前編∞∞
設定が多すぎたせいか、書き終わらなかったので分割します。
サイレンの魔女シリーズ、ジャンルは空想科学……いや、宇宙? やっぱり空想科学かなあ?
それと一応、しいなここみさま主催『空飛ぶ◯◯企画』……にする予定です(・ω・)
え? 予約投稿しろって?
いつもの曜日に投稿したかったのですよ。
人類が宇宙へ手を伸ばし足を進め、既に十世紀以上が経過していた。
資源の枯渇が著しい地球を離れる人々も年を追う毎に多くなり、一方で各惑星のテラフォーミング技術は益々その能力を高めていった。
勿論、高まる技術はそれだけではない。
長きに亘る旅路の息抜きに、余興にとかつて電脳空間やサイバースペースなどと呼ばれていた仮想空間が更なる発展を遂げたのもこの時代である。
今ではこの「Astral Radiance Interface Architecture」、通称「A.R.I.A.」と呼ばれるこの広大な世界は、星と星を、星と船を繋ぐ重要なコミュニケーションツールとなっていた。
何せ電気や電波というものの速度は、この広大な宇宙空間内でのコミュニケーションを考えるなら遅すぎるのである。
その為に「A.R.I.A.」はそれよりも速いとされる粒子 ――フォトンやタキオンによって繋がり、構成されている、と言われていた。
もっとも、そんな一部の技術屋が考える様な事は船乗りであるラヴィーネ・アルターイルにはあまり関係のないことだ。
彼女にとって大事なのは「A.R.I.A.」が通信手段として有用である点と、酷く時間を持て余し気味になる長旅の潤いに使える点の二点である。
凍結睡眠でもいいのだが、それでは咄嗟に動けなくなるのだから仕方ない。
どの道、強化人間であり、あちこちにサイバーウェアを埋め込んだ「有線化された者」でもある彼女は、寝ていようが起きていようが老いとは縁遠い存在でもあるのだから。
∞∞∞∞∞∞
宇宙を、星々の挾間を駆る船の中。
ラヴィーネは今日も今日とて「A.R.I.A.」の中で寛いでいた。
彼女の操る星間船「ステラ・リリカ」はそれなりの金を掛け、それなりの居住空間を作り上げた一品だが、それでも地上とは勝手の違う、それでも何処か微妙に落ち着きにくい空間でもある。
幾ら慣れたとは言っても宇宙は宇宙なのだ。
地上の生き物である人間は、結局の所どう足掻いても地上から離れられないのだろう。
だからこそ「A.R.I.A.」の創り出す地上の光景や雰囲気、重力の強さは彼女の、船乗りの心を落ち着かせるのかも知れない。
また何と言っても物質変換で創られた食事は味気がないと言う理由もある。 現実ではその栄養価だけは整えられた粘土の様な代物を口にしなくてはいけないが、「A.R.I.A.」の中でなら、栄養的には全く意味のないモノでもそれなり以上の食事だって楽しめるのだ。
少なくともラヴィーネはそう思い、「A.R.I.A.」での地上を満喫する。
ゆったりとした自然を、脳内に投影するのだ。
それは自らの夢を自在に操る様な、そんな技術とも言える。
普通の夢と違うのは他者と繋がることが出来る点だろう。 他者とも現実とも繋がることの出来る夢。
それが「A.R.I.A.」の真骨頂であるのかも知れない。
またこの「夢」は登場人物を配置することも可能だが、彼女は専らひとりで自然を楽しむ事を日常としていた。
この日もそうである。
ラヴィーネは微風の流れるあたたかな小高い丘の上で、二本の木に括られたハンモックに揺られながら古い「本」を読んでいた。
リアルではもう殆ど存在していないとされる「本」だが、「A.R.I.A.」の中でなら幾らでも読むことが出来る。
セミロングの赤毛が風に靡く。 その風は少しだけページも振るわせるものの読書の邪魔になる様なレベルではない。
全てが心地良いレベルで調整された「自然」ではあるが、それとて無機質な船内よりはずっといい。
それなりに厚い小説を読み終えた彼女は、ほっと息を吐きながら身を起こした時。
驚愕の余り彼女はハンモックから落下するところだった。
少し離れた場所に、この「A.R.I.A.」の中に居るはずのない小さな女の子が見えたのだ。
(…………何、あの子?
