第195話 バレンタインデー、招待飛行2
王宮からの一行を案内した飛空艇の中は、前もって加速器を起動させているため暖かくなっている。
「あら、中は暖かいわ」
「上着を脱いで、お持ちのチケットに書いてある番号と同じ番号が振られている席にご着席ください」
俺の仕事はここまでで、後はスチュワーデスのお姉さんに任せた。
「それでは皆さま、当飛空艇は間もなく離陸いたします。安全のため、お席にお座りください」
操縦室の中でアスカが後ろから見守る中、正操縦士のリディア、副操縦士にアメリアが加速器のレバーを操作し始める。
「飛空艇発進します」
なんとなくアニメの乗りで発進と言っているけど、ここで前に進むわけではないので離陸の方がいいな。
「飛空艇発進!」
床下から、加速器の振動と噴気音が高まり、飛空艇が離陸した。
後ろの客室の方で驚きの声が上がっている。生まれて初めての経験だろうから存分に驚いていただきたい。
「着陸脚収納完了」「収納完了確認しました」
きびきびと二人の操縦士が飛空艇を操作している。
「王都上空で一度旋回してから、キルンへ向かおう」
王女さまたちに王都の全貌が良く見えるよう二人に指示を出した。
「……高度、1175、1200。前進しつつ旋回、王都上空に進入します」
「みなさま、当飛空艇は、高度1200メートルを順調に飛行中です。ここからは、別途指示のあるまで、艇内でご自由に移動していただいて構いません。翼で少し隠れていますが、前方に広がるのが王都セントラルでございます」
さすがは、商業ギルドで推薦された人だ。1度キルンまでの事前飛行に同乗しただけなのに説明が淀みない。
リリアナ殿下をはじめ招待された面々は席を離れ、一番王都が良く見える展望窓に集まっている。
「王都はこんなに広かったんですねえ。お姉さま、向こうの方に広がっているのがカシギ海ですか?」
「あれはまだ、セントラル湾じゃないかしら」
「キラキラ輝いててきれい。体が元気になって以来、勉強が忙しくて外に出る機会がありませんでしたが、これからは私もいろいろ外の世界を見て回ります」
「そうね、リリアナがこんなに元気になったんだから、一緒にいろんなところに行きましょう」
異母姉妹だと聞いていたが仲の良い姉妹である。
……
「飛空艇はこれより大きく右に旋回し、キルンに向かう街道上空を南下していきます」
……
「みなさま、これよりお飲み物をお配りしますので、お席にてお待ちください」
その後飛空艇『ボルツン・ワン』は眼下に街道やそれに連なる宿場町を見ながら、無事キルンへ到着した。
王女殿下一行は、いったんキルンの北門の近くにある駅馬車駅舎で食事と休憩をとっていただくことにしている。
食事と休憩用に、駅舎の広めの一室をあらかじめ借り切っており、コダマ・エンダー家の誇る料理人、ゴーメイさんの自慢の料理と各種の飲み物を取りそろえ提供した。もちろん俺が全て収納して持参したものだ。王宮の方々にも料理は好評で、うちの料理人の作ったものだと言いながら料理を配っていったので、ゴーメイさんは十分面目を施せたはずだ。
俺を含めたうちの六人とスチュワーデスさんも食事をご一緒したのだが、イエロー四人娘は緊張して食欲がないようであまり食べていなかった。こういうのは初めてだろうから緊張するよな。落ち着いたら食べるようあとで何か渡しておこう。
食事と休憩を終え、午後1時20分にキルンを発ち何事もなく午後3時に予定通り王都の西門前の飛空艇発着場に帰り着いた。
「コダマ子爵、エンダー子爵。今日は本当に貴重な経験をさせていただきありがとうございました。姉ともども感謝いたします」
そういって、リリアナ殿下がペコリとお辞儀をしたら、マリア王女以下のみんなもお辞儀をしたので困ってしまった。王族って普通頭は下げないんじゃないの。あわててこちらのみんなも頭を下げた。下げた頭で横のアスカを見上げると、いつものようにわれ関せずでした。
屋敷での夕食時、ゴーメイさんに、今日の料理を両殿下をはじめ王宮の人たちに褒められたことを伝えたら、嬉しそうに頭をかいていたのが印象的だった。
夕食後のお茶の時間。居間でくつろいでいたらアスカが俺にどこからか買ってきたショートケーキをくれた。このショートケーキは、『ナイツアンドダイヤモンド』のレストランで正月にアスカが食べてたのと同じだ。
そのショートケーキはスポンジが少し硬くなっていて、上に乗っかったイチゴも萎びてしまっていたが俺には十分おいしかった。
実際は俺だけじゃなくみんなにもアスカはケーキを配ってたけどね。




