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妹が可愛すぎて悪役令嬢になりました  作者: 雪月花


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2/9

2:超過保護な姉


 妹マリーの誕生により晴れて姉になった私は、まずは彼女が元気に育つことだけを、何よりも大事にした。

 

「ママっ、マリーを連れてどこ行くの!?」

 私は、ばったりと廊下で会ったママに詰め寄った。

 彼女の腕には抱っこされたマリーがいる。

 マリーは「あぁ、うぅぅ〜」と手を伸ばして、小さな指をにぎにぎさせていた。


「えぇ? ……お天気がいいから中庭に行こうかと」

「わかったわっ」

 私はクリルと背を向け、ママが転ばないように先回りして歩き出した。

 つまづくものがないか、目を光らせながら。


「あ、そこのメイドさん。外に行くからマリーの日傘をお願い」

 そして道すがら、テキパキと指示を出す。

「は、はい!」

 大人顔負けの私の態度に、メイドは気圧されたようにそそくさと離れていった。

 背後からは、ママの呆れたため息が聞こえたけれど気にしない。


 マリーが怪我したり、病気になったりしたらどうするのよ。


 私はママとマリーを守るナイトのように、堂々と先導した。




 こんな調子だから、マリーが泣くと遠くからでもすぐにすっ飛んでいった。

 白いレースのベビーベッドに眠るマリーを覗き込み、そばに控えている乳母役の女性に伝える。


「眠くってマリーがぐずってる。抱っこしてあげて」


 産後の体を休めるためにソファに腰かけていたママは、そんな私の様子を遠巻きに見つめていた。

 わずか2歳しか変わらない娘が、プロのように妹の面倒を見る姿に、なんとも言えない戸惑いの表情を浮かべる。


「……アンナには、何かが乗り移っているのかしら?」




 **===========**


 そんな私のお世話のかいがあってか、マリーはすくすくと成長した。


「ねぇね、ねぇねー!!」

 歩けるようになると、私のことを一生懸命呼ぶようにもなった。

 庭にいる私を見つけると、家の中からとてとてっと駆けてくる。

 最近は後追いするのが楽しいらしく、マリーは花が咲くようにぱあっと笑った。


「ぎゃーっ!! なんて可愛いのっ!!」

 私はそんなマリーをぎゅうっと抱き止めた。

 

 妹の愛らしさにますます磨きがかかり、私はさらにメロメロになった。

 赤ちゃんのころは、私の小さな腕では落としてしまいそうで、そっと触れることしかできなかった。

 けれど今はこうして、思いきり抱きしめられる。

 それがたまらなく幸せだ。

 喜んだマリーがキャッキャと笑う高い声さえも、全てが愛おしかった。


 部屋の中から様子を見守っていたママとパパが、庭でじゃれ合う姉妹の様子に、目を細めて笑い合った。

 飛び出したマリーを追いかけてきたはずなのに、今では〝アンナに任せておこう〟とでも言いたげに、肩を並べてほほ笑んでいる。

 この頃にはもう、私の度を越した姉バカぶりも、両親はそういうものだと受け入れていた。




「今日は何して遊ぼっか?」

 そして前世でのマリーの最後の願いーー

 『もっとお姉ちゃんと遊びたかった』を叶えようと、私は心に決めていた。


 妹からそっと体を離し、マリーのまあるい瞳を覗き込む。

「えっとぉ……」

 マリーの小さな口が、考え込むように動く。

 私は〝ゆっくり考えていいよ〟と目で伝えるように、優しく笑いかけた。

「マリーは何したい? おいかけっこ? それともお人形遊び??」


 元気なマリーと遊べることが、今の私には何よりも嬉しい。

 だから彼女がしたいことを、好きなだけさせてあげたい。


「ねぇね、だいしゅきっ!!」

 突然マリーが私に抱きついた。

 思いがけない言葉に胸がぶわっと熱くなり、私もぎゅっと抱きしめ返す。

 同時に腕の中で感じた背の高さに、はっとした。


 ……気づけばもう、胸のあたりまで大きくなっていたんだ。

 

 

「……私も大好きだよ」

 