今のキャラクター表示設定は……なし。
誰かのアクセスも……なし。
…………そうは見えないけど、『グリッチ』!?)
「グリッチ」とはシステムに入り込み、データを奪う簒奪者の事だ。
かつてはクラッカー、ハッカーなどと呼ばれた彼等は、今ではその侵入経路から位相偏移者、またはその在り方から脳内蛭などと呼ばれるが、一時的なバグを表わすグリッチと蔑称で呼ばれることの方が多い。
「織姫! 侵入者よ!」
ハンモックから飛び降りつつ、ラヴィーネはこの「ステラ・リリカ」の制御ユニットに声を掛けた。
制御ユニット「V.E.G.A.」。
正式名称「Versatile Engineering Guidance Automaton」という、船の制御とメンテナンス、「A.R.I.A.」のファイアウォールを一手に担う高性能人工知能なのだ。
個体識別名称は「織姫twenty-five」。
完全に人工物であり、本来性差のない「個性」だが、織姫は自身を女性として認識している。
何せ、滅多に使う事はないが、彼女の操る外部ユニットは女性型だ。
『Master。 申し訳ありませんが、わたくしには侵入者を感知出来ません』
しかし返ってきた答えは視界に映るモノを否定した。
「……どういう事? わたしは幻でも見ているの?」
『光学的に捉えることは出来ますが、システム的にあそこには誰もいません』
その答えはやはり否定的。
ただ「V.E.G.A.」が語るには不可解な回答だ。
「『A.R.I.A.』で見えているなら何らかのデータがあるはずでしょう!?」
半ば叫ぶ様なラヴィーネの問い掛けに、織姫はまるで肩を竦めるかの様な、溜息でも吐く様な口調で言葉を綴る。 勿論、今は声だけしか出していない彼女が実際に肩を竦めているかどうかなど確認できる訳ではないが。
『敢えて言うなら背景データがあるだけです、Master』
「……データを書き換えられたと言うの?」
主の、若干不安を含んだ声に、織姫は淡々と「事実」を告げた。
その間も「少女」はキョロキョロと周囲を見渡したり、ててててっと歩いたりしている。
『いいえ。 外から書き換えられた形跡は過去から現在に至るまでありません。 データ的に言うなら、あの少女は最初からあそこに存在していた、としか言いようがありません』
「織姫……あなた、正気?」
『答える前に自己診断プログラムを走らせました。 正常です、Master』
あまりの不自然な状況に、彼女は既に自身を疑っていたらしい。
「……プログラムのバージョンは?」
『最新です』
「……考えたくはないけど、わたしの電脳が弄られた可能性は?」
ラヴィーネ自身の脳には殆ど手を加えられていないが、要所要所に埋め込んだ機械には制御用のプログラムが使われている。
今時、ウィルスを仕込んでの破壊・脅迫行為に勤しむ「時代後れ」なグリッチはそうそういないのものゼロではない。
とは言ってもサイバーウェアの制御プログラムはその危険性から読み込み専用である事が殆どだ。
制御プログラムを乗っ取られた被害者がテロ行為を行ったなんて五世紀以上も昔の話なのだから。
かと言って書き込み可能な領域がない訳ではない。 だからこその不安。
『少なくともわたくしには感知出来ません。 それと先程も言った様にあの侵入者もわたくしには感知が出来ません』
「…………つまり、わたしが直接確認するしかない訳ね」
『はい。 お気を付けて、Master』
その背を押す様な織姫のセリフに、ラヴィーネは改めて見覚えのない少女の姿を見た。
見た目だけで言うなら、二桁を過ぎて暫く、といったくらいの、十代半ばの少女、ではある。 黒い髪と濃い瞳の色をした少女。 とは言ってもここは「A.R.I.A.」の中だ。 姿形は当てにならない。
