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よみきりもの(異世界恋愛他中短編)

転生はしたものの……ジャンルがさっぱりわからない

作者: 雲丹屋

親の顔より見たテンプレ展開で転生した。

正直、ベタ過ぎて「こんな目にあって死んだら、転生しちゃうんじゃないのか〜?」って、死ぬ間際に思ったら転生しちゃったので、自業自得っぽくて、ちょっと恥ずかしい。


というわけで、純正サブカル脳のソフトウェア完全互換で転生先にアップデートしてしまったので、自覚したときから、メタる気満々だったのだが、ここで想定外の問題が発生した。


自分の転生先が、何系の世界なのか、ジャンルがよくわからなかったのだ。


下手に雑食であれこれつまみ食いしていたのが災いした。

特にのめり込んでいた”原作”の心当たりがまったくないだけに、あるあるなパターンに気づくと、さてはソッチ系か?と疑ってみるのだが、どうもわからない。


まず、舞台は俗に言うな〜ろっぱ的なんちゃって西洋。実家は上流階級っぽかった。

装飾多めの豪華なお屋敷が自宅で、自分はそこの家長の子らしい。アニメやコミックのコスプレチックなアレンジが効いた服装の執事やメイドが世話をしてくれた。

王族や貴族がいる階級制度のある社会で、しかも生まれによる格差が激しいようで、そういう意味では親ガチャはアタリ。


ただし、家族の愛情という点では大ハズレで、なんと、ろくに親の顔を見ないまま育つ羽目になった。母親については居るやらいないやら消息すらはっきり教えてもらえない。

不憫虐待モノなら、下剋上ざまぁか!と最初は張り切ったのだが、普通にいい乳母はいたし、何不自由なく暮らせたので、虐待ではなく、そういう文化らしい。

中身が中身なので、親が恋しい訳でもなく、飢えるほど愛情が欲しい訳でもないから、何の問題もなく、かえって気楽なぐらいだった。

親の存在が希薄で、使用人は充実した大きな屋敷に主人公が放置というと、独裁悪徳貴族のエロゲなハーレム展開来るか?と思ったが、普通にオイタは禁止だった。そういうジャンルではないらしい。残念。

この顔なら性別関係なくひどい目にあわされる側もありえたので、ある意味セーフだったのかもしれない。



システムとしては、ユーザーインターフェースが拡張現実するゲーム世界ではなく、現実準拠。パラメータを表示するメニューも、アイテムボックスも、頭上に現れるアイコンもなし。

「ステータスオープン」とか、「鑑定!」とかやってみたかった気は多少するが、元々ゲームはそれほど詳しくなく、やり込み勢というわけでもなかったので、ゲームな世界だったら逆に対応がしにくかったかもしれない。


ただし、人の能力や才能の高低は、言動をじっくり見ていると、なんとなく感じられるので、隠しパラメータが存在する可能性はある。あるいは何かの能力解放条件が成立すると表示されるのかもしれない。

リセマラができるか確証がない以上、セルフ育成はバランスよく、慎重に根気よくしたほうが良さそうだ。




そんなことを妄想しつつある意味、気楽に幼少期を過ごしていたのだが、ある日、とんでもない事実に気づいてしまった。


「ツノがある」


父上の顔が知りたいと言ったら、見せてもらえた肖像画に、なんとも立派な角が描かれていた。


「尊い血の直系血族の証です」

「なんかすっごく太くてデカくてゴリゴリでえっぐい角……」

「角は貴種の誉で、大きいことは誇りではありますが、あまり人前で口に出して良いことではございませぬゆえ、お気をつけくださいませ」


お、おう。

あとで教えてもらったところによると、角は貴族と平民を分ける血の証で尊いものだが、それについて直接的表現を口に出すのは下品でマナーに反するらしい。

貴種の誉だけど、微妙に扱いは猥褻物と一緒なのか。うーん。

自分にはついていないと言ったら、大人になると生えてくるのだと教えられた。

どうでもいいけど、まだ幼い子供の自分に色々と聞かれて、説明するときに、いちいち口籠ったり赤面したりするのはよして欲しい。そんなにアレな話題なのか?角って。


試しに、一つ年上の乳兄弟のセレムに生えてるか聞いてみた。


「えっ!?」

「おまえ、ある?わたしはツルツルでぜんぜんないんだよね」

「あっ、そ、そう……」

「大人になったら生えるらしいんだけど、年上のおまえならちょっと出てたりするのかな。触らせて」

「ええっ」


残念ながら、その時は二人ともさっぱりだった。



その後、それとなく確認したが、角が生えていても、特に父が魔王というわけではなく、ここが魔界で我々が魔族という設定があるわけでもなかった。もちろん勇者設定もない。単に角というのが純然たる異世界設定な感じで楽しい。

