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拾ってくれたのは誰

作者:
掲載日:2026/03/11

どごおおん!

思いっきり金属バットで側頭部を振り抜かれた。

視界が途切れる。

黒、真っ黒。


うっすらと視界が戻ってくる

ずちゅ。

嫌な音がする、頭部を触ってみると、豆腐みたいな感触が、どんどんそこを中心に溢れ出しているようだ。


呼吸をしているという感覚がない。

頭蓋の裂け目から一気に何かが落ちる感触がした。

身体を確かめてみる、はっきりした意識と、軽すぎる身体。

つまり自分は生きている。


途方にくれていると、通りがかった顔面強お兄さんが、溢れたピンク色の豆腐を見て、一生懸命拾い集めてくれている。

落ちて飛び散ったそれを、掻き集め時々自分の服で手を擦って拭う、全身に柔らかい物体が広がっている。

お礼を言いたいが、喉の奥からは

「ごろごろ」

という音しかしない。

濁った視界の先にいるお兄さんに、一生懸命ありがとうという目線を送る。

お兄さんは小さく息を吸いながらも、集めてくれている。

お兄さんはポケットから透明のビニール袋を取り出すと、袋の中にピンクの豆腐を入れていってくれた。


私の顔の筋肉が勝手に緩んだ。

お兄さんは気味悪そうにこちらを見ている。

かと思えば、慌てたようにお兄さんの表情が柔らかくなる。

何故かなんの音もしない心臓がどくどく言っている気がした。


軽い身体を立たせながら、相変わらず

「ごろごろ」

としか言ってくれない喉を鳴らす。

お兄さんは吸い込まれそうな目で大きく瞬きをすると、大きく口角を上げた。

私はお兄さんの方に足を踏み出した。

一歩。

また一歩と。

距離が近づくにつれてお兄さんの眉間に皺がよる。


その時、今まで聞こえていなかった耳が突然正常に動き出した。

四方八方から聴こえる、破壊音や鋭い悲鳴、何かが倒れる音。

不安に思ってお兄さんに問いかける。

「ごろごろ」

お兄さんは全てを知っているように、微笑みかけてくれた。

その笑顔だけで、充分すぎる気がした。


ふと遠くを見渡すと、視界に重なるように、赤い輪郭が浮かび上がる。

目がレーダーのようになっている。

動いている人の形が真っ赤に浮かび上がる。

振り返ると、お兄さんが手に付いた何かを、ぺろりと舐め取ったところだった。

何を食べたんだろう、そういえば私もお腹がすいたな、と腹部を見つめる。


お兄さんがその場を立ち去ろうとしているのを見て、着いて来いって意味なんだと気づき、慌てて追いかける。

この軽い身体は、とても動かしにくい。


出口から出ると、外は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

武器で殴られている人、身体の中から色んなものが零れ落ちている人。

攻撃してきた相手に反撃している人。

痛みに悶えている人はみんな赤い人の形をしている。

私は角を曲がって逃げた、傷だらけの赤い人を追いかけた。

心配しなくていいと言いたくて、でも

「ごろごろ」

としか響かない。

追いついて袖を掴む、凄い金切り声で何かを叫んでいるが、全く意味がわからない。

そういえばほかの赤い人達も何を言っているかわからなかった。


お腹がぎゅるぎゅるとなる、

香ばしいような、甘いような、美味しそうなすごくいい匂いがする。

目の前の人からだと気づいて、思わず喉がごくりとなる。

濁っていた視界が一瞬クリアになる。

私は何をしようとしているんだろう、どの辺からはっきり考えなくなった?

視界が真っ赤に染まる。

全身が赤に染まる。


そういえば、さっきまでいたお兄さんはどこに行ったんだろう。

顔ももう思い出せない。





ここまで読んでくださりありがとうございます。

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