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妹が可愛すぎて悪役令嬢になりました  作者: 雪月花


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3/9

3:可愛い妹は可愛く成長する


 前世では5歳で亡くなってしまった妹が、その年齢を無事に越えた。

 〝悲劇はもう繰り返されない〟と、ようやく安心できた私は、マリーの将来に目を向ける余裕を持った。


 そこでまず、礼儀作法や教養など、令嬢として身につけるべきものを意欲的に学び始めた。

 もちろんマリーが学ぶ時に、教えてあげられるように。


 夢だったんだよね〜。

 「お姉ちゃん、これ教えて?」って言われて「どれどれ〜?」って答えるの。

 

 と、マリーのためと自分の願望のために頑張っていると、気づけば〝公爵令嬢アンナ〟という評判までついていた。

 クローバー家には、品行方正な麗しい令嬢がいるとーー

 



「麗しい? ……それはマリーのほうだよね〜?」

 ドレッサーの前に座るマリーの後ろで、私は椅子に腰かけていた。

 彼女の髪の毛を手に取り、丁寧にブラシで梳きながら、ぼそりと呟く。

「?? お姉様?」

 鏡を見つめていたマリーが、不思議そうにチラリと振り返った。

「あ、今はダメよ。ヘアオイルを塗っているから、顔についちゃうわ」

「…………?」

 きょとんとしたままのマリーだったけれど、大人しくまた前を向いた。


 マリーは12歳になった。

 背丈もだいぶ大きくなり、体つきも女性らしい丸みを帯びてきている。

 そんな美しくなり始めたマリーを、さらに磨き上げることが、最近の私の一番の楽しみだった。

 

 メイドたちには「使用人のような真似をなさらないで」と止められるのだけど……

 マリーの面倒が見たすぎるから仕方ない。

 妹も私にお世話されると、嬉しそうにしてくれるし。

 どちらにとっても、幸せな時間じゃないかっ!!

 

 


「お姉ちゃん、い、いつもありがとう」

 毎回、手入れが終わると、マリーが体ごと振り向いて、照れくさそうにお礼を言ってくれた。

 

 マリーは私が極端に甘やかすせいで、危機感を抱いた両親に物語より厳しく育てられた。

 そのためか、あれだけワガママだったのが嘘かのように、真っ直ぐで優しい女の子になっていた。


 私はフフフッとほほ笑みながら「どういたしまして」と答える。

 それだけで、すごく満たされた気持ちになるから不思議だ。

 ふたりっきりの時は甘えて〝お姉ちゃん〟と呼んでくれるのも、たまらなく可愛い。


 頬を赤くしたままのマリーが喋る。

「勉強も教えてくれてありがとう。……マリーは分からない所が多いから……」

 そしてシュンとうつむいた。


「…………」

 妹は、私より出来ないことを気にしていた。

 でもそれは当然だ。

 マリーは私より2歳年下なのだから。

 それに私は、マリーに教えてあげたい一心で、人よりずっと必死に勉強している。

 簡単に負けるわけにはいかないのだ。


 だから私は、比べる必要なんてないことを伝えた。

 ありのままのマリーが、一番大切だと。


「マリーがいるだけで、お姉ちゃん幸せなんだよ」

 ありったけの想いを笑顔に込める。

 並んで座ると、もうほとんど変わらない背の高さになったマリーの頭を、そっと撫でた。


 テレテレと顔を伏せていたマリーが、キュッと口を引き結び、そっと顔をあげた。

 ためらう気配をまといながらも、まっすぐに私を見つめてくる。


「…………お姉ちゃん。マリーは、どこにも行かないよ」


 突然マリーが、真剣な思いを告げてきた。

 私が驚いて目をパチパチしていると、彼女は指先をもじもじさせながら、言いにくそうに続けた。


「お姉ちゃんがそう言う時、なんだか悲しそうだから……」


「マリー……」


 こんなふうに私を気にかけてくれるなんて。

 本当に、なんて可愛い子だろう。


 5歳までしか生きられなかった、前世の()()