自分にどんな角が生えるか楽しみにしつつ、まずは乳兄弟の頭をちょくちょく観察して過ごした。




「あ、お前。ちょっと生えてきてるんじゃないか。ここ」


家庭教師や武術師範の指導で絞られる合間の、ちょっとした暇な時間に、いつものようにソファーでセレムの頭を抱え込んで、真っ黒な髪の間に指を通して弄っていたら、側頭部に小さなコブができていた。

軽くさすってみると、セレムは声にならない悲鳴をあげて仰け反った。


「やめてください!」


いつも無表情で澄ましている年上の乳兄弟の狼狽が楽しくて、それから毎日、暇を見つけては、どんな具合か尋ねて、見せてもらったり、撫でたりつついたりして遊んだ。


「いーなー、角。私も早く欲しいなー」

「その時はこの思いを倍にして返して差し上げますからね!」


涙目のセレムの、成長が早すぎて薄皮が切れちゃった角の先っちょに軟膏を塗ってあげながら、私はケラケラ笑った。




そんなことをしていたバチが当たったのだろうか。ちょっと笑い事では済まない事態が発生した。


私に角が生えなかったのである。


トップオブトップの父上の正当な世継ぎで、箱入りだった母上の紛れもない実子なのに、角なし!

稀にあることらしいが、とてつもない醜聞である。

正直、私は思った。


あ!そーきたか!!


血筋よし、顔よし、文武両道で隙なしのパーフェクトなキャラにセルフ育成成功していたので、ここいらで無双ルートか逆境ルートが来るかな?と思ってはいたのだ。

来たよ!呪われた出自&秘められた弱点。

無敵完璧美形なのに”角なし”。

くぅーっ。わかってるな、おい。


私は造り物の角を頭に付けてもらいながら、上目遣いでこっそりとセレムの様子を見た。

仏頂面で無表情で、眉間にちょっとシワが寄っている。

楽しくなさそうだ。ごめんな。


「私の”角”の管理はお前に任せる。絶対にお前以外には触らせないから、お前が責任を持って秘密を守ってくれ」


ついでにどういう成長具合でどういう角を付けるか、造り物のデザインも丸投げしてやろう。せめてもの詫びだ。

……お前がこの後、同じ年齢のときの自分の角よりちっちゃいのしか用意しなかったら、嗤ってやる。




そんなこんなで、”秘密”は忠実な従者に丸投げして、私は無事に社交界にデビューした。

このまま貴族社会で陰謀だの恋愛だのするのかと思っていたら、なんと学園編が始まった。


才能のある14から18歳の貴族の青少年を集めて切磋琢磨させ、その中で特殊な力に目覚めたものに国防を任せるらしい。


いやもうどこからツッコんでいいかわからない。

幼少期のセルフ育成中にスキルとか魔法とかないなぁと思っていたら、ここで出てきたよ。変な異能設定。


全寮制で世間から隔絶された施設で特訓って、学園編と言うよりは蠱毒とか虎の穴とかそういう奴ではないだろうか。


言いたいことは色々あったが、口に出しても仕方がないので、私は黙ってセレムと一緒に学園に入った。

学園内では元の家格に関わらず皆同じ立場。個人の能力だけがその優劣を定める。そういう規則だったが、私はセレムに秘密を管理してもらっている立場なので、普通に従者としての距離そのままで同行させた。

建前は建前として、うちぐらい家格が高くて本人が優秀だと融通は効くらしく、私とセレムは年齢は1つ違いだが、同室で、カリキュラムも同じものを受けられた。



煩わしい雑事を全部引き受けてくれる優秀なセレムを影のようにいつも従えて、私は学園に君臨した。

いや~、だってさ。この顔で、このスペックで、こういうキャラなら、学園支配しないと嘘でしょ。

「おのれ、生徒会め!」とか言いながら、反乱を起こしてくれる熱血野郎とか出てこないかな?と期待しつつ、ワクワクと優雅で楽しい暴君生活を送っていたのだが、どうもそういうジャンルではなかったらしく、跳ねっ返りの問題児も、変わり者の転校生もあっさり下僕になった。



