第324話 魔道具
アスカが時間があれば午後からフライス盤を作るというので、昼食を食べた俺とアスカはペラに十日後くらいから石炭ゴーレムを二体連れたヘマタイトゴーレムが現れるようになることを告げて冒険者学校をあとにすることにした。
食後時間を置いていなかったので、軽く二人で駆けながら、
「念のために投擲弾を作ってはみたが、生徒たちの動きを見ていると何だか過剰装備だったかもしれないな」
「今のところはその可能性もありますが、持っていれば安心ですから、持たせてもいいでしょう。とりあえず、増産はもう必要なさそうですから、ヨシュアたちに伝えておきましょう」
「そういうことにしておくか。せっかく投擲の訓練までしてるものな。
そうだ、ヨシュアたちで思いついたんだが、魔素貯留器ってあるだろ? あれの大型のものとかあれば買い込んで、それに俺が魔素を供給してやっていつも十分な量の魔素を蓄えておけば、ヨシュアたちがそれを使って『万能薬』を作れないかな?」
「おそらく可能ではないでしょうか。『万能薬』の場合は、エリクシールと違い細かい調整も必要ありませんから、魔素の流入量とドラゴンの血の流入量を調節するような装置があれば連続的かつ大量に『万能薬』が作れると思います。さすがは、マスター、私では到底そのようなことは思いつけませんが、この世界に認められているだけのことはあります」
何だか、妙にアスカが俺を持ち上げるんですが?
「世の中にマスターのファンがただの一人もいなくても私はマスターを信じてますから」
読まれていたようだ。しかし、言い方にトゲがあるな。
つい先日、『万能薬』のあまりの効果の高さにうかつに世には出せないと考えたんだが、作って俺が収納しておく分には問題ないものな。
「ただ、実際にそういった装置を作るとなると、魔素の流入量は魔素貯留器からの配線コードの太さで調節できますから、強さの加減は簡単でしょうが、魔素を魔力に変換して蒸留機に向けて適切に放出する方法がいまのところ私ではわかりません」
「そうなのか。俺の場合、手をかざして、適当に念じているだけで何となく魔力を放出しているんだけどなー」
「ということは、マスターの手のひらが、魔素を魔力に変換する何らかの装置になっているわけですね?」
「そうとも言えるのかな」
「残念でしたね」
「何が?」
「先日、『万能薬』の効能を確認するため、マスターの手を切り落としておけば、切り落とした腕が有効活用できました」
「アスカ、まだそれを言っているのか?」
「冗談はさておき。どうしましょう?」
「魔素が何か意味のあることをこの世界に発現させたものが魔力だというから、そうそう単純ではないよな。やはり魔道具的な物を作る必要があるということだな」
「魔道具ということなら。少し寄り道して、ベルガーさんのところに行ってその辺りの話を聞いてみましょう」
「ベルガーさんのところに行くのはいいが、頼むから、妙な冗談はやめてくれよ」
俺たちはベルガーさんに魔素を魔力に変えて、放出するような魔道具なり、魔法陣に心当たりはないか尋ねようと、王都を南北に走る中央通りから南へ折れて、ベルガーさんの住む一角に向けて駆けて行った。
「ごめんくださーい、ショウタでーす」「ごめんください」
すぐに扉が開いてベルガーさんが顔を出してくれた。
「ショウタさんにアスカさん、こんにちは。それで今日は?」
「こんにちは、ベルガーさん。今日うかがったのは、ベルガーさんに教えていただきたいことがありまして」
「私にわかることでしたら良いんですが。私も今は休憩中ですから、中にお入りください」
案内されて、ベルガーさんの台所兼食堂に通され、椅子に座る。
「お茶の準備をしながらお話をうかがいます。それでどういったお話でしょうか?」
「実は、先ごろ錬金術で、ドラゴンの血を魔力で蒸留して『万能薬』という薬を作ったんですが、その作り方は、蒸留器に入れたドラゴンの血を魔力で蒸留するだけの単純なものでして、これを魔素貯留器からの魔素で私の代わりができないかと思って、ベルガーさんに相談に来ました」
