第355話 仕立て屋さん
田舎の案山子に毛の生えたようなマネキンが、ハデハデのパンツやブラを付けている。しかも生地はスケスケだ。夏向きと言っても限度があるだろう。この世界でスケスケの生地などはかなり高級な生地と思うが、こうなってしまうと何か悪夢のような代物が並んでいるように見える。
その先に急いで進むと、ちゃんとした衣装をマネキンが着ていた。今は夏なので、薄物が基本のようだ。マネキンの履くスカートの丈はくるぶしから膝丈くらいのものが並んでいたのだが、その少し先に進むとそこから数体のマネキンのスカートが妙に短くなっている。しかも色合いがハデハデだ。そのマネキンの腰のあたりに『SAY……』とかいうタグが付いている。
そのタグを近寄ってよく見ると『SAYAKA&MOE』と読める。
あれ? どこかで聞いたような。
気になって、同じ系統に思えるハデハデパンツの一角に戻って見ると、同じタグが付いていた。
あの二人、アパレルブランドを立ち上げたのか?
今は王宮で保護されながら訓練を続けているのだろうが、あの二人の生命力というか生活力に感心してしまった。
勇者パーティーの賢者と聖女の二人のプロデュースと思われる妙にハデハデなパンツに見とれていたら、アスカたちが店長さんと一緒に採寸室から出てきたようだ。女性用下着売り場でパンツをしげしげ眺めているところを見られたくはないので、素早く移動して、アスカたちのところに合流した。
「マスター」
「?」
「いえ、何でもありません」
あっ! 『視覚共有』なる言葉が頭の中をよぎっていった。
シャーリーとラッティーも「?」なのでここは流しておけばセーフだろう。
「それでは、ご衣裳の大まかな形と生地をお選びください。ここには成人されたご婦人用の衣装しかありませんが、お嬢さまお二人の体型にお合わせしますので心配ございません」
店長さんがハデハデパンツの前を通って、女性服が飾られた一角に進んでいく。何もこちら側の通路でなくても向こうに行けるだろうに。
ハデハデパンツの前でラッティーが立ち止まり、ジーとその中の一つを眺めているのだが、なんていえばいいのか俺には言葉が見つからない。
「これ、パンツだよね?」
おそらくパンツなんじゃないかな。
「これ、履きづらそうだし、食い込まない?」
俺もそう思う。ラッティー、もうそのくらいにしよ。アスカ、何とかラッティーに言ってくれ。
「ラッティーちゃん、大人になるといろいろなの」
なんだか訳の分かったような分からないような説明をシャーリーがラッティーにしたところ、
「そうなんだ。大人になると丈夫になるんだね」
ラッティーの言う通りなのかもしれないが、何が丈夫になるのかますます訳が分からない。
ラッティーの言葉に俺のPAが容赦なく削られていくんですが。そろそろアスカさん、何とかしてくれよ。
「二人とも早く衣装を選ぶぞ」
アスカの救援でなんとか移動を再開することができた。
「こちらが、最近王都で流行しております、夏向きの衣装になります」
店長さんの指し示したのは、あのブランドだった。流行っているらしい。確かに、俺から見て現代風のファッションに見える。本人たちの好きにさせておけばいいので、口は出さない。
ああでもない、こうでもないと言いながらお嬢さま二人がやっと衣装の形を決めたようだ。二人とも、丈の短いワンピースにしたようだ。新調してでき上った衣装にあの『SAYAKA&MOE』のタグが付いてくるのかどうかは知らないが、あの連中を好意的に見ることなどできないものの、やっていることを否定することもないだろう。
あとは生地選び。店の人が持ってきた生地見本を見ながら、マネキンに当ててみたりしてようやく生地も決まった。でき上がりを土曜の午前中に屋敷まで届けてくれるそうでこれで二人の衣装も片付き安心だ。
ほかに、ブラウスや靴下、靴、その他の小物などを数点買って、勘定を済ませて店を出たら、陽の高さからいっていい時間だった。
「アスカ、今何時だ?」
「11時40分です。そろそろ食事場所を探しましょうか?」
「そうだな。任せるから、このあたりでアスカの知っている店にしよう」
仕立て屋さんを出て、アスカの後に付いて近くのレストランに。
四人なので個室を頼み、案内された部屋で、料理を適当に注文する。
キルンで最初にこういった店の個室に入った時は、結構お高いものなんだと思っていたが、俺も相当裕福になって、このところこういった一過性の出費に対しては何も思わなくなってしまった。いわば庶民感覚をだいぶ忘れてきたようだ。
別に為政者でもないしこれから為政者になるわけでもないので、庶民感覚云々は不要かもしれないが、驕ってしまえば、傍から見て非常にみっともないということは想像できる。特に俺のように努力したわけでもなくたまたま特殊な能力を得て自分が偉くなったと考えるのは、バカ者だ。たまたまの能力とアスカのおかげを噛みしめて、おいしく料理をいただこう。
以前はシャーリーもりすっ子になって口いっぱいに食べ物を頬ばっていたが、今はそんなことも無くなった。少しずつ周囲の目も気にするようになったということだろう。周りを気にする余裕が生まれたと言い換えた方がいいか。
並べられた料理を食べ終え、食後のデザートをいただき少しゆっくりして店を出た。
レストランから、乗り合い馬車の駅はすぐ近くだったので、客待ちをしていた箱馬車に乗って屋敷に帰り、その日の予定は一応終わった。