順調に成長した私は、校内選抜の闘技大会で優勝し、3位だったセレム共々、特殊能力の測定対象者として、他の7位までの者とともに選抜メンバーになった。

先に特殊能力の有無を測っておいてから、その保持者の中で強いものを選べばいいのでは?と思ったのだが、どうやらこの異能は測定試験そのものが、強靭な肉体と、かなり強い精神力がないと、厳しいらしい。

やだなー。そんな試験。



何をやらされるのかと戦々恐々ワクワクドキドキで案内された先には…………巨大ロボがいた。


えー?

ロストテクノロジーの発掘品?

魔法文明の遺産?

はいはい。

マジか。どこまで迷走する気だ?


特殊な力が発現すると、この”戦神巨兵”と呼ばれる巨大ロボに認められ、パイロットになれるらしい。

己のうちにある根源的な力とか言われましても、あーた。イドだかイデだかわからん何かって、そう簡単に発動(イヤボーン)できるわけではないでしょう。


そう思いながら、コックピットらしき卵型のツルンとした小部屋に入った。前部のハッチ?を閉められると壁がほんのり暖色に光る。

おお、生きてるぞ。コイツ。

なんとなくそう感じた次の瞬間、周囲の壁から突然無数の金色の繊毛が伸びて全身を包んだ。


ぎゃーっ!


強靭な肉体とかなり強い精神力がないと無理……納得な体験だった。

私は無事に発動(イヤボーン)して、巨大ロボのパイロットになった。


だってさ。パイロットに適合してロボと感覚融合すると、外界が見れて四肢の感覚も戻るんだけど、そうなるまでずっと全身ゲログチョなんだもん。無理。あれは無理。


2名の脱落者を出して、残った5名が戦神巨兵のマスターになった。

ちなみに闘技大会の準決勝でセレムをいたぶって、決勝で私が徹底的にシメて心を折ってやった奴は、脱落してヨレヨレになっていた。ざまぁ!


「セレ、あれ平気だった?」

「あなたに無茶されるときよりはマシでした」

「ええっ」


しかめっ面だったがセレムも無事にクリア。しかもわりと平気そうだった。強いな。あれが平気とかちょっと変態なんじゃないだろうか。私は自分の従者の事がちょっと心配になった。




そんな心配をしていられたのも、その時までで、私達はすぐに戦場に送られた。

そうだよな。国防の戦力育成って言ってたもんな。


戦争相手は呆れたことに異世界だった。野っ原に突然開いている虹色の巨大な裂け目の向こうにゆらゆら見えているのは、高層ビル群で、思わず三度見してしまった。




禍々しい形状の空中魔導戦艦に乗って、召喚された魔獣と一緒に境界を越えて、敵の街を襲撃に行く。

敵の迎撃部隊が出てくると、その日の当番の戦神巨兵が出撃。魔獣のサポートをしつつ、敵部隊を殲滅。

ほどほどに被害を出したところで、降伏勧告を出して帰還。

こんなルーチンを回していたら、ある日、敵側に戦神巨兵モドキが現れた。


ちゃんと白い。なんなら赤と青がアクセントに入っている。

オーソドックスにシャープなシルエットにしてきたなぁ、というのが初見での感想だった。

あ、扁平足じゃなくて踵は別パーツなハイヒールタイプか。

腰回りと股関節細っせ……脆そう。


敵パイロットが初心者なうちに叩くのがセオリーでしょ。とばかりに、全機で出撃して徹底的にぶちのめした。

ごめんね、テンプレ。

悲しいけど、これ、戦争なのよね。


敵の白いのは、7日経っても復帰してこなかった。




軍事施設以外の公共インフラと民家を目標にして襲うのは、うちの世界の戦争のマナーとしてはよろしくないそうで、我々は日々、空中魔導戦艦でどこを攻撃しようか会議をした。

