空から落ちてきた死
朝の夢の通り、白河ユメの“死”は確かにやってきた。
でも、運命はただの繰り返しではなかった――手段を変えて、彼女を奪おうとしてくる。
放課後の帰り道。
笑いながら横を歩くユメの声が、いつもより少し遠くに感じた。
「それでね、その店のケーキがすっごく可愛くて……」
ユメは話し続けていたけど、ユウトの意識は、彼女の足元と周囲に張り巡らされていた。
(ここまでは夢と違う。まだ“起きてない”。でも、だからこそ……)
そのときだった。
カーン――
どこか上から、小さな金属音が響いた。
「……ん?」
ユメが顔を上げる。
空を見上げた瞬間、ユウトの中の何かが叫んだ。
「――危ないっ!!」
腕を掴んで引き寄せる。
次の瞬間、轟音とともに重たい金属がアスファルトを叩きつけた。
ガッシャァン!!
地面に突き刺さったのは、ビルの高所から落ちた鉄パイプ。
削られたアスファルト、跳ね上がった破片――
ユメの立っていた場所に、それはあった。
彼女はユウトの腕の中で、呆然とその光景を見つめていた。
「……え……?」
声にならない言葉が、唇の隙間からこぼれる。
辺りに人が集まり、騒ぎが広がっていく。
ユウトは、ただ震えていた。
(助かった……けど……)
何かが変わったような気がしたのに、
それでも“死”は、やっぱり彼女を追いかけていた。
•
その日の夜。
夢の中で、また彼女は死んだ。
今度は、教室の中。
午後の柔らかな日差しが差し込む窓辺で、
彼女は、ふっと笑った直後に崩れるように机に伏せた。
「白河さん……?」
誰かの声。ざわつく教室。
彼女の口元から血が伝い、机にぽたりと落ちた。
赤い、赤い、信じられないほど鮮やかな赤。
制服に広がる血の染み。叫ぶクラスメイト。
そして、何もできずに立ち尽くす自分。
(まただ……また……!)
夢の中で、ユウトはただ叫んだ。
「やめろよ……!やめてくれ……!」
•
目を覚ましたとき、息が乱れ、胸が苦しかった。
冷や汗が背中を伝い、喉が焼けるように乾いていた。
(何度助けても、何度でも死ぬ……)
心が、軋む音を立てているようだった。
どれだけ変えようとしても、違う形で、死はやってくる。
これは運命なんかじゃない。
もっと残酷で、もっと意地の悪い何か。
(俺が壊れるのが先か……運命が折れるのが先か……)
その問いに、誰も答えてはくれない。
彼の長い、終わりの見えない戦いが始まろうとしていた。