第243話 船上バーベキュー
「それじゃあ、魚をドンドンさばいていこう」
ということで、このなかで一番力持ちのアスカが、魚が中でピチピチ動いている樽を一つ持ち上げて、第二甲板の厨房に運んでいった。あとは料理の得意なミラに任せておけばいいだろう。
こちらのデッキの上では、バーベキューの準備を始めることにした。その前に、キャビンに入ってもらっていたお客さんたちに、
「これから、バーベキューの準備を始めます。湾内は比較的波も穏やかですのでもう船べりに出ていただいても大丈夫です」
大型のバーベキューコンロをデッキの真ん中に据え、木炭を下に敷き詰めていく。指先ファイヤーと、導火線の点火器を使って何とか木炭に火を点け食油を薄く塗った金網を上に置いて準備は整った。
バーベキューコンロの脇に置いたテーブルには、食材が満載になった大皿や、あらかじめゴーメイさんに作ってもらっていた暖かいスープ類の入った鍋、それにサラダの入ったボウルも並べ、その前に取り皿などを重ねて置いておく。スープの入った鍋は小型の魔導コンロとセットで収納していたので、収納から出しても冷めることはない。
別のテーブルの上には、冷やした飲み物類やグラスなどをどんどん出していき、ほんの数分で準備が整った。
俺が収納からあとからあとから物品を途切れることなく取り出していくものだから、王宮の人たちはまた驚いていたようだ。コダマ子爵閣下はデキる男なのだよ。
バーベキューの調理は、ソフィアが受け持つことになっているので、メイド服の上に白い上っ張り風のエプロンを着けたソフィアがバーベキューコンロの上に食材を並べ始めた。
貝類などは、市場で見た時にはまだ生きたままだったのだが、俺の収納庫に収納することができたので運搬に手間がかからなく大量に買うことができた。
こういったものは、どこの世界でもそんなに変わらないようで、ホタテ、ハマグリ、アワビといった貝がソフィアによってどんどん並べられていく。あとは、肉類と野菜。基本は牛肉だが、俺には何だか分からない肉も数種類あるようだ。貝からあふれ出た汁や、肉汁が炭の上にこぼれていい匂いの煙が上がって食欲をそそる。
野菜は、トウモロコシ、なすび、ジャガ芋、ピーマン、玉ねぎ、キノコ類。人数が人数なので、どんどん網の上に並べてられていく。
ソフィアは食材の火の通り具合をみながら、焼きあがったものをどんどん小皿の上に移していき、シャーリーとラッティーが立食用に並べたテーブルに運んでいく。焼き上がりが早くなってきたところで、王宮からの人たちも手分けをして、どんどん皿がテーブルに運ばれて行った。
「食材は沢山仕入れていますので、どんどん食べてください」
「おいしい。船の上で食べるとまた味が違うのかしら。不思議ね」
「こんなに新鮮な海の魚介類は、私の国では食べることができませんし、セントラルでもなかなか食べることができません」
「喜んでいただいて何よりです」
殿下たちと話していたら、下の厨房から白身魚の刺身が大皿二つに綺麗に盛られて、アスカによって運ばれてきた。どこで習ったのか白身魚の薄造りなのだが、上から見ると、薄緑色の大皿の上に咲いた大きな花のように見える。こういったセンスがミラにあったのには驚いた。
王都ではこういった生魚を食べるときは酢や油に漬けてマリネーにして食べるのが普通なのだそうだが、ショウユを手に入れた以上刺身は必須と俺がゴーメイさんに言って、うちのメニューに加えてもらって以来よく屋敷では食べている。わさびが欲しいのはやまやまだが、残念ながらまだそれらしいものは見つかっていない。仕方ないので、手に入る香草などと一緒に食べてみたところ、それなりにおいしい。
「まあ、きれい。食べてしまうのがもったいないくらい」
「この生の魚はどうやっていただけばいいのかしら?」
「こうやって、この黒く見えるソースを小皿に入れて、少しだけそのソースをつけて食べます」
本当は箸を使って食べる方が食べやすいが、箸を使ったことのない殿下たちには勧められないので、フォークを使って食べ方を実演して見せた。
「それじゃあ、もったいないけど、……、あれ? この魚こりこりして、おいしい。黒いソースも塩味といえば塩味なんだけどなんだか不思議な味」