 今度こそ、マリーには穏やかな未来が続いていきますようにと願うたびに、どうしても()()の最期を思い出してしまう。

 その想いの揺れが、マリーにも伝わったのだろう。


「うん、いつまでもお姉ちゃんと一緒にいてね」

 私が(いつく)しむようにほほ笑んで返すと、マリーはむくれながら前を向いた。

「……でもお姉ちゃんは、お嫁に行っちゃうんでしょ?」

 口の中でつぶやき、鏡越しの私からプイッと顔を背け、頬を膨らませる。


 マリーは、ジュリアン王子の婚約者として、私の名が挙がっていることを言っているのだ。

 妹のために令嬢らしさを磨いたせいなのか、それとも物語の筋書きに引っ張られているのか……

 気付けば私は、ジュリアン王子の婚約者になりつつあった。


 拗ねたマリーの後ろ姿を見つめ、パァァッと表情を華やげる。

「え? それって、お姉ちゃんが居なくなるかもって寂しがってるの!?」

「……寂しくなんかないもんっ!」

「えへへ〜お姉ちゃん嬉しいっ!!」

 感極まった私が、後ろからギューッとマリーに抱きついた。


「ぅぐっ! お姉ちゃん苦しいってば!」

 マリーが照れ隠しに、ジタバタと暴れてみせた。




 **===========**


 結局私は、王太子の婚約者になってしまった。

 ほぼ両家の話し合いで決まり、私たちは一度あいさつを交わしただけだった。

 その時〝あのジュリアン王子だ〜。まだ小さいけど〟と思ったことしか覚えていない。

 

 決定したことも、家族団欒の食事中に、パパからさらっと報告された。

「アンナにいい知らせだよ。なんとジュリアン王子の婚約者に選ばれたんだ。おめでとう」

「……ありがとう、お父様」


 うーん、政略結婚だからこんなものかな?

 と納得している私の横で、マリーが大騒ぎする。


「えぇ!? 本当にお姉様がジュリアン王子の婚約者に!?」

 マリーが前につんのめって机を鳴らしてしまい、パパが軽くたしなめながら返事をする。

「前からクローバー家と縁を結ぶ話があってね。それで、何事にも丁寧に取り組むアンナを、ということになったんだ」


 パパのセリフを聞きながら、私は〝これ、物語のワンシーンだ〟と思い出していた。

 

 たしか物語では、物語の妹(ローナ)が「じゃあ、婚約者は私でもいいじゃないっ!」って言うんだよね〜

 と、呑気にそんなことを考えながら、小さく切った肉を口に運び、もぐもぐと静かに咀嚼した。


 マリーは青ざめたまま家族の顔を順に見ていき、やがて震える声をもらした。

「……じゃぁ、お姉様は……もう出て行っちゃうの?」


「…………」 

 これには『淑女は表情を崩さない』と教え込まれてきた私でさえ、ニヤニヤしてしまう。


 思わず頬がゆるんだまま、ニッコリとマリーを見た。

「出て行かないわよ。……マリーが望むなら、ずっとここに居るわ」


 そんな勝手な発言に、ママがすぐさま釘をさす。

「それは無理よ。何よりあなたは王太子妃になるんだから……王宮で務めを果たしてくれる?」

「…………」


 ーーさすがママだ。

 私がマリーのために、いざとなれば別居婚を覚悟したことをお見通しだ。


 私がスンとしていると、マリーが口を尖らせながら覗き込んできた。

「……お姉ちゃん……」

 その恨めしげな瞳に〝王子に取られちゃう〟という拗ねた思いが透けて見えた。

 

 はぅぅっ。

 きゅ〜んとする!

 妹がめちゃくちゃ可愛い!!


 目をキラキラさせながらマリーを見つめ返すと、彼女はハッとしてそっぽを向いた。


 私は〝マリーが嫉妬してくれるなら、婚約者ができるのもいいもんだなぁ〜〟と、また小さく切った肉を口に運び、ゆっくりと味わった。

 



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