【旅のはじまり】
「旅に出たいんです」
気づいたら、そう言っていた。
この見知らぬ世界に来た時から、
リリエルは好奇心いっぱいだった。
普通の人はこうはならないであろう。
「……何だと?」
忠興さんの声が、少し低くなる。
「いろいろ、見てみたくて」
うまく説明できないけど。
なんか、外に行きたかった。
「ならぬ」
すぐに返ってきた。
「危険すぎる」
「此度の件、忘れたか」
……ですよね。
ちょっとだけ、しゅんとする。
「でも……」
それでも。
「見てみたいんです」
静かになる。
ガラシャさんが、こっちを見ている。
やさしい顔。
でも、ちょっと困ってる。
「……危のうございます」
小さな声。
分かってる。
でも。
「お願いします」
もう一回、言った。
少しの間。
誰も、何も言わなかった。
「……分かった」
忠興さんが、息を吐く。
「ただし」
「一人では行かせぬ」
「凛」
「はっ」
凛さんが、一歩出る。
「同行せよ」
「承知いたしました」
「やったー!」
思わず、声が出た。
「ありがとうござ――」
「浮かれるな」
「……はい」
ちょっと怒られた。
でも。
嬉しい。
――そのあと。
私は、部屋を出た。
廊下を歩きながら。
なんか、ふわふわしてる。
旅。
どんな景色なんやろ。
外に出ると。
空が、広かった。
「楽しみですね!」
凛さんが、こっちを見る。
「……ええ」
短い返事。
でも。
ちょっとだけ。
優しかった気がした。
――その頃。
「あやつには……」
忠興が、静かに呟く。
「天がついておる気がするのだ」
誰に言うでもなく。
ただ、そう思った。
――その夜。
旅のことを考えながら。
なかなか、眠れなかった。
ーーーーーー
翌日の朝 門の前。
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「それでは、気をつけて」
ガラシャが、静かに言う。
その声は、やさしい。
でも。
少しだけ、寂しそうだった。
「……無理はするな」
忠興が、短く告げる。
「はい!」
私は、元気よく頷いた。
凛が、一歩前に出る。
「必ず、お守りいたします」
「頼んだぞ」
忠興の視線は、まっすぐだった。
「承知いたしました」
一礼。
「いってきます!」
私は、手を振る。
ガラシャも、小さく手を振り返した。
門をくぐる。
振り返ると。
二人は、まだそこにいた。
なんだか。
少しだけ、胸があたたかくなる。
「……行きましょう」
凛の声。
「はい!」
前を向く。
――旅が、始まった。




