第206話 アスカ造船3、船体
翌日の午前はラッティーの勉強を見てやっていたアスカだが、午後からは、昨日いっていた船の肋骨を作る作業を始めた。
木枠から取り出した砂虫の皮の構造材を適当な長さで切断し、軟らかみがわずかに残ったそれをきれいに曲げていく。左右対称に曲げられた肋骨が、造船建屋の柱に立てかけられていく。一つだけ左右対称でないものがあったが、それは、竜骨につなげて舳先部分になる部材なのだそうだ。
「これで、明日まで乾燥させれば、船の枠組み用の構造部材は完成です。今の季節ですと、明日の午後からにでも組み立て始められそうです」
そして、翌日の午後。
すでに残った砂虫の皮で作られた構造材は、型枠から取り外されており、型枠とした木材も俺が収納している。
「マスター、これから組み立てを始めますが、その前に竜骨から船体そのものを乗せる船架を造船用木材で作ります」
収納から取り出した木材を加工して、船底の断面をした台が五台ほど作られていった。その中の一つだけは台の高さが高く断面に傾斜があった。舳先部分用の船架だそうだ。
アスカはその船架を建屋の中心線に重なるように綺麗に並べた。
「竜骨とするため、船架の上に部材を上向きに縦に置きます」
船架の真ん中に15メートルあまりの部材が渡し置かれた。
「厚さ20センチの肋骨をはめ込みますので、はめ込み個所を各々深さ10センチ分コの字に切り欠きます」
いった端から、竜骨部材に10カ所ほど切り欠きが出来た。船尾の辺りの切り欠きの間隔はほかの部分の半部くらいになっている。そのあたりは推進用の機材が乗るため構造上強化しているようだ。
「それでは、どんどんはめ込んでいきます。きっちり作っていますので、はめ込めるだけでもかなりしっかりしています」
きのう作って、乾燥させた肋骨を大きさ順にはめていく。これだけで船の感じができてきた。
「次は舳先部分になります。舳先部分の部材を、竜骨に繋げます」
竜骨と、舳先材の先端部分を互い違いになるように切り欠きその部分を重ね、上から肋骨材を直角にかぶせるようにはめ込んだ。それだけで、舳先部分の部材はうまく固定されたようだ。いつもながらの工作精度である。
舳先部分にも船架が置いてあるので、安定している。接続した部分はまだ新しい断面のため、時間が経つと部材同士で癒着し一体化するのだそうだ。
その後、アスカは舳先部分に、残った肋骨材をはめ込んで、船の骨格はでき上がった。どこからどう見ても船だ。しかも、アスカは建屋の可動足場をうまく調節して、風などで建造中の船が揺れて傾いたりしないようきっちり固めている。
「そして、肋骨に対して梁をこのように二段になるように入れていきます」
U字型の肋骨に対して、梁となるよう上段と中段に構造材が渡されて行く。
「まだ先の作業にはなりますが、この梁の上に床材を敷いていき、上から、上甲板、第二甲板になります」
言っているはしから、梁がどんどん取り付けられて行く。見た感じ、舳先部分以外は水平になっているようだ。
「梁の取り付けは、中心から外板に向けてやや下げるようにカーブをかけています。これは、上甲板の場合は、雨やしぶきを外板から船外に、内部に侵入した水は第二甲板から排水ポンプを取り付ける船底まで素早く落とすためです」
単純に水平ではなかったらしい。
俺も、アスカと一緒に船の構造の基礎は本で読んだはずなのだが知らなかった。たまにはこういうこともあるサ。
「それでは、外板を張り付けていきます。マスター、新しい砂虫の皮を1枚お願いします」
草むらに出した砂虫の皮があっという間に厚さ5センチ、長さ30メートル、幅20センチほどの帯状に裁断された。
「マスター、出来た砂虫の皮の帯をいったん収納してください」
「あいよ」
いわれるまま、砂虫の帯を収納した。
「マスター、上の方から砂虫の皮を張っていきますから、砂虫の帯を一枚お願いします」
皮の帯を1枚出してやると、アスカがその先端を持って、舳先の中央から次の肋骨部材、その次の肋骨部材と張り付けていき、船尾部分まで張り付け、そこでいったん余った部分を切り取って、また、舳先から船尾に向けて砂虫の皮を張り付けて行った。
外板の一段目が終わると、次は二段目。
一段目の下端に1センチほど二段目の上端を重ねるようにして、張り付けていく。少しもたるみなく張り付けていくには技術がいることなのだろうが、淡々と作業が進んでいく。
「まだ、乾燥が進んでいない皮ですので、横方向の収縮を考慮して、少し重ねて張り付けています」
「そうだ。船底の邪魔にならない部分をダンジョンガラスを張って、海中がのぞけるようにすれば楽しいんじゃないか?」
「それは面白そうですね。それでは、マスター。まず一枚そこにダンジョンガラスを出していただけますか? 一枚ですと座礁時などの強度が心配ですから二枚重ねにして張りつけてしまいましょう。外板張り付け作業と一緒に取りつけることができますから接合部の強度も十分あると思います」
後で、バラストタンクが置かれる予定の部分を除いて各肋骨の間に直径50センチほどの円形のノゾキアナが竜骨を挟んで二列、各列六個、計十二個、でき上がった。これは楽しそうだ。ノゾキアナが座って見えるように、あとで、長椅子のようなものを左右につければいいだろう。
……
「外板の張り付けが、船尾部分を除いて完成しました。ポンプなどの内部の機材を取り付けてから残りの部分を作成します」
「それではマスター。型枠材をお願いします。それを床材として、これから第二甲板を作ってきます。中に入って作業しますから、船尾から入って、一枚ずつ渡してください」
いわゆる流れ作業で、どんどん床板が張られて行く。床板と砂虫の皮の構造材に狭めの孔を空けたところに木釘を打ち込んで固定しているようだ。
大まかな部分の板張りが終わり、今度は、曲線部分の床板張りが始まった。ここからは端切れ材がどんどん出るのでそれを俺は収納していく。
「階段部分の補強と階段を作りますから、造船用の木材を一本お願いします」
収納から取り出した木材も瞬く間に加工され、階段がまだでき上がっていない上甲板から第二甲板、第二甲板から船底へと、取り付けられた。
「明日以降の作業のため、部材を作成しておきます。砂虫の皮と造船用の木材を一本お願いします」
砂虫の皮と木材を取り出してやったら、すぐに、
「砂虫の皮はこの程度でいいので、そちら側を収納しておいてください。10センチ幅で砂虫テープも作っていますので、それも収納お願いします」
いわれるまま、3メーターほどの幅を残して砂虫テープと残りの皮を収納。残った砂虫の皮は2.5センチの厚さに上下にスライスされていた。
アスカによって木材の方は、カーブの付いた薄い板に加工されて、その板を組み合わせるとパイプが出来た。片方は直径が1メートル程度、もう片方は細くて直径が20センチほど。20センチ形のL字型のパイプが四個、あと、片側の直径が20センチ、もう片側の直径が50センチほどの台の形をした筒が二個。
それらができ上がり、その木で作った型に、先ほどスライスした砂虫の皮を貼り付けていった。パイプ類を砂虫の皮で作るようだ。そういった俺でも理解できる部品のほかにも、いろいろ型枠を作って砂虫の皮を張り付けていたので、三和土の上がそれなりにいっぱいになってしまった。
「きょうは、こんなところでしょうか。あとは、魔導加速器などが到着してから作業をしましょう」
「アスカ、ご苦労さん」
船上構造物と船尾はまだないが、そこにあるのは立派な船だった。




