時間どうしてもかかります。マスターの睡眠などを考慮しますと、往復で四日は必要かと。その間、ヒギンスさんに、シャーリーの面倒を見ていただくことを提案します」
「そうだな。ヒギンスさんには泊まり込んでもらえばいいか」
「私の部屋を使っていただければよろしいかと思います」
「わかった。それで行こう」
その日、ドラゴンのことはぼかしてヒギンスさんに事情を説明し、泊まり込みでシャーリーの面倒を見てくれるようお願いした。快く了承してもらえたので、その日の午後は野営用品やでき合いの料理などを買い揃えることにした。
準備を整えて迎えた次の日の朝。
キルン迷宮に行く前に、宮殿の倉庫で収納したままになっていた予備の水樽を五個ばかり台所の邪魔にならない場所に出しておいた。これじゃあ洗い物なんかに使ったら足りないと思うけど気持ちだけね。
「そういうことなんで、長くて五日になりますが、シャーリーをよろしくお願いします」
「任せてね。それじゃ気を付けて」
迷宮都市キルンの中央通りを南に行くと、南門がある。アスカと俺で最初に街に入るために通った門だ。そこから先は大森林を抜け、南方小国家群へ続く街道が走っている。
街道は、街からしばらくの間石畳で舗装されており、凸凹は多少はあるが、雨の日などもぬかるむこともない。この時代のこの世界にしてはよく整備された道である。行き交う馬車や人も、当然多い。そんな中を、若い男と、そのすぐ後に続く女?の二人連れが駆けていく。
道行く人や馬車にぶつかりそうになっても決してぶつからず器用によけてゆく二人を初めて見る者は目を見張り、キルンでその光景を何度か目にしたことのある者はこう言う。
「ショタアスが来た!!」