なにせ相手が異世界だから、なにがなんの建物かわからない。

こんな時こそ前世知識の出番……というわけにもいかない。どうも相手先の世界は微妙に自分の記憶にある世界とも違うからだ。


えーっと、この海沿いにある施設は石油化学コンビナートかな?製鉄所かな?よくわかんないけど原発ではなさそう。

怪獣映画や巨大ヒーローもので、よく背景で炎上してたっぽい風景だから、この際、いっちゃうか。


大雑把に「行け!使役魔獣!!」とかやって破壊の限りを尽くしていたら、慎重派の他のメンバーに止められた。

「我々は相手の世界のことを知る必要がある」とか言い出したトンチキの立案で、何故か私が潜入捜査する羽目になった。

そういうことは言い出しっぺがやれよ!というか、諜報部の下っ端にやらせろ!!希少な戦神巨兵のマスターにやらせんな。


文句たらたらだが、ちょっと前世っぽい世界へのお出かけにワクワクしつつ、お着替えして下界に降りた。


行く先は決めてある。

あの白いのが最初に現れた近くにある”学校”だ。

ふふふ、セオリーには詳しいんだよ。さぁ来い!主人公(ヒーロー)!!


いた。


驚いたことに、ひと目でわかるベッタベタのテンプレ主人公顔がいた。

なんなら、偶然ぶつかって「あっ、ごめん」とか言われた。

ま~じ〜か〜。

ひとの顔見て頬染めんな。


面白かったので基本に忠実な言動をしてみたら、なんと街を案内してもらえることになった。

お人好しにも程がある。


途中で合流した彼の”仲間”達と一緒に、名所を観光したり、ショッピングモールを冷やかしたり、遊園地で遊んだりした。

よし、任務完了。


「今日はとても有意義であった。ありがとう。そなたに会えて良かった」

「ま、また会えるかな」

「ああ。また会おう」


私達は再会を約束して、笑顔で別れた。





「なぜだーっ!?なぜ君と戦わねばならないんだ!!」

「我らが戦士だからだ」


新型に乗った主人公くんは、悔しそうに顔を歪めた。

さっきコックピット付近に一撃入れて装甲が一部吹っ飛んでいるので、よく顔が見える。

お約束の甘い世迷言を色々叫んでいるが、こっちとしては戦績のノルマもあるし付き合っていられない。

思い出の遊園地をガッツリ破壊して悪いけど、公共インフラじゃないとわかっている攻撃可能地点なんだ。すまんね。

敵の新型ももうちょっと念入りに壊しておくかと構えたところで、一人の美少女が割り込んできた。


「もうやめてーっ!」


いや、止めるのはお前だろ。

巨大ロボ戦闘区域に生身で入ってくんな。頭お花畑か。

無理矢理挙動を変えて少女を避けたが、駆動による風で彼女がよろけ、帽子が飛んで髪が乱れた。

いっかん!そこ足踏み外すとできたてほやほやの地割れに落ちて死ぬぞ!


コイツをここで死なせると、マズイという勘が働いて、咄嗟に戦神巨兵から飛び出して、落ちかけた彼女を抱きとめた。

戦神巨兵のコックピットは、乗るときはハッチから入ってアレな手順がいるんだけど、降りるときは戦神巨兵の付近の任意の場所にフワッと出現できる魔法降りなのである。搭乗時もフワッとした魔法にしてほしいと切実に思う。


何はともあれ危機一髪で助けた美少女を間近で見て、驚いた。

肖像画の母上に瓜二つ。

しかも小さいけれど角がある。


「君は!?」


おいこら。ここに来て生き別れの妹ぶっこんでくるとか盛り過ぎだから止めろ。居ない肉親は母上だけで十分……アレ?妹がいるということは母上こっちの世界に来ちゃってたのか。んで、たぶんこっちの男との間にできたのがこの子だな。黒髪だし。

やーい父上NTR〜。

じゃなくて、この戦争の原因それじゃねぇの?征服戦争にしてはいまいち攻撃の仕方が変だったし。


余計なことが一気に頭をよぎって、不覚にも動きが止まってしまった。


「その子を離せーっ!」


主人公くんの起死回生の一撃で私の戦神巨兵が吹っ飛んだ。

ヤバい。マスターが乗っていないとほぼただの石像だから、意外に脆いんだよ、あれ。

爆風で吹き飛ばされるが、妹(仮)を抱いたままなんとか平地に転がって受け身を取る。あ痛。背中尖ったものにぶつけた。

殺す気か、バカ。

おっと戦争だったわ。


「ここから離れろ。巻き込まれて死ぬぞ」

「そんな……どうして……」

「母上は息災か」

「え?……………!」


彼女が青ざめる。

はい、確定?

