5:あざと可愛い
ジュリアン王子に恋してしまったマリーは、最近ため息が増えた。
ぼんやりと宙を見つめては、物言いたげな視線をこちらに投げてくる。
――どう見ても、恋煩いだ。
そんなマリーは、今も潤んだ瞳をそっと私に向けていた。
一緒に勉強をしている彼女の手が、さっきからずっと止まっている。
マリーの隣で机に向かっている私は、涼しい顔をして気付かないフリをしていた。
内心ニヤニヤしながら。
恋する妹を見るの……楽しいっ!
「……いいわよ、次のお茶会に参加しても」
私は〝お姉ちゃんは何でもお見通しよ〟とでも言いたげに、フフンと笑ってマリーに言った。
「え? ……ジュリアン王子がいいって言ったの?」
「ううん、でもいいんじゃない? お姉ちゃんが許します。むしろ王子よりマリーと喋っていたいもの」
「…………さすがにお邪魔じゃない?」
私の大袈裟なセリフは無視するようになったマリーが、怪訝そうに首をかしげた。
私はつい、じっとりとした視線を返してしまう。
……どうしよう。
妹が出来た人になってしまった。
「もっと物語みたいに、グイグイと……自由奔放に行動してくれてもいいのに」
思わず心の声が漏れた。
「……??」
けれどマリーには聞こえなかったようで、私を見て首をかしげる。
そんな彼女の反応も気に留めず、私は考え事を続けていた。
まぁでも……
だいたい物語通りねっ!
うんうんと大きく頷ずき、ひとりの世界に浸っていると、「お姉ちゃんって、なんだか変わってるよねぇ」と、さすがのマリーも眉をひそめていた。
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「ということで、マリーも参加することになりましたわ」
「……ということで? 何につながったんだい??」
いつものお茶会で、開口一番に告げた私の一言に、ジュリアン王子が苦笑する。
人の良い彼は、いきなり妹を参加させるという私の身勝手さを、笑って許してくれていた。
マリーは厚かましい姉とは違い、私たちの間で身を縮こませていた。
「……ぉ、お邪魔します……」
それに気付いたジュリアン王子が、優しく笑いかける。
「そんなに緊張しなくていいよ。アンナの妹ってことは、僕の妹でもあるし」
「ありがとう、ございます……」
瞳を輝かせたマリーが王子を見つめ、ポッと頬を染める。
その様子を私はニヨニヨと眺めながら〝物語でもそんなセリフあったなぁ〜〟と思い出していた。
ーー物語では、妹のローナが無理矢理お茶会に割り込んだ。
アンナが嗜めても、彼女は王子にだけ上目遣いで甘える。
「私もジュリアン王子とお話ししたかったんですぅ。ダメでしょうかぁ?」
そして人の良い王子は、決まってこう言うのだ。
「いいよ。アンナの妹ってことは、僕の妹でもあるし」
それから味を占めたローナは、毎回お茶会に参加するようになり……
猫撫で声で「お兄様ぁ」と、王子を呼ぶようになったのだ。
マリーが呼んだら……どうなるのかしらっ!?
と、ワクワクしてしまったので、あえて私から切り出してみた。
「そうね。マリーにとっては兄になるのだもの。ジュリアン王子ではなく『お兄様』でよろしいのではなくて?」
そう言ってから私はカップを手に取り、優雅にほほ笑んでみせた。
するとマリーは肩をピクリと震わせたあとに、おずおずとジュリアン王子を上目遣いで見た。
「お、お兄様……」
「…………っ」
これにはさすがのジュリアン王子も照れたようで、フイッと顔を逸らし「何だか慣れなくて……」とモゴモゴ言った。
あぁ!!
王子も絶対キュンとしてるっ!!
このあざと可愛いマリーの様子にっ!!
けど、なんか……
なんかーー
「許せない……」
「「えっ?」」
私の低い声に、王子とマリーが思わず振り向く。
私はカップをダンッと机に置いて、言い放った。
「本当のお姉ちゃんは私だけなんだからー!!!!」
私の魂の叫びに驚いたのか、そばの木に止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたいていった。




