表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第三章 Grow up soul
99/132

Level.94『Grow Up Soul――我は歩み続ける』




 迷宮通路の最奥。

 そこにはやはり広々とした空間が広がっていた。

 やはりと言うのは迷宮の最奥――異界門番(アビス・キーパー)の座す部屋はえてして広間になっているからである。


 何故なのか、疑問はあるが深く考えたことはない。

 かつて攻略してきた門が大抵そうであったため、俺の中ではそれが当たり前の常識となっている。


『――ヴルルルルルルルッ』


 広間には何体もの鬼牙種(オーガ)の姿があった。

 パッと見で12体はいるか。

 個体数は少ないが、そのどれもが精鋭だ。

 通路で戦った鬼牙種より格段に強そうに見えた。

 そして大骨剣を握り締めながらこちらを威嚇してくる鬼牙種が、闘争本能のままに襲いかかってこないのは優れた統率者がいる証拠。

 

 今や今かと戦闘開始を待ち望む鬼牙種達の中央にソイツはいた。


『――ヴォルルルッ』


 赤黒い毛皮と青い瞳を宿した鬼牙種。

 周囲の鬼牙種達よりも一際大きな体躯。鋼のように引き締まった肉体。

 右手には両刃の巨斧を下げ、悪魔のような雄角は己の強さを誇張するかのように湾曲している。

 

 他の個体とは明らかに違い、いかにも雰囲気がある。

 静かな殺気に肌が泡立ち、火種がヒリついた。

 奴が【門番】だとひと目でわかった。


「Level,6.8といったところか。鬼牙種にしては上位の個体だな」


 門番を観察していたらしいチコ先輩がおもむろにそうつぶやいた。


「6.8なら翼竜種(レッサードラゴン)並ってことか。なかなか強ぇじゃねぇの、今回の鬼牙種はよ」


「少なくとも目算での話だぞ。戦闘での駆け引きができるようならレベル7は堅いだろうな」


 そう断言するチコ先輩の言葉に俺は冷や汗を隠せない。


「レベル7……それってもう門のレベルを超えてるじゃないですか!?」


 しかも翼竜種(レッサードラゴン)と同格ってなんだよ。


 短い付き合いだが、チコ先輩の観察眼には目を見張るものがある。

 Growのメンバーもチコ先輩の言葉を疑わないし、もしかしてそれがチコ先輩の能力なのだろうか。

 何よりチコ先輩の観察眼で見た数値が外れた試しはない。


「さてと。門番の相手は誰がやるんだ?」


 ヒロさんが問いかけると、間髪入れず夕日さんが勢い良く手を上げた。


「はいはいはーい! 戦いたいでーす!!」


「却下だ」


 夕日さんの立候補を棄却したのはチコ先輩。


「ええっ!? なんでっ!!」


「何度も言わせるな。今回の異界攻略(レイド)は織﨑弟の実戦訓練がメインだからだ。日乃神、お前は黒染と門番の取巻き担当。祈子森、織﨑は後方待機。そして」


 チコ先輩の瞳が俺の方を向く。

 なんだか嫌な予感がした。


「門番の相手は織﨑弟、お前だ」


 いやいや、いやいやいや、お前だ、って。一種の処刑宣告だろうかこれ?