うーん、どうしようかな~。この子、連れて帰ったほうがたぶんいいんだけど、今は自分の帰還が怪しい。

乾いた銃声に振り返ると、血相変えた主人公が、半壊したコックピットから降りながらハンドガンでこっちを狙っている。あっぶねーな。


「母さんだけじゃなく、異母妹まで連れて行く気か!」


知らんがな。

新しいネタを振るな。

ちょっと迷ったが、次の攻撃をされる前に飛び退いて、撤退を選択した。セレムの戦神巨兵の音が聞こえたからだ。


「母さんを返せ!」


それ、こっちのセリフでは?

なんだか次々ややこしい設定が出てきて、付き合っていられない。


セレムの黒い戦神巨兵がメリーゴーランドを踏み潰して着陸した。へーい、遅いぜ、白馬に乗った(踏んだ)セレさんよぅ。


駆け寄ろうとした私の背中をフワッとした魔法の光が包んだ。戦神巨兵の魔法降りの光だ。

なぜ後ろ?

一瞬後に背後から銃声が届いた。

ズシリと背中に重みがかかる。


「セレム!」

「お迎えにあがりました」


ゴフッとセレムの口から血の混ざった咳が出た。嘘だろ、おい。


私はそのままセレムを背負って、跳躍した。戦神マスターの身体能力舐めんなよ。銃声が追ってくるが数発で諦めたようだ。

よし。このまま巨兵のコックピットに入れば多少の応急手当的な効果は得られるはずだ。


「セレ!巨兵を起こせ」


潰れたメリーゴーランドの上にうずくまった灰色の石像が黒く染まる。

胸部のハッチが怪物のあぎとを連想させる動きで開いた。

私を抱きかかえるように回されていたセレムの腕から力が抜ける。

くっそ。コイツもう意識がほとんどないな。


私はやむなくセレムを担いだまま、黒い戦神巨兵に乗り込んだ。



他人の巨兵のコックピットって、こんなにお出迎えがキツイんですね……。

いつもの繊毛さんが優しく思える暴力的な奔流に飲み込まれる。

専用機としてマスターを固定した巨兵のコックピットって、要するにそのパイロットの神経系の延長なのである。そこに他人が入るとどうなるか。


答え。ひどい目に会う。


私を異物として攻撃しようとする力と、私を取り込もうとする力が、私の全身を包み込み、私が何者かを確かめ、私をバラバラに分解しようとした。


「戦神!セレムを助けろ!」


叫びは繊毛の金色の光に飲み込まれた。セレムから引き剥がされそうになった私は、必死に手を伸ばして、セレムにすがりついた。

自分の身体の感覚が不確かになっていく。

伸ばした手がセレムの実体を掴めたのかどうかがわからなくなる。

伸ばした手と差し出された手が絡み合って、すがりついた身体と抱きかかえてくれた身体が、触れた境界から溶け合って一つに重なる。


これはヤバい。

知ってはいかん感覚を知ってしまった。


さっき打ち付けた背中に傷でもあったのか、血が流れ出ていく感覚があるが、同時にその血を吸収して全身の循環に取り込む感覚もある。セレムから流れ出す血と私の血が交じる。