「付け合わせの香草と一緒に食べてもおいしいですよ」
「……、あら、ほんとにこのお魚とソースに合ってる」
氷を入れたバケツの中のワインやジュースをシャーリーが配って歩く。
氷は、うちで最近購入した魔道具の製氷機で作ったもので、魔道具自体の値段も結構した。魔導加速機を応用したものなので音もうるさく、一般家庭では魔力のコストもバカにならないものなので王都でもほとんど普及していないと聞いている。言ってみればジェットエンジンで冷蔵庫を動かしているようなものなので、なかなか普及はしないだろう。とはいえ、王宮にもあるはずなのでそんなに珍しいものではない。
王宮の人たちも立ち働いてくれるので、そのうちシャーリー、ラッティー二人とも、そういった人たちと和気あいあいと会話を始めたようだ。人見知りしない二人でよかった。
「それで、ショウタさんとアスカさんが、キルンにいて、まだ冒険者ランクもそんなに高くなかったころの話なんですけど、幻獣ヒプチャカメチャチャというおそろしいモンスターを、……」
ここでもあの話が広まってしまうのかと思って聞いていたら、
「そのお話は聞いたことがあります。そのあとはたしか、幻獣ハプチャメチャチャでしたか?」
だそうだ。殿下たちも知っていたようだ。
もはや、アスカのバカ話は全国区になっているようだ。いや、アリシア殿下も知っていたということは、今後大陸中に広まっていく可能性もある。俺とアスカは、この国で伝説の冒険者パーティーになっている可能性も十分ある。
ソフィアはバーベキュー係をしながら適当に小皿の料理をつまんで、ジュースなどを飲んでいるようなので、俺は、小皿に適当に焼けた食材を盛って、それを持って厨房のミラに差し入れにいくことにした。
仕事が一段落して厨房の椅子に座って休憩していたミラに、おいしそうに焼かれたバーベキューの食材を盛った皿を差し出した。
「ミラ、ご苦労さん」
「ショウタさま、わざわざありがとうございます」
「十分食べ物は行き渡っているようだから料理はこのへんにして、しばらくしたらお茶の用意をお願いするから、もう少し頑張ってくれ」
「わかりました」
ミラ、ソフィアの姉妹が真面目な性格の娘たちでほんとに良かった。といっても、ミラは俺より年上なんだけどね。
もう一度、上甲板の後方デッキに戻り、しばらくアスカや殿下たちと話をして、それなりにみんな食事の手が止まったようなので、
「それでは、食後のお茶を用意しますので、キャビンにお入りください」
ぞろぞろと、お客さまたちがキャビンに入っていった。
シャーリーもラッティーも立派なホステス役を務めてくれたようだ。いい経験になったと思う。
そのあと、ミラの準備したお茶にゴーメイさんの作ったお茶菓子が添えられみんなにふるまわれた。
朝から、めまぐるしく『シャーリン』でこれまで経験したことの無いようなことをいろいろ経験した面々は、そろそろ疲れが出て来たようで口数も少なくなって来たようだ。
「それでは、みなさん。そろそろ『シャーリン』を港に向かわせますので到着までお席でおくつろぎください」
一応あいさつをして、舳先の脇から降ろされている錨を船上に手繰り上げ、ブリッジに引き返しているアスカのもとに行った。
「アスカ、そろそろ港に戻ろうか?」
魔導加速器が始動し、『シャーリン』がゆっくり動き始めた。
「了解です。皆さんご満足のようで成功でしたね」
「シャーリーたちにもいい経験になったようだし、『シャーリン』を作って本当に良かったな」
「そうですね。夏になったら『シャーリン』にうちのみんなを乗せて海水浴にでも行ってみませんか?」
「俺も含めてほとんどの連中が泳げないんじゃ海水浴は難しいんじゃないか?」
「どんなものでも練習すればものになるわけですから大丈夫です。それに海水浴では泳がなくてはならないという決まりはありません。砂浜でゆっくり過ごすだけでも楽しいものです」
「そう言われればそうだな。どこかきれいな砂浜を見つけて海水浴アンドバーベキューもいいな」
そんな話をしているうちに『シャーリン』は港に戻ってきた。




