表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

【観る者】

 京の町は、いつも通りに見えていた。


人が行き交い、商いの声が響く。


だが、その裏で。


静かに、何かが動いている。


その一つ。


異国の男は、通りの端に立っていた。


人混みに紛れながら。


だが、その視線だけは、明確に一人を追っている。


(……あれが)


名は、リリエル。


報告にあった少女。


ルイス・フロイスは、目を細めた。


風が、揺れる。


何も起きていない。


だが。


(……確かに、あの場で何かが起きた)


記録ではなく。


現象として。


理解不能な何か。


フロイスは、一歩、踏み出した。


――同じ頃。


「お腹すきました!」


「……またにございますか」


リリエルは、楽しそうに歩いている。


凛は、その少し後ろ。


変わらぬ距離で付き従う。


「さっきのご飯、おいしかったですね!」


「……左様にございます」


平和だった。


あまりにも。


だからこそ。


違和感が際立つ。


「あなたが、リリエルか」


声が、落ちた。


リリエルが、振り向く。


「はい!そうです!」


即答だった。


フロイスは、わずかに眉を動かす。


(……警戒がない)


「私は、ルイス・フロイス」


「ふろいす?」


「南蛮の者だ」


「へぇ〜!」


興味はある。


だが。


それだけだった。


フロイスは、リリエルを見つめる。


観察するように。


測るように。


「あなたに、いくつか尋ねたい」


「いいですよ!」


間髪入れずに答える。


「……あなたの神は、何だ」


その問いは、静かだった。


だが。


重い。


凛の空気が、わずかに変わる。


だが、リリエルは。


少しだけ考えて。


「優しいですよ?」


それだけだった。


沈黙。


フロイスの思考が、一瞬止まる。


(……それだけか)


教義も。


体系も。


理もない。


ただ、それだけ。


「……名は」


続ける。


「その神の名は何という」


ほんのわずかに。


リリエルの表情が止まった。


「えーっと……」


少し考える。


「……なんでしたっけ?」


フロイスの目が、細くなる。


(……二度目だ)


記録と一致する。


偶然ではない。


「思い出せぬのか」


「うーん……」


リリエルは、首をかしげる。


「分からないです」


だが。


困っている様子はない。


焦りもない。


ただ、本当に分からないだけ。


(……偽りがない)


フロイスは、そう判断した。


演技ではない。


虚言でもない。


「……あなたは」


言いかけて。


止める。


言葉が、当てはまらない。


定義できない。


分類できない。


(……これは、何だ)


理解が、追いつかない。


だが。


目を離すことができない。


リリエルは、ふと笑った。


「ご飯、食べます?」


あまりにも、自然に。


「……いや」


フロイスは、首を振る。


「そうですか?」


残念そうでもない。


ただ、次に進むだけ。


「じゃあ、またですね!」


手を振る。


そのまま、歩いていく。


凛が、一礼して後を追う。


フロイスは、その背を見つめていた。


動かない。


(……あれは)


異端か。


奇跡か。


神か。


悪魔か。


どれでもない。


あるいは。


すべてか。


答えは、出ない。


だが。


一つだけ、確かなことがあった。


(……記録せねばならない)


誰に命じられたわけでもなく。


そう、思った。


風が、通りを抜ける。


京の空は、変わらない。


だが。


その下で。


確実に、何かが動いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