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妹が可愛すぎて悪役令嬢になりました  作者: 雪月花


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7/9

7:楽しい学園生活


「おはようございます。アンナ様、マリー様」

 校舎へ続く道を歩いていると、並んで登校していた学友の令嬢が、私たちに声をかけてきた。


「おはようございます」

 学園生活も3年目になる私は、優雅にほほ笑んで返した。

「お、おはようございます」

 まだ上級生には緊張気味なマリーが続く。


 妹は、颯爽と追い抜いていった令嬢に小さく会釈した。

 その拍子に、私の隣から少し遅れてしまう。

 はっとしたように顔をあげると、慌てて私の横に並び直し、コソコソと話しかけてきた。

 

「お姉ちゃんは、相変わらず注目の的だね」

「フフフッ。マリーが可愛いからみんな見ているのよ」

「……もう、お姉ちゃんったら」

 照れながらも不貞腐(ふてくさ)れるマリーに、私は前を向いたまま、いかにも品よくクスクスと笑った。


 私とマリーは、クローバー家の仲良し姉妹で有名だ。

 それだけでも目立つのに、なんといっても私は未来の王太子妃。

 (……まだ今はね)

 お得意の猫被りは入学時から炸裂しており、品行方正な淑女で通っている。

 だから妹の言うとおり、こうやって登校するだけでもみんなの視線を集めてしまうのだ。


 けれどそれは去年までの話。

 今年はーー

 マリーの引き立て役よ!


「みんな見なさい、私の美しい妹を! 羨望(せんぼう)の眼差しを向けなさい!」

「…………お姉様、声に出ていますわよ」

 私が本気だと分かっているマリーだけが、呆れた眼差しを向けてきた。


 そんな中、背後からふと声がかけられた。

「おはよう。アンナ、マリー」


 ふたり揃って振り返ると、そばの空気がぱっと華やいだ。

「おはようございます。ジュリアン王子っ」

 マリーが弾むような声をあげた。




 いつの間にか、私たち姉妹で彼を挟むように並んでいた。

 そのまま校舎へ向かって歩き始める。

 

 嬉しそうにお喋りするマリー。

 それを優しく見つめるジュリアン王子。

 たまに彼を小突きながら、ダメ出しする私。


 生徒たちは、この不思議な三角関係を目にしてしまうと、ひそひそと噂し合った。


「あ、あれってジュリアン王子とアンナ様だわ」

「……今日も妹のマリー様が一緒……」

「…………」


 三年生は、妹愛(いもうとあい)について論文を書いた私の溺愛ぶりを知っているので、ある意味納得していた。

「あぁ。アンナ様がマリー様と、一緒にいたいから……」


 一年生は、私がことあるごとに教室にやってきては、マリーとベタベタするものだから、静かに察していた。

「あー、アンナ様がマリー様と、片時も離れたくないからだぁ……」


 けれど事情を知らない二年生は……

 マリーが私から、ジュリアン王子を横取りしているように見えて、陰口を言った。

「マリー様が今日も邪魔をしているわ」

「王太子妃であるアンナ様がお優しいからって、あんなに王子にベタベタして……」

「ジュリアン王子も、何か思わないのかしら?」


「…………」

 私はピタリと足を止めた。

 マリーに関する話し声は、不思議と私には全て聞こえるのだ。


「どうしたの? お姉様?」

 私が立ち止まったことに気づき、マリーとジュリアン王子が不思議そうに振り返る。

「少し用事を思い出しましたの。ふたりで先に行って下さる?」


 私はと〜っても美しい笑みを浮かべた。




 ーーーーーー


「……ふぅ」

 朝から疲れた私は、ため息をつきながら教室へと急いだ。


 けれど廊下を曲がった瞬間、誰かと鉢合わせしそうになり、思わず身構えた。

「わぁ! ……ってなんだ。マーカスじゃない」

 私の目の前には、同じように体を強張らせていたマーカスがいた。

 相手が私だと分かると、すぐに力を抜いて苦笑する。


「なんだとはなんだよ。まーた2年生をしめてただろ?」

「しめるって人聞き悪いわね。マリーのことをよく分かっていない下級生に、懇切丁寧に妹の素晴らしさを教えていただけよ」

 私は肩をすくめると、彼の脇をすり抜けて歩き始めた。

 マーカスもついてきて隣を歩く。


「それが怖くてトラウマになったって、一部の生徒から苦情が来てるんだけど?」

「トラウマ? 改心したの間違いじゃない?」

 私はチラリと彼を見ると、首をかしげてとぼけてみせた。


 マーカスは学園の風紀委員だった。

 物語の中でも同じ役回りで、彼は妹のローナに陰でいじめられていたアンナを、ちゃんと助けてくれた人だった。

 だから断罪されたあとも、マーカスはアンナに手を差し伸べてくれたのだ。


 なのに今回は……

 私が風紀を乱していると目をつけられている。

 おかしくない?

 何も悪いことしてないのに。


 考えれば考えるほど、やっぱり腹が立ってきた。

 ムッとした表情のままマーカスを睨み、ボソリと言う。

「マーカスだって、妹が悪く言われたら黙っちゃいられないでしょ?」

「それはもちろん、二度と口を利けなくするまでだな」

 マーカスが〝当然だろ?〟と言うように鼻で笑う。

 

 物語の中で、マーカスはわりと好きな人物だった。

 理由は単純で、自分の妹を大切にしていたからだ。

 この学園で彼と出会い、話してみるまですっかり忘れていたことだけど。


 だから彼と私はーー

 シスコン仲間だ!


「あはは! マーカスの方が物騒ね」

 私は思わず、大きな口を開けて笑った。

 マーカスの前では、初めから態度が自然と砕けていた。


 だって彼は私を王太子妃としてじゃなく、ひとりの生徒として取り締まりに来たんだもの。

 今更取り繕っても、しょうがない。


「ははっ」

 マーカスも釣られて吹き出すように笑う。

 

 そうして私たちは、ただの学友みたいに笑い合っていた。

 



 そんな私たちの後ろ姿を、ちょうど廊下を横切ろうとしていたマリーが目に留めていた。


「……お姉様……」

 きょとんとしながら、思わずといったように呟く。

 けれどその声は、人気(ひとけ)のない廊下にすぐに吸い込まれてしまった。


「…………ふふ」


 しんと静まり返った空気の中、マリーはにんまりといたずらっぽい笑みを浮かべた。

 



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