 返事をしながら気付いた。

 あぁ。

 いつも私が「可愛い、大好き」って言ってるからだ。


 想いを返そうとするまでに成長したマリー。

 どうかこのまま、元気に大きくなりますように。


 そう祈りながら彼女の頭に頬を寄せると、お日様のような匂いがした。

 胸の奥がゆっくり満たされていくのを感じながら、私はそっと目を閉じた。

 姉妹そろって転生出来たことを、改めて神様に感謝しながら。

 



 **===========**


 私のありったけの愛情を受けて、マリーは甘えん坊のお姉ちゃんっ子に成長した。

 そして物語通り、わがままな子になってしまった。

 けれどそれでもよかった。

 前世では入院続きで出来なかったわがままを、思う存分させてあげたい。


「お姉たまが食べてるお菓子、マリーもほちぃ」

 マリーは私の物を何でも欲しがった。

 物語の妹(ローナ)と同じ言動すら可愛く感じてしまい、クスリとほほ笑む。


「いいよ。たくさん食べて大きくなってね」

 

 ーー私は言われるがままにほいほい差し出した。


「お姉たまのオモチャがほしいなぁ」

「いいよ〜。はい、どうぞ」


 ーーそれはマリーが6歳になるまで続いた。


「お姉様のその新しいドレス、マリーが着たいの」

「うんうん、ドレスも可愛いマリーが着た方が喜ぶよ〜」


 けれどそんな日々が長く続くと、私の持ち物が貧相になってしまった。

 それを見た両親は「マリーに何でもあげるのはやめなさい」と困った顔をする。

 でも私は笑って顔を振り、マリーが欲しがるものを与え続けた。


 呆れた両親が「じゃあこれはアンナのよ」と、私に新しい物を持たせるようになった。

 ……その光景が、どうやらマリーには面白くなかったらしい。

 最近は両親と口げんかする声が、よく部屋の外まで聞こえるようになってしまった。




「うわーん! お姉様! パパとママが私には可愛いドレスを買って下さらないの!」

 マリーが部屋まで駆けてきて、椅子に座る私の胸に勢いよく飛びついた。


 物語では(アンナ)と言い合いをして、泣きつくのは両親のはずなんだけど……

 と、少し戸惑いながらもマリーを受け止めた。

「泣かないで可愛いマリー。何とかしてあげたいけど……ごめんね、私もこのあいだ水色のドレスをあげたばかりだから、新しいドレスはもうないの」

 そう言って頭を撫でると、マリーはそっと顔を上げた。

 

「え? アンナお姉様が今着ている服は……」

 マリーが私の胸元に視線を滑らせる。

 そこにあるレースをじっと見つめた彼女は、それがすっかりくたびれていることに気付き、小さく息をのんだ。


「この服ね、気に入ってるからつい着こんでしまったみたい」

 私は、マリーの乱れた髪を耳にかけてあげながら笑った。

「…………」

 マリーは幼い肩をきゅっと縮め、静かにうつむいた。




 それからしばらくして。

 新しいミント色のドレスに身を包んだ私は、家の廊下を軽やかに歩いていた。

 すると背後からスカートをそっと引かれ、思わず足を止める。


「……ん? どうしたのマリー?」

 振り返った私は妹に気付くと、首をかしげて笑った。

 マリーは、掴んだスカートをじっと見つめている。

 その様子に〝このドレスも欲しくなったのかな?〟と、ふっと笑みを深めた。

 けれど彼女は、拗ねたように私を見上げ、頬を赤くした。


「……マリーね、これと……()()()のドレスが欲しいの」

「え? これが欲しいんじゃなくて?」

「うん、お姉様と……()()()がいいの」


「マリー……ッ!!」

 感動した私は思わず息を詰まらせた。

 

 なんて優しいんだろう!

 自分が貰ってばっかりじゃ、私の服がなくなるからって考えてくれたんだ。

 けれど私のドレスは自分も着たいから〝お揃い〟に……

 可愛いっ!

 可愛すぎるっ!!


 私はマリーの手をむんずと掴むと、思わず前のめりになって答えた。

「それはいいわね! さっそくお母様にお願いしましょう!!」

「わわっ、待ってお姉様!」

 

 そうして私は、ぽかんとするマリーを半ば引きずりながら、勢いよく歩き始めた。




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