もっとも、今の世の中、「A.R.I.A.」の外へ出ても、外見と内面の全く合っていない存在なんてのは星の数程も居るのだが。
そもそもラヴィーネ本人とて年齢と外見の合わない種類の存在である。 外見は十代後半だが実年齢は四十路を疾うに超えた彼女であった。
ラヴィーネは相手に警戒心を抱かせない程度に足を進める。
少女の外見に合わせて、驚かせない様なゆっくり歩行。 まあ外見通りでない相手であってもなくても行き成り無体をされるとは思わない。
実際彼女に対して現状対話しか対抗手段のないふたりなのだ。
普通よりもゆっくり目、しかし「警戒はしてない」と言外に理解される様、普通を振る舞って前進するラヴィーネを一瞥すると、少女はスーッと姿を消した。
「!? 織姫! ログは!?」
『変化ありません。 ログが消された、なんて話ではないようです。 今、わたくしはずっとログを監視していましたが、その痕跡は全く書き込まれませんでした。
今もログを見ていますが、Master以外の動きはありません』
「……何なの、あの子は?」
『予想は幾つか立てられますが、お聞きになりますか?』
織姫の提案にラヴィーネは頷く事で返答する。
正直言えば彼女が何を言うかの予想は立てられるが、何にせよ自身が落ち着く為の時間と誤魔化しが必要だった。
『まずひとつ目はとても優秀なグリッチ ――いえ、ここは敢えて位相偏移者と呼びましょう。 位相偏移者が入り込んだ可能性。
ふたつ目は、元々『A.R.I.A.』のバグとして残っていたが、たまたま今日、それが発生した可能性。
みっつ目。 『A.R.I.A.』に限らず仮想空間内で亡くなった人間が霊となり現れた可能性」
予想外のみっつ目の可能性を聞き、ラヴィーネは思わずこける。
「織姫……。 それは可能性として言及出来るモノなの?」
『わたくしは見た事がないからという理由で可能性をゼロと見なしていないだけです。
存在するのに観測の出来なかったモノは時代と共に減っていきました。 逆の言い方をするのであれば、時代が進むと共に観測の出来るモノは増えていきました。 これからも未知は減っていくのではないでしょうか?』
「……………………要は可能性がゼロではない、という事だけね」
『ですが、仮想空間での霊の目撃例というのは、WorldがVRと呼ばれたくらい大昔からあったそうですよ?』
織姫の言葉に主は首を傾げる。 彼女と違い、ラヴィーネの生体脳はそこまで記憶力が高くない。
『VRは900年程昔まで使われていた呼び名ですね』
そんなラヴィーネの様子を見て、織姫が補足する。
元々知らない知識だった事に、ラヴィーネ再びこけた。
「そこまで大昔じゃ、どの話がホントでどの話がウソかなんて判ったモンじゃないわね」
『はい。 むしろGhostはGhostでも原因不明のバグか、何らかの不正プログラムと考えた方が自然でしょう』
溜息を吐いたラヴィーネは織姫の言葉をこれといった答えを返さず「A.R.I.A.」から抜ける。
パッと視界が無機質な船内に切り替わった。
彼女は少しだけ寂しく感じる気持ちに蓋をして、現実の身体を動かしてみる。
――異常は……ない様だ。
特に機械化された部分も問題はない様に思える。
「織姫。 一応『A.R.I.A.』の方の監視もお願い」
『はい、着替えも用意しておきます』
主がシャワールームへ向かう事を見越して、織姫はそう答えたのだった。
読んだ人によってはこの時点でネタがバレている可能性もあるんだよなあ……(・・;)
あまりにもまんま過ぎたかも……。
まあ、いいか(o^∀^o)