これ、セレムも感じているのかなぁ。まずいなぁ。アイツちょっと変態気味なところがあるから、こういうことを覚えさせちゃいかんのだよなぁ。


そんな心配をする意識も蕩けて、私はセレムの戦神巨兵と一体化した。


うずくまっていたずんぐりとした黒い像の赤い眼が開く。

立ち上がる巨兵のシルエットは、パイロットが搭乗しているときのそれに変貌している。

主人公くんは少女と一緒に新型機のコックピットに戻ったようだ。

あちらのコックピットは航空機のシート式のようだ。羨ましい。


この状態で新型機と戦う気はないので、私達は翼を展開した。

巨兵と一体化している間は、望みさえすれば翼も生えるし空も飛べる。



上空で振り向けば、壊れた遊園地の地下から、敵の秘密基地がその姿を現すところだった。

秘密兵器っぽい巨砲が、こちらをロックオンしている。

砲口が淡く光りはじめた。


私達は腕を天に伸ばした。

戦神巨兵の武装は、パイロットの異能によってロストテクノロジーが発動することで異界より召喚される。

貴族の証である角は、戦神との融合を助け異能をよりスムーズに発現するための感覚器官のようだ。セレと溶け合ったことで角の感覚と役割が解った。どうやら私はこれまで膨大な力と才能のゴリ押しだけで異能を発現させていたらしい。今ならばこの力のもっと効率的な使い方がわかる。

私達の溶け合った意識は、一人では召喚不可能な超兵器を顕現させた。

見よこれぞ合体技!


敵の秘密基地から発射された光線と、私達のスーパーランチャーから発射された光線は正面から衝突して、空中で大爆発を起こした。




このときの爆発で、セレムの巨兵も大破し、なんとか帰還した私達はその後、うちの実家に封印されていた上位機種に乗り換えることになる。

セカンドシーズンで主役メカ交代だね!

最悪なのは、こいつを運用するためには、毎回セレムと二人でコックピットに入らねばならないということだ。

「私は平気です」と真顔で言えるうちの従者は、やっぱりちょっと心配である。




その後、敵の主人公くんの母親がうちの乳母(つまりセレムの母親)だとわかったり、父が私怨で戦争をしていることがバレて民衆の反乱が起こったり、うちの国に潜入した主人公くんが反乱軍を組織したり、国の安定のために私に婚約者ができたり、私が角なしなのがバレて婚約破棄されたり、処刑されそうになって逃避行したり、身分を隠して田舎でスローライフしたり、反乱軍に拾われて、主人公くん達と一緒に戦うことになったり……ちょっと方向性が行方不明な展開にガンガン流されることになったのだけれど、いつだってセレムは変わらず私の隣りにいたので、なんの不都合もなかった。




いつも通りくつろいでいるときに、つらつら考えた末に「そうか!私の人生バディものだったのか!」と言ったら「バカですか、あなたは。相棒はこんなことはしません」と腕の中から返された。

心外である。そうじゃないならなんだって言うんだ?


他に生涯共にいられるジャンルって何?

たぶんこのジャンル。


……投稿分類自体がオチという話です。

大人しくコメディで投稿しておけという話もありますが、可哀想な作中唯一のネームドキャラのために、ここのジャンルで投稿させていただきました。


不確かな世界で唯一変わらないもの……それはこの愛!(ツッコミ待ち)


問題はこの”愛”のジャンルがよくわからないところかも?この話もジェンダーレス?仕様でメイン二人の性別、読者の趣味におまかせだからなぁ……。


なにはともあれ

とんだバカ話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。

感想、評価☆、いいねなどいただけますと大変励みになります。

よろしくお願いします。







おまけ(2023/8/14追記)

【じゃないならなんだ】


「相棒じゃないなら何だ?」

「相棒やバディという関係は一般にはもっと対等な間柄をさします。こんな風に私が一方的に……」

「ん?」


角の付け根付近の凹凸をなんとなくさすっていた手を止めて、セレの顔を覗き込むと、ほんのり熱を帯びてちょっとトロンとした目が、戸惑うように揺れて、フイと逸らされた。


「なんだ。一方的というのは心外だな。私はセレの言う事にはなんだって従ってやっているし、お前が望むものは全部与えているではないか」


私はセレの額に自分の額を付けて、吐息が重なり合いそうな間近で囁いてやった。


「この私の身も心も、一片残らず全てをお前にあずけてやっているのだから、お前の全部を私が好きにするぐらい許容しろ」

「私が大切にすること前提で差し出して、私が耐えること前提で無茶をするくせに」

「私を害したくないのはお前の望みじゃないか」


別にお前がしたいなら私が傷つく結果になることをしてもいいんだぞと言ったら、やっぱりこんな関係は相棒とは言わないと、セレムはわからんことを言って顔をしかめた。

困ったやつだな。

しょうがないので、奴が機嫌を直すまで甘やかして、反抗的な屁理屈が言えなくなるまでグズグズにしてやった。


うーん。こういうのがダメなのかな?

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