【プロローグ】
戦国時代に、異世界から迷い込んだ少女の話です。
特別な力は何もありません。
ただ、ちょっと運がいいだけです。
それなのに、なぜか戦を動かしてしまいます。
気軽に読んでもらえたら嬉しいです。
――ルミナリア聖王国、女王謁見の間。
重厚な扉が開かれ、空気が張り詰める。
列をなす貴族たち。静まり返る空間。
玉座には、ルミナス・フォン・ルミナリア。
その前に立つ、二人の若者。
エドワルド・フォン・ルミナリア。
そして――リリエル。
エドワルドが一歩、踏み出した。
「母上。ここに宣言いたします」
その声はよく通り、場の全員に届く。
「リリエルとの婚約を、破棄いたします」
ざわめきが広がる。
「この者は聖女候補として不適格。王家にふさわしくありません」
空気が張り詰めた。
すべての視線が、少女へと向けられる。
リリエルは、きょとんとした顔で首を傾げた。
「……え?」
少しの間を置いて、もう一度。
「本当に?」
誰もが、その次の言葉を待つ。
「やったぁ!!」
空気が凍りついた。
「ずっと思っていたんです。王妃なんて、絶対に無理だって」
父が青ざめる。
「リリエル、やめなさい!」
母は半ば泣きそうな声で言った。
「お願いだから黙って!」
リリエルは首を傾げる。
「どうしてですか? だって、自由になれるんですよね?」
ざわめきが再び広がる。
「外の世界も見たいですし、人助けもしてみたいですし、やりたいことがたくさんあるんです」
貴族たちの表情が変わる。
リリエルは少し考えてから、続けた。
「それにエドワルド様は……ご自分のお話ばかりなさいますよね?」
沈黙。
誰も息をしない。
エドワルドの表情が凍りつく。
「貴様――!」
一歩、踏み出そうとしたその時。
「お控えください、殿下」
教会の司祭が、静かに言った。
「彼女は聖女候補。教会に属する者です」
「その地位は、王権と並ぶもの」
再び沈黙が落ちる。
エドワルドは言葉を失った。
貴族たちは、ようやく理解する。
「……なるほど」
「そういうことか」
リリエルは周囲を見回した。
「……何か、いけないことを言いましたか?」
誰も答えない。
ただ一人。
玉座の上の女王だけが、静かにその様子を見ていた。
(この娘は――光を持っている)
(だが、我が子は見誤った)
リリエルは、ぱっと顔を明るくする。
「ありがとうございます! とても助かりました!」
軽く手を振る。
その瞬間。
この国の未来は、静かに分岐した。
――天上。
静寂の中、一柱の存在が地上を見下ろしている。
その視線の先。
祈る、一人の女性。
細川ガラシャ。
(……救いたい)
(だが、直接の介入は許されない)
沈黙。
(ならば――)
視線が動く。
一人の少女。
リリエル。
(この者ならば、運を歪められる)
わずかに、世界が揺れる。
(言葉を与える。そして――運。それ以上は許されない)
静かに、呟く。
(すまない。これは、私の我儘だ)
次の瞬間。
少女の姿が、世界から消えた。
「え?」
その声は、誰にも届かなかった。
――こうして。
何も知らない少女は、歴史の中心へと落ちていく。




