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刺身

俺は部屋の片づけをしていた。

「ん?なんだこれ」

小学校の自己紹介シートみたいだ。

「どれどれ。宝物、赤いアームカバー。ああ、あの時母さんに駄々こねて買ってもらったやつか。それで…」

あっこれ見ちゃいけないやつ……古傷をえぐってさらに塩を塗るやつであることは自明であった。そして、謎の自己防衛の姿勢をとりつつ口に出す。

「ろいやる………ふぇにっくす」

突然床が光り輝く。

「なっ………魔法陣っ」

黒歴史がドミノ倒しだ。

「やあやっと呼んでくれたんだね」

いやここ二階だし。誰だよお前。

その声と共に魔法陣はさらに光り輝く。

「まぶしっ」

きゅっと結んだ瞼にようやっと優しい光を感じた。

目を開けると、俺は爽やかな風の吹く草原にいた。目の前には岩に突き刺さった一本の剣。

「いらっしゃい。手越朝君?」

どこかから声が聞こえる。

「なんで俺の名前を知っている??ここはどこだ!」

「つれないなあ。君が僕を呼び出したんじゃないかぁ…ほら僕はロイヤル………」

「ミルクティー?」間髪入れずにそう言った。どうでもいいから喉が渇いたリ●トンが飲みたい。

「フェニックス!全く!小さい頃の君は「わぁ!すっごい!」って目をキラキラさせてたのになぁ………こんなになっちゃって……」

お前か、厨二病の原因。

そんなことを思っている間もずっとあいつはくどくど文句を言っている。溜息をつきつつ、質問をする。

「ここはどこで、何が目的で俺を連れてきた?」

空気が変わった。ような気がした。

「今日君が僕を呼んだのは偶然じゃない。運命なんだ。僕はこの世の災難の時に目覚める救世の使者。現在この世界の結界は裂け、外つ国から暗黒エネルギーが侵略しつつある。最近、事件が多くなったとは思わないかい?それは、この事と深く関わりがある。そこで君だ。君の中の赤き竜の力は暗黒エネルギーを退け、結界を治す力がある。君の協力が必要なんだ。まずはそこに刺さっている剣を抜くんだ。」

改めて突き刺さっている剣を観察する。いつか、アーサー王伝説で読んで憧れたような、そんな景色が広がっている。もう少し近づいてみたい。へたり込んでいた足腰を立たせて、剣に近づいてみる。少し触ってみようとしたその時。

「よしっっ今だ!!」

あいつの声がしたと思った時には俺は剣を抜いていた。

「ありがとう!勇敢な君よ。これで救われる。」

はぁ?なんで俺が自ら抜いたことになってるんだ?なんだコイツ。悪い夢なら早く覚めて欲しい。

「これからしばらくお世話になるよ。朝くん!僕のことはフジとでも呼んでくれるといい!」

また世界が輝いて俺は気を失った。


次目を覚ますと、自分の部屋のベットにいた。どうやら眠ってしまっていたらしい。

「なあんだ夢か」

そうつぶやくと、

「夢じゃないよ」

と見慣れない長髪のにこやかなイケメンが俺を覗き込んできた。

「わあああっっっ」

飛び起きて、そいつに頭突きをかまし、ふと足元を見ると、夢の中で抜いた剣が転がっていた。

「痛いじゃないか!もう!」

「おっっおまえ誰だっっ!!!」

「もう忘れちゃったのかい?朝くん。僕はロイヤル」

「ミルクティー」

「なんだ覚えてるじゃないか。フジだよ!フージ。これからよろしくね?」

あっこれ信頼したらいけない系男子ナンバーワンだ。「夢ならばどれほどよかったでしょう」この歌詞が人生で一番似合う瞬間だと思う。やめてくれ。平穏に生きたい。

微妙な空気が俺とフジの間で流れている時、階下で劈くような悲鳴が上がった。

「母さん!!!」

そう叫んで手ぶらで駆け出そうとする俺に、フジは剣を掴ましてきた。

「きっとこれから使うよ」

もう構ってる時間は無いので掴んだまま、母さんの元へと走る。場所は多分キッチン。

「大丈夫か!!!」

キッチンの扉を開くと生臭い匂いが部屋中に充満している。そして、目を疑うような光景が広がっていた。巨大化した鯛が母さんを襲っているのだ。尾びれを足のようにして背鰭で包丁を器用に持っている。

「菴薙r縺上l」

謎の言語を発しながら鯛は母さんの喉元に包丁を突き刺そうとしている。呆然と立ち尽くしてしまった俺の右手の剣が突然青く光始めた。

「逵ゥ縺励>」

鯛が怯んだ。ああ今ならなんだか動けそうだ。そう思った時、俺は意識を失った。

真っ暗な意識の中で自分じゃない力が確かに見える。

目が覚めると、目の前には立派な鯛のお造りと、気絶して倒れている母さんの姿が広がっていた。

「お見事だよ。朝くん。色々予想外すぎたけどね。だって、朝くんすごい手さばきで鯛を倒して、その後フラフラしながらお作りをその聖剣で作り始めるんだもの。初めて見たよ、西洋式の剣で魚を捌く様子」

魚、捌くの初めてなんだけどなあ。

でもまあ、母さんを守れたなら良かったのか。

そう納得しかけて明らかに厄介事だと改めて思い直す。

「なあ、フジ。俺、この剣が光ってから記憶が無いんだが、これはどういうことなんだ?」

「ああ、そのことかい?まだ、体が剣に馴染んでないからだろう。そのうち慣れるさ。普段はこの鞘に入れるといい。」

そう言って、ぴったりな鞘を渡してきた。

「それに入れると、小刀になるし、刃渡りも6cmで銃刀法にも引っかからない優れものさ!」

疑心暗鬼になりながら、その鞘に剣を収めるとしゅるしゅると縮んで本当に小刀になった。

「肌身離さず持ってて欲しい。あと、君が寝ている間に留学生としてこの家に泊まることになったから!そこんとこもよろしく!!」

「なあ、この刀でお前の心臓突き刺してもいいか?」

笑顔を引きつらせながら俺は、フジに鞘に入ったナイフの切っ先を彼の心臓ら辺に当てる。

「死んじゃうからダメだよ。」

「お前不死鳥じゃないのか?」

「うん、だから、君が死ぬの」

「は?」

悪い冗談過ぎないか?

「今の状況だと僕を殺せば、君は死ぬ。君を殺せば、僕は死ぬ。運命共同体なのさ!」

「はあああ???????」

1.刺身((完))

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