第214話 鉱山2
翌日。屋敷のみんなには、数日留守にするといって、アスカと二人、その露天掘り跡に朝から駆けていった。王都の西門を出て、南に見える山地の中腹にあるという露天掘り跡だ。王都周辺の農村地帯を抜け草原地帯、それから山に登ることになる。
鉱山の跡地なので、途中までちゃんとした道があったが山に登り始める辺りから道も怪しくなってきた。それでもここ最近ある程度は荷馬車などで踏み固められているようで雑草などは生えていなかった。なんであれ、俺たちには障害にならないので、道の跡をたどりながら山を登っていった。
山地の中の隘路を登り切った先にその露天掘り跡がすり鉢状に広がっていて、すり鉢の底の辺りには淀んだ赤水が溜まって池になっていた。
ざっと見渡したところ、池の少し先に坑口が一つあり、池の脇には、試験坑道を掘った時に作ったのだろう飯場のような長屋が建っていた。今上って来た隘路を少し下った先に見張り小屋らしきものが建っていた。
まずは、見張り小屋に行って、話しを聞こうと思い、そちらに駆けていった。
「すみません」
「はい。なんでしょうか?」
「冒険者ギルドから派遣されて、調査に来たものです。これから調査坑道に入って、その先まで調査する予定なんですが、何か変わったことはありませんでしたか?」
「ここで、別の者と1日二交代で監視を続けていますが、二週間前に四人組の冒険者パーティーが中に入っていったきり、いまだに出てきていません。それ以外では、これまで変わったことは起きていません」
「分かりました。ありがとうございます」
ここでは、新たな情報は得られなかった。
小屋を後にして、小道を下って坑口に向かう。
たどり着いた坑口は、二本の横木に上端を尖らせた細めの丸太を組み合わせた、二重の柵で塞いであったが、アスカと二人ひょいひょいと柵を飛び越えて、坑道の中に入っていけた。
坑道の中でも、坑口付近は外からの明かりで様子がよくわかる。坑道の支保は台形になるよう二本の柱と一本の横木を鳥居型(冂型)に組み合わせたもので、だいたい、床面で4メートル、坑木の横木の内側の長さが3メートルくらいのものだった。横木と横木の間には板が渡してあり、天盤からの物の落下を防いでいる。その坑道が15度ほどの、斜面としてはかなり急な角度の斜坑となって続いていた。
すぐにカンテラを点灯して、坑道を下っていったが、何か異常を知らせるような変な音がするわけでもなく、200メートルほど坑道を下っていったところ、いわゆる空洞への出口にたどり着いた。
「アスカ、入り口から何メートルくらい下に下ったことになる?」
「50メートルほどになります」
「そうか。そんなに深くはないんだな。それじゃあ、気をつけて空洞の中に入ってみるか」
貫通部を抜けカンテラで空洞を照らしてみると、空洞の上の方はカンテラの光がやっと届くくらいで2、30メートルはある。左右の広がりも30メートルはある相当広い空洞だった。前方はかなり急な下り斜面でカンテラの光ではどこまで続いているのか分からない。
「マスター、ここから下っていきますから、空気が悪くなる可能性が有ります。エリクシールを1瓶預かっておきます」
アスカは俺が手渡したエリクシールをどこかに仕舞った。
「行くか」
「はい」
幸い、足元は赤味を帯びた砂岩のような石だったのですべる感じではなく、あまり苦労することもなく斜面を下っていくことができた。
下っていくうちに徐々に空洞は狭まっていったが、前方を照らすカンテラの光の先は真っ暗で、この空洞はかなり先までも続いているようだ。少し前から、空洞の壁から天井にかけて、50センチくらいの穴が黒い模様のようにそれなりの数空いていて、足元の斜面の上に砂がところどころ小山になって盛り上がっている。
「アスカ、この穴は何だと思う?」
「何かのモンスターが作った孔ではないでしょうか」
「そうだよな。この孔から何か出てくるかな?」
「可能性はありますから、後方も注意が必要です」
ヤシマダンジョンははっきりしたダンジョンだったが、ここは、自然の空洞なのか、それともダンジョンなのかはいまのところ分からない。見たこともないようなアリ型のモンスターがいたそうなので、未発見のダンジョンの可能性もある。
いまのところ、後方には異常はないようだ。
「アスカなら、この先がどうなっているかわかるかい?」
「このまま斜面が1キロほど続きそこで空洞が広がっています。その広がった所から分岐が数本出ているようです。そこには、モンスターが数匹いるようです」
「モンスターはどんな感じ?」
「ここからだとまだわかりませんが、それほどは大きくはないようです」
最近出番のなかったミニマップを確認すると、確かに前方に黄色い点が数個あるのだが、それ以外に通路の壁の中と思われる周辺に無数と言っていいほどの黄色い点が見える。どうやら囲まれていたようだ。まあ、黄色い点のところを見ると今のところは俺たちに敵意は持っていないようだ。
早めに『進撃の八角棒』を出して、準備しておこう。久しぶりに俺の相棒の出番だ。カンテラをアスカに持ってもらい、八角棒を両手で持って構える。
シャーーーー、
後ろの方で砂が落ちる音がした。
シャーーーー、
シャーーーー、
今度は前、そして、周り中いたるところから砂の落ちる音が聞こえて来た。
「何が出てくるか確認してから対処しよう。敵意はないようだから慎重にな」
「はい、マスター」
ズサッ、ズサッ、ズサッ、……
そんな音を立てて、アスカがカンテラで照らす光の中で砂の上に落ちてきたのは、アゴの部分が異常に発達した真っ黒いアリだった。頭の大きさがちょうど先ほどの孔の口ほどあり、体長は1メートル50くらい。それが数十匹。後ろにもそのくらいいるようだ。そいつらが、アゴをカチカチいわせながら、表情のない大きな真っ黒な複眼でこちらを見ている。
「マスター、アリですね」
「襲ってくることはなさそうだ、少し様子を見よう」