 道中の鬼牙種に苦戦していた俺が、門番を相手にどう戦えと言うのだろう。


 はっきり言って、Level.7の門番なんて俺がどうこうできるレベルの相手じゃないし、俺がどうこうしたところで勝てるイメージの沸かない相手である。


 いいなぁ、と羨ましそうに指を咥えてこちらを見ている夕日さん。変われるものなら変わりたい。


「チコ先輩〜、いくらなんでも萩ひとりじゃ危険すぎるでしょー? Level,7ってウチらでも油断できない相手じゃん」


 以外にも助け舟を出してくれたのは姉さんだった。

 心配性の過ぎる姉のことを普段は鬱陶しく思っていたが、今回に限っては心強いことこの上ない。

 いいぞ。その調子だ。もっと言ってくれ。

 顔を青白くさせている俺を横目に、姉さんの瞳がスッと細められる。


「あー。なに? もしかしてチコ先輩、うちの弟殺したいわけ? いいよ、相手になろっか??」


 突然、殺伐とした空気が周囲に蔓延した。

 サーッと顔から血の気が引き、俺の顔が更に青白さを増す。

 前言撤回だ。行き過ぎた過度なブラコンは鬱陶しさよりも恐怖が勝る。


 殺気立つ姉さんを尻目に【Grow】のメンバーは我関せずといった様子で顔を背けている。

 あんなに元気いっぱいだった夕日さんまでもが口をつぐんでいた。


「待て織﨑、早まるな。勘違いするなちゃんと考えてる。だからその殺気を沈めろ織﨑」


 柄にもなく焦っているチコ先輩を初めて見た。

 早口にまくし立てるチコ先輩は必死そのもので、それもそのはず冗談ではなく姉さんの目は本気だった。


「い、磐井、頼めるか!? 織﨑弟ひとりじゃ僕が不安だ。フォローしてやってくれ!!」


「お、おう……! 任せとけ!」


 果たして不安なのは俺の身か、チコ先輩の身か。

 恐る恐るチコ先輩が姉さんの顔色を伺うと、嘘のように姉さんから殺気が消えていた。


「ヒロが萩につくなら私も安心だよ〜。良かった良かった。私もGrowと戦争したくないしねぇ」


 物騒な発言をする姉さんに、いやいやと俺は首を振った。


「戦争って……姉さん、冗談が過ぎるって」


「ん? 冗談? ふふ、だね。冗談で済んでよかったよ」


 姉さんは楽しそうに笑っていた。

 冗談なのか、本気で言っているのか。あまり考えたくないので俺も「あはは」と棒読みで笑った。

 肩を落として安堵を浮かべるチコ先輩が、ため息混じりにヒロさんへ横目を向ける。


「わかってると思うがメインは織﨑弟だ」


「ああ、わかってんよ。よろしくなー萩」


 気軽にぽんと肩を叩いてくるヒロさんに、よろしくお願いしますと俺も頭を下げた。


「油断するなよ、織﨑弟。今までの相手とは一段レベルが違う。流燐を使いこなして見せろ。あと、絶対に死ぬなよ。絶対だぞ。じゃないと僕が殺される」


「精一杯、頑張ります……」


 最後の方は、チコ先輩の切実とした本音が混ざっていた。

 別に俺だって死にたいわけじゃない。

 ここまできたらやってやる。

 Level.7の門番相手だろうが勝ってみせる。


「役割りは決まったな。指示はどうする?」


「今回の門はLevel.6だ。僕が指示を出す必要はないだろう。それに僕が指示を出したんじゃ織﨑弟の実戦訓練にならないしな。

 状況が変われば要所要所で指示を出す。それまでは各自自由に動いてくれ」


 黒染さんの問に応えた後、チコ先輩は周囲のメンバーの顔を軽く見回した。


「総員、準備はいいか? ボス戦だ。これが終わったら、この門の報酬でディナーはワインにBBQとでも洒落込もうじゃないか」


「俺はハイボールが飲みたい」


「何言ってんだ、肉にはビールだろ?」


「はーい、私カルーアミルク」


「私もカルーアミルク飲みたいです!」


「え〜、さきさきとアイリンもお酒飲むの!? だったら私はオレンジジュースのサワーでも飲もっかな!」


 早くも異界攻略(レイド)後の晩餐について会話を弾ませるGrow。

 呑気なものだ。緊張とかないんだろうかこの人達。


「萩は二十歳超えてるんだっけ?」


「俺は今年の11月で20歳です」


「なんだよ萩、若いな。それじゃ酒はお預けだ」


 誕生日がまだ来てないことを少々残念に思いつつ、そのぶんたらふく肉を食ってやると俺は心に決めた。

 そんな俺自身もGrowの呑気に感染してしまっている。


「日乃神、号令を」


 チコ先輩に指名された夕日さんが拳を突き上げた。


「【Grow up soul】私達は歩み続ける、心象武装(オクトラム)と共に。それじゃあ総員、戦闘開始だよ!」


 宣誓、そして戦闘開始の合図だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