【京の町と浪人たち】
京の町は、人であふれていた。
「人、多いですー」
思わず声が出る。
「はい。都でございますので」
凛さんが、静かに答える。
行き交う人。
着物も、どこか上品で。
大坂より、少しだけ落ち着いて見える。
「建物も、立派ですねー」
「寺でございます」
「てら……?」
「仏に祈る場所にございます」
「へぇ〜」
なんか、すごそう。
少し歩くと。
また、違う建物。
「こっちは何ですかー?」
「茶屋でございます」
「お茶……?」
「はい。休む場所でもございます」
「いいですねー!」
でも。
「……なんか、匂い違いますね」
「はい」
凛さんの声が、少しだけ低くなる。
「武の者が、多い通りでございます」
刀を差した人が、増えている。
声も、少し荒い。
「……こわい人、多いです」
「問題はございません」
凛さんが、一歩だけ前に出る。
でも。
すぐ元の位置に戻る。
しばらく進むと。
「いい匂いします!」
さっきより、強い。
焼いてる匂い。
煮てる匂い。
「……あそこ」
一軒の飯屋。
古いけど。
人が、固まっている。
「……多いですね」
「はい」
凛さんが、短く答える。
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店の前。
男たちが、たむろしていた。
ただの客、じゃない。
「どこにつくんやな」
低い声。
「上杉やろ」
「長宗我部や」
「結局、銭やろが」
笑ってる。
でも。
目は、笑っていない。
腰の刀。
手の動き。
立ち方。
(……なんか、違う)
分からないけど。
「……あの人たち」
「はい」
「強そうです」
「……はい」
凛さんの返事が、ほんの少しだけ間を持つ。
「戦を知る者にございます」
「やっぱり」
なんとなく、そう思った。
でも。
「ご飯屋さんですよね?」
私は、前に出る。
「……」
凛さんが、何か言いかける。
でも。
止めない。
「ここ、入っていいですか?」
「……はい。お供いたします」
私は、そのまま歩いた。
男たちの中へ。
「おい」
一人が、顔を上げる。
「なんや嬢ちゃん」
低い声。
でも。
「お腹すきました!」
にこっと笑う。
沈黙。
「……は?」
空気が、止まる。
でも。
止まったままなのは。
ほんの一瞬だった。




