第306話 王都ブレト、ブレト城
モンスター然とした『スカイ・レイ』が空から急に訓練場に下りてきたわけで、一度は武器を向けられ警戒された俺たちだが、エメルダさんの鶴の一声で事なきを得た。
ほんとうなら、俺たちがアデレート王国の貴族であることを示す何かを用意しておけばよかったのだが、そのことは頭になかった。まあ、いまさらだししかたがない。
「至急帰国せよと知らせを受けセントラルより帰国の準備を進めていたところ、こちらのアデレート王国のコダマ子爵さま、エンダー子爵さまのご好意により飛空艇に乗せていただいて、ブレトまで戻ってきました」
「知らぬこととはいえ、失礼いたしましたー!」
「失礼いたしましたー!」
兵士のみんなも訓練が相当行き届いているようで、副騎士団長のアレスさんが頭を下げたのと同時にみんな一斉に頭を下げてきた。
「警戒するのは当然ですので、気にしないでください」
「ありがとうございます」
少しはらはらしたが、何事もなく第一関門を突破できた。関門でもなければ第二があるわけでもないと思うがな。
すぐに後ろの『スカイ・レイ』は収納しておいた。兵士たちは一様に驚いて目を瞠っていたが私語をする者はいなかった。
パトリシアさんが、
「私は先に行って、殿下のご帰還を報せてまいります」そう言って走って行ってしまった。
「それでは、みなさんこちらです」とエメルダさん。
先頭に立ち俺たちを案内するエメルダさんの後をついて歩く俺たち。ブラッキーとホワイティーはエメルダさんとラッティーの代わりにそれぞれ俺とアスカが抱いている。そんな俺たちの両側を兵士たちが護衛する形で王城の方に向かって歩いて行った。ときおり、ブラッキーとホワイティーが「ピーイ、ピーイ」と鳴くのが何だか場違いではあるが、こればかりは仕方がない。
王城にはここから近い裏門の方から入るようだ。
しばらく歩いて裏門の前までやって来た。
「ここから先は、王城警備隊の管轄ですので失礼いたします」
騎士団の面々は王城警備隊たちが現れるまでしばらく待機したあと持ち場に帰って行った。
裏門を入るとその中には、十人ほどの兵士と、黒い制服っぽい服を着た女性を中心に五名ほどの女性たちと、パトリシアさんが俺たちを待っていた。よほど急いで駆けたようで今も息を切らせている。
真ん中に立つ黒い服を着た女性が、
「殿下、お帰りなさいませ。それから、アデレート王国のコダマ子爵閣下、エンダー子爵閣下、それとアトレア王国のリリム殿下、エメルダ殿下を無事お連れ下さり国王にかわりお礼申し上げます」
そういって、深々と頭を下げ、残りの女性たちも頭を下げてきた。パトリシアさんはちゃんと、ラッティーのほんとの名前を覚えていたようだ。
こういったことに慣れていない俺にとってはなかなか面倒な場面なのだが、頭を下げられたままでは非常に居心地が悪いので、
「われわれにとっては、それほどのことでもありませんので頭をお上げください。お役に立ててよかったです」
「ありがとうございます。私は女官長を務めますカテナ・リッターと申します。いちど、お部屋にご案内しますので、そちらでしばらくお寛ぎください。殿下は、イルラさまの元に。パトリシアも殿下とご一緒しなさい。あなたとあなたは、殿下をイルラさまのお部屋にご案内してください」
「それでは、ショウタさん、アスカさん、ラッティーちゃんまた後で」
そう言って、エメルダさんとパトリシアさんは行ってしまった。イルラさまというのがエメルダさんの祖母なのだろう。
残ったリッターさんと二名の女官?の三人に先導されて俺たちは王城の中に案内された。
アデレート王国のセントラルにある王宮は、王宮というだけあって、居住性を中心に考えて造られた建物だと思うが、こちらは王城という名の通り、壁なども大きな石で組まれ、重厚な面もちがあり、縦長の窓が採光のためところどころにあるだけだ。廊下には要所に魔道具の照明が付いてはいるようだが、今はまだ点灯されていない。そのため、言っては悪いがかなり薄暗い。
その暗い廊下の中で、俺とアスカの腕の中の二羽が、「ピーイ、ピーイ」と鳴いている場違い感がスゴイ。
変わった連中だと思われているかもしれないが、女官長のリッターさんたちもそれについては見てみぬふりをしているようで何も言わない。あたりまえか。
通された部屋は、お城の中だけあって、豪華方向ではなく、質実剛健方向でまとめられた部屋だった。
「この部屋の中の物はご自由にお使いくださり、お寛ぎください。今お茶などをお持ちしますので、少々お待ちください」
そう言って、リッターさんたちは戻って行ってしまった。
さっそくさっきの毛布を収納から取り出し、ブラッキーとホワイティーの巣を広めの部屋の真ん中あたり作ってやる。
巣の中に二羽を入れてやり、『スカイ・レイ』のときと同じように、空いたところに水を入れた深皿を置いてやったら、すぐにペチャペチャと水を飲み始めた。よく考えたら、ヒナが直接水場から水を飲むことはあまりないだろうが、この二羽は水の飲み方を知っていたようだ。
しばらく俺たち三人が、グリフォン二羽をかまっていたら、ドアがノックされ、
「失礼します。お茶をお持ちしました」
そう言ってさきほどこの部屋に案内してくれた侍女の片方の人が、ワゴンにお茶を乗せて部屋に入ってきた。
「お茶は、こちらに置いておきます。かわいい、えーと? 鳥さん? ワンちゃん? え? ええっ!」
「えーと、この二羽はグリフォンのヒナなんです。ここに来る途中ワケがあって面倒をみることになってしまって」
「グ、グリフォンなんですか? あの」
「きっとそのグリフォンのヒナなんです。かわいいでしょ?」
「は、はい。すごくかわいいと思います。えーと、それでは失礼します」
侍女の人は何だか急いで部屋を出て行ってしまった。どうしちゃったんだろう?
「まさかグリフォンが怖かったのかな?」
「わかりません。お茶菓子もおいしそうですから、お茶の温かいうちにいただきましょう。ラッティーも」
「そこに手拭き用に濡れタオルがあるから、ちゃんと手を拭いてからな」
テーブルの上に置かれた濡れタオルで手を拭き、
「はい。あっ、このケーキおいしそー」
紅茶でケーキを食べながら、
「一応、たいした問題も起こらずルマーニまでたどり着けたな」
アスカの『何事もなければ』フラグも無事回収できたようでなによりだ。
「亡くなった二匹のグリフォンは可哀そうですが、それでもこの二羽はわれわれが面倒をみてやれるのでグリフォンも安心して逝ったと思います」
「まあ、死んでしまえば安心も何もないとは思うが、とにかくこの二羽は責任をもって育てよう。大きくなったら自然に返してやりたいが、おそらくそれは無理だろな」
「そうですね。しかし、人と会話できるほどの知能があるわけですから、それなりに満足した生活を送れるのではないでしょうか? グリフォンの寿命は相当長いと思いますので、マスターの後も私が面倒を見ますから、自然に返すことができなくても安心してください」
「ずいぶん先の話だけれど、その時はこの二羽のことはよろしくな」