「要するに魔素を魔力に変換してそれを蒸留器に向けると言うことですね?」
「はい」俺の下手な説明でもベルガーさんは理解してくれたようだ。さすがだ。
「魔法陣自体は、魔素を内部で魔力に変換して、その魔力を使ってなにがしかの作用を外界に及ぼしています。通常、変換効率を無視すればでき上る魔力と外界への影響度合いは1対1に対応しており、魔力は全て消費されると考えられています。しかし、私の見立てでは、動作中の魔法陣から若干の魔力は常に外に漏れており、この漏れを抑えれば変換効率は向上し、漏れが多くなれば変換効率は低下すると考えています。
われわれ魔法陣技師は常により同じ魔素量でより大きな影響力を外部に及ぼすものを目指して魔法陣の研究、改善を行っています。先ほどの言い方で言い換えると、より漏れの少ない魔法陣を研究していると言うことになります。
と言うことで、少し邪道かもしれませんが、非常に変換効率の悪いダミーの魔法陣を何個か作成して、それで蒸留装置を囲めば、漏れ出た魔力でドラゴンの血が蒸留できるのではないでしょうか? うん? ドラゴンの血? えーと、あのドラゴンですか?」
ためになる話の最後で、ドラゴンの意味がベルガーさんの脳に到達したようだ。
「以前ドラゴンを何体か採りにいったもので」
「採りに! お二方ともAランクの冒険者だとうかがっていましたがそこまでのものなのですね」
「ドラゴンもただのモンスターですから」
俺の言っていることはおそらくベルガーさんには理解できなかったと思うが、何となくうなずいてくれた。
「そうだ、ベルガーさん、ドラゴンの肉を大量に持っているんで、試しに食べてみませんか?」
「私は小食なもので、遠慮しておきます」
断られてしまった。
「ドラゴンの肉の方はいいとして、魔力が漏れ出る装置というか魔法陣をなんとか作っていただけませんか?」
「それは駆け出しの魔法陣技師見習いに作らせればすぐに作ってしまいそうですが、簡単な魔法陣から効率を上げるための工夫を取り払うだけですからすぐにできます。前後左右を囲めばいいでしょうから四個ほどお作りしましょう。ところで、先ほどのお話にあった蒸留器はどの程度の大きさですか?」
「これが、その蒸留器です」
収納庫のなかから蒸留器を取り出してテーブルの上に置いた。
「そんなには大きくないのですね。この下の溜まりの部分に魔力を当てる感じですね?」
「自分でその作業をするときは、両手を広げて、こんな感じでやってます」
蒸留器の下の溜まり部分に両手をかざして蒸留時のようにして見せた。
「分かりました。明日にでもお屋敷にお届けしましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。それで、代金の方は?」
「もちろん無料で構わないのですが、それではショウタさんが何か言いそうですので、どうしましょう?」
「それでしたら、この『万能薬』をお渡しします。大抵のケガや病気に効くと思います」
光が当たると虹色に輝く『万能薬』を4本、テーブルの上に並べておいた。
「きれい! でも、これってすごく高価なお薬じゃないんですか?」
「売れば高価かもしれませんが、気にせず体に問題が起きたらすぐに飲んでくださいね。『エリクシール』ほどの即効性はありませんが、半日もあれば効果が出ますから」
「半日で効くなら即効性があるのでは?」
「『エリクシール』と比べた場合の即効性ですから。たしかに、『エリクシール』を作るのは面倒なんですが、この『万能薬』は作るのにそれほど手間がかかりませんし、今回作っていただく魔法陣でうまく作業ができるようになればますます簡単に作れるようになります」
そのあと、ベルガーさんの入れてくれたお茶をのんで、しばらくしてお暇した。
次は、いつもの魔道具屋で魔素貯留器をあるだけ買ってしまおう。




