EP 7
封鎖突破の『ジャスト・イン・タイム』〜空間連結と極上の夜食〜
「さあ、親方衆! ガーネット! 納期は3日と言わず、1日で上げるぞ! 素材なら腐るほどある!」
俺が魔法ポーチを傾けると、ガコンッ! ズドドドッ! と凄まじい音を立てて、レア素材の山が広場に吐き出された。
アバロン魔皇国近辺で採取された『深淵の魔鉱石』、飛竜騎士団から巻き上げた『魔導鋼鉄』、そして巨大なワイバーンの骨や鱗。
「ひぃぃッ! こ、これは国宝級の魔鉱石じゃねぇか!」
「アホか! 丁寧に扱え! ……ヒヒヒッ、こんな極上の素材を打ち放題なんて、鍛冶師冥利に尽きるぜェ!」
ドワーフたちは完全に「仕事の鬼」と化していた。
『米麦酒』で燃料を満タンにした彼らのハンマーが、地下帝国ドンガンの巨大な溶鉱炉の火を再び燃え上がらせる。
「社長! 私にも最高の魔鉱石をちょうだい! カグラさんの金棒を、絶対に壊れない『最強の掃除道具』にアップグレードしてあげる!」
ガーネットがポニーテールを揺らしながら、ハンマーを片手にウインクする。
カグラは無表情ながらも、少しだけ嬉しそうに兎耳……ではなく鬼の角を光らせていた。
「よし、頼んだぞガーネット」
俺は広場の真ん中に陣取り、次々と完成していく防具や魔導コンテナのパーツを【神の蔵】へと収納していく。
まさに前世の物流センターの『超高速ピッキング&アセンブリ』だ。無駄な動線は一切なく、生産から保管までが秒単位で完了していく。
だが、作業開始から半日が経過した頃。
ドワーフ王が、少し息を弾ませながら俺の元へやってきた。
「ソラトよ。作業のペースは最高じゃが……そろそろ『空気』がヤバいぞ。換気口まで塞がれとるせいで、溶鉱炉が酸素を食い尽くしてしまう」
たしかに、広場の空気が淀み、呼吸が苦しくなってきた。
本来ならここで「酸欠によるパニック」が起きるのが、サイラスの描いたシナリオなのだろう。
「問題ない。俺の前世では、倉庫の『空調管理』も物流の基本だったからな」
「く、空調……?」
俺は腰の魔法ポーチに手を当て、脳内のシステムにアクセスした。
「【神の蔵】、新機能展開。……現在上空で待機中の『移動要塞ソラトLC』と、このポーチの内部空間を直結させろ!」
[ターゲット『移動要塞ソラトLC・メインハッチ』との空間連結を実行します。]
空間が、歪んだ。
俺の目の前、広場の空間が鏡のようにパリンと割れ、そこに『巨大な光の穴』が出現したのだ。
「な、なんじゃこりゃあぁぁッ!?」
「穴の向こうに……空が見えるぞ!? 雲が流れてる!」
ドワーフたちがハンマーを止めて唖然とする。
ポータルの向こう側は、数千メートル上空に浮かぶ俺たちの移動要塞だ。そこから、ひんやりとした新鮮な風が、地下帝国へ向けて勢いよく流れ込んできた。
「換気完了だ。ついでに、この『直通配送ルート』を使えば、地上の塞がれた壁なんか無視して、いつでも荷物と人間を出し入れできる」
物理的な封鎖など、俺の【神の蔵】が生み出す『空間連結』の前では、ただの「意味のない石の壁」でしかない。
これこそが、絶対的な物流チート――空間を無視した『ジャスト・イン・タイム(必要な物を、必要な時に、必要なだけ)』の実現だ。
「……空間すらも繋ぐとは。ご主人様、貴方は本当に神の御業を商売の道具にしていますね」
ルクスがポータルから吹き込む風を浴びながら、クックッと笑い声を漏らす。
「さあ、空調も直ったことだし、夜食の時間だ! 力仕事の後は、これに限るだろ!」
俺はポータルの前に、巨大な寸胴鍋をいくつも出力した。
中に入っているのは、大量の『太陽芋』と『シープピッグのモツ』、そして『月見大根』を醤油草の出汁でトロトロになるまで煮込んだ『特製モツ煮込み』だ。
七味唐辛子に似た魔導スパイスのピリッとした香りが、冷たい夜風と混ざり合い、ドワーフたちの胃袋を再び激しくノックする。
「うおおおおッ! まだこんな極上のメシが出てくるのかァァッ!」
「モツが口の中で溶けるゥ! 太陽芋に味が染み込みまくってて最高だァ!」
ドワーフたちはモツ煮込みをかっ食らい、再びハンマーを握る。
その作業効率は、もはや狂気の領域に達していた。
一方その頃。
地下帝国の外、サイラスの前線基地。
「ふふ……。そろそろ1日が経過した頃か。地下の酸素は薄れ、飢えと恐怖で暴動が起きているはずだ」
サイラスは優雅にワインを傾けながら、完全に塞がれたドンガンの大扉を見つめていた。
「ドワーフ王が泣きついてくるまで、あと1日といったところか。あの忌まわしい少年の魔法鞄も、これで私のモノ……」
「さ、サイラス様ァァッ!! 緊急事態です!!」
そこへ、血相を変えた通信士がテントに転がり込んできた。
「なんだ、騒々しい。ドワーフどもが降伏の合図でも出してきたか?」
「ち、違います! 外です! 外の街が……周辺の都市の市場が、完全に『ソラト物流』に制圧されました!!」
「……は?」
サイラスは持っていたワイングラスを取り落とした。
「なにを言っている? あの少年は地下に閉じ込めたはずだ!」
「そ、それが……! はるか上空に浮かぶ謎の『巨大浮遊要塞』から、神速の兎耳族が次々と飛び降りてきて……! サイラス様が買い占めて価格を高騰させていた周辺都市の食料市場に、規格外に安くて美味い『肉シイ丼』や『モツ煮込み』を大量にデリバリーしているんです!!」
「なっ……!?」
「我々の抱えていた食料の在庫は、完全に暴落! このままでは不良在庫となり、ゴルド商会のこの地域の支部は破産します!!」
サイラスの顔から、すべての血の気が引いた。
地下を封鎖し、相手の首を絞めていたはずが。
気づけば自分たちの経済網が、上空から完全に包囲され、兵糧攻めを食らっていたのだ。
「ば、馬鹿な……。空間を越えて物流を行っているというのか……!? あり得ない、そんな魔法など存在しないッ!!」
完璧だったエリートの計算式が、音を立てて崩壊していく。
ソラト物流による、経済(兵糧)攻めの完全な『逆転』が完了した瞬間だった。




