10:卒業パーティ
そしてとうとう、卒業パーティーの日がやってきた。
……頑張ったぁ〜
この日のために、頑張ったよ私!!
悪役令嬢としては、上出来だったんじゃない?
何故かマリーとの仲は、ますます良好だけど……
『お姉ちゃんが王太子妃の心得を教えてくれてる!』って感じで、期待に満ちた顔で見られてるような気がするけどっ!
予想外の結果にはそっと蓋をして、私はマリーと一緒に会場の扉をくぐった。
並んで入場すると、すでに集まっていた生徒たちが一斉に私を見る。
それもそのはず……
ジュリアン王子のエスコートなしで、私が入ってきたからだ。
……マリーはともかく、王子からはいい感じに嫌われたんだよね。
私のエスコートも断られたし、今日ここで何かを発表する計画が、裏で進んでいるみたいだし。
ふっふっふっ。
思った通りの流れに、ニヤニヤしながら会場の中央まで進み出た。
少し距離を置いて見守る生徒たちが、ざわざわと囁き合う。
そんな中、私は背筋をピンと伸ばし、彼らをゆっくりと見渡した。
この日のために仕立てたドレスを、見せびらかすように。
いつ始まるのかしら?と、キラキラした眼差しも向けてしまう。
「お姉様、わくわくしてる?」
隣にいるマリーが、わんぱくな子供を見るような目でクスクスと笑った。
どうやら彼女には、卒業パーティーを心待ちにしていた姉に見えているらしい。
その様子から、彼女だけが知らないようだ。
この場で何が行われるのか。
……サプライズってわけね。
やるじゃない、ジュリアン王子。
私は思わず口元をゆるませて、マリーを振り返った。
「そうじゃな……はぅっ!」
途端に彼女の眩しさに目がくらみ、体をのけ反らせる。
妹もまた磨き上げられたドレス姿で、ひときわ輝いていた。
「…………」
マリーは、今日何度目か分からない私の反応に、無言で呆れていた。
美しい……
美しすぎるぅ……
「お姉様、拝んでるの?」
手を合わせ出した私に、思わずマリーが声をあげる。
「マリーが女神様に見えて……」
「変な儀式にしか見えないから、やめてよ」
妹が愛らしく頬を膨らませていると、私の背後からひときわ大きな靴音が響いてきた。
コツコツと一直線に向かってくる足音。
会場にいる生徒たちの張り詰めた空気。
そしてーー
私の背中に突き刺さる視線!
ついにこの時が来たんだと、私は心の中でほくそ笑んだ。
「アンナ、君に話がある!」
「……何でしょうか?」
もったいぶったように振り向くと、案の定ジュリアン王子が立っていた。
彼もこの日のために、非の打ちどころのない正装に身を包んでいた。
カフスボタンやクラバットを飾る宝石を、マリーのアクセサリーとしれっとお揃いにしている。
……物語の、筋書き通りね。
品定めするように下から上へと視線を滑らすと、怒りに満ちた彼の瞳と目が合った。
それが合図だったかのように、王子がすぅっと息を吸う。
同時に場内がしんと静まり返った。
「君との婚約は破棄させてもらう! アンナの悪意ある行為は、王太子妃に相応しくないと判断したからだ!」
「…………悪意ある行為?」
私はわざとらしく扇子を広げて、口元を隠した。
扇子の奥から、ジュリアン王子を蔑むような視線を向ける。
ここまで来たんだから、この場を盛り上げるのに一役買いましょう。
くつくつと愉快そうに笑っていると、王子が厳かに罪状を並べ始めた。
「一部の生徒への脅迫」
「……あぁ、マリーの悪口を言った方々ですわね。脅迫なんて、事実無根ですわ」
「特定の人物を称えた思想誘導の演説」
「諸事情でマリーに対して言えなくなってしまったので、鬱憤が溜まりまして。妹が可愛いと宣言して何が悪いんですか?」
「そして……僕への誹謗中傷だっ!! 君が生徒たちの前で僕をなじるせいで、王宮でもひそひそされる始末だ! どうしてくれる?」
「それはーー」
私は眉をひそめ、言葉を切った。
一拍置いてから声を張る。
「ーー認めましょうっ!」
突然始まった寸劇に、見守っていた生徒たちからもどよめきが起こる。
「フフッ、認めるんだ」
「マリー様のことになると、人が変わるわよね」
「王子もこんな場所で言うなんて……ククッ」
そんな周りの声を打ち消すように、ジュリアン王子が大声で宣言した。
「よってアンナとの婚約は解消し、代わりに妹のマリーと婚約する!」
「「え?」」
私とマリーが声を揃えた。
それまで控えていたマリーが、ためらうように前へ出て、私の隣に立った。
喜びと罪悪感が混じった複雑な表情を浮かべ、おずおずと声をかける。
「おねえ…………っ!?」
けれど私の顔を覗き込んだマリーは、息を呑んだ。
……顔を伏せた私は、おろした両手を握りしめたまま、わずかに震えていた。
悲しみに打ちひしがれたその姿に、誰もが言葉を失う。
けれど私はーー
はらわたが煮えくり返っていた。




