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レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第三章 Grow
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Level.87『Grow集結』




 試しに肩の力を抜いてみることから始める。

 深呼吸するとスッと肩が僅かに下がった。知らずのうちに力みすぎていたようだ。


 静かに火種を肩に収束させる。

 心なしか、力んでいないぶん、今まで以上に火種が収束されていく感覚が伝わってくる気がした。


 戦闘中だということを一旦忘れ、集中してみる。

 雑音が遠ざかり、自身の心音が近くに聞こえる。

 身体の中を巡る火種の熱に意識を向けた。


 ――あったかい。


 感じたのは、俺を優しく抱き締め、包み込んでくれているかのような火種の熱だ。


 思い返せば、俺はいつも火種に助けられてきた。


 始めは大切な人を守れなかった火種に憤りを感じていたが、時が過ぎていくにつれ、その感情はいつしか風化されてしまった。

 今はただ、もう二度と目の前で大切な人を失いたくないと、そのために強くなりたいと思っている。


 その意思を火種が背中を押してくれる。

 いつしか火種は、俺の相棒に親しい存在になっていたのだ。


 俺はひとりじゃない。

 そう思うと、ひどく安心を覚えた。

 頼りがいのある相棒が力強く思えた。


 能力により強化される両肩が熱を持つ。


 戦闘中、ここまで火種に集中することなんてこと、今まで一度もしてこなかったな。


 たまには初心に帰るのもいいかもしれない。


『――』


 俺の心情の変化を読み取ったのか、刹那、白魔が速度を上げて俺に迫る。

 今まで以上の最速を以て距離を詰めた白魔は、刃の如く鋭利な爪を横薙ぎに振るう。


 風を切り迫る白魔の爪を視界に、けれど不思議と俺の心に焦りはなかった。

 極度の集中から生まれる余裕が俺を満たす。


 ――水だ。液体のように形を自在に変え、流動する水を想像する。


 左足を真横に踏み込み、腰を軽く捻る。

 下半身から伝わる力を上半身へと『流し』、そして火種を収束した肩が動き始める。

 かつて経験のない程、滑らかな動きで初速が変わったのがわかる。身体がすごく軽かった。


 あとは勝手に身体が動いた。

 肩に収束した火種が、身体の内側を流れる感覚。

 筋肉を伝播し、余すことなく力が流れていく。


「一紫閃刃」


 力の奔流。収束と運動エネルギーの合わさった一撃が、ヲリキスへと収束を遂げた。


「〝流燐〟織紫咲――」


 かつてないほどまで高まった織紫咲を振るう。


 風を切って放たれる白魔の爪と、刀身が紫麗に染まるヲリキスとが交差した。


 ヲリキスに纏う紫麗の炎がより一層深みを帯びる。


 均衡は一瞬。

 吹き飛ばされたのは白魔の方だった。


『――!?』


 数メートル白魔の身体が吹き飛ばされる。

 衝撃にビリビリと震える爪を見下ろす白魔。


「……できた」


 放心しながら、ぽつりと俺は言葉を溢した。


「流せたのか、今……」


 訓練中一度も成功できなかった火種を『流す』戦い方を、俺はぶっつけ本番で成功してみせた。


 未だに信じられないが、手に残る確かな感触。

 筋肉の中を流れる火種の熱と、今までにない織紫咲の威力に手応え。


 この瞬間、俺は火種の新たな可能性を芽吹かせた。


「〜〜っぅ!!」


 またひとつ壁を乗り超えた感覚。

 努力が報われたこの達成感。

 この瞬間のために俺は努力を繰り返しているといっても過言ではない。


 火種を流す戦い方を会得することにより広がる戦術の幅。

 もっといえば収束させた火種を効率的に使い回せる他、火種持続時間の向上にも繋がってくる。


 俺はまたひとつ強くなることができた。


 ようやく成功できた嬉しさのあまり、俺は戦闘中だということを忘れるほどだった。


『――』


 勝敗はまだ決していない。

 たった一度、俺は爪を弾き返しただけだ。

 その程度のことで奢るなよ、と感情のない白魔の瞳が言外に俺に告げている。


「ぁ――」


 気づいたときには手遅れだった。

 体勢を立て直し、回避不能な至近距離にまで迫った白魔の爪が俺に向けられている。完全に油断した。


 浮足立った俺の喉元に、今度こそ白魔の爪が突き立てられようとした、その刹那――。


「はい、そこまで!」


 心強い声と共に、夕焼け色の焔が俺の視界に映る。

 横から現れた刃が俺の喉元に迫った白魔の爪を紙一重のところで止めた。


「……っとと、」


 仰け反る形で後ろに下がった俺は、足を地面に取られ、格好悪く尻もちをつく。

 見上げた先、白魔の爪を防いだのは夕日さんだった。


「惜しかったな、萩」


 いつの間にか俺の側に来ていたヒロさんが、ポンと俺の肩に手を置いた。

 ヒロさんと夕日さんが与える多大な安心感に、俺はすっかり緊張の糸が解けてしまった。

 しかしそれと同時に、自らの不甲斐なさに奥歯を噛みしめる。


「すみません、俺……油断しました」


「まったくだ。日乃神が助けに入らなければ今頃死んでいたぞ。戦闘中に気を抜くな、織﨑弟」


「うっ……」


 厳しい口調で叱責を口にするのはチコ先輩だ。

 

 言い返す言葉が見つからない。

 チコ先輩の言うとおりで、夕日さんの助けがなければ間違いなく俺は死んでいた。

 ぐうの音も出ず、押し黙る俺を見て、チコ先輩が眼鏡の位置を正す。


「だが土壇場で成功してみせるとはな。良くやった織﨑弟。やればできるじゃないか」


「……へ?」


 驚いて俺は顔を上げる。

 チコ先輩はいつも通りの済まし顔。


 ――え。今、もしかして俺褒められた?


 口を開けば指摘と叱責を繰り返すあのチコ先輩が。

 聞き間違いじゃなければ、俺は今初めてチコ先輩に褒められたことになる。

 

「チコ先輩……っ」


 感極まる俺に、チコ先輩は先程の言葉が嘘のように淡々と現実を突きつける。


「まぁ、それを差し引いても油断した時点でマイナス評価は免れないが」


「ぐぅっ……!」


 やっぱりチコ先輩は辛辣だ。

 がっくりと肩を落としていると、


「萩〜! 見てたよぉ、うちの弟はやっぱり天才だよ〜」


「ぐえっ、姉さん!? 苦じ……」


 興奮気味に駆けてきた姉に背後から抱きつかれ、危うく背骨を折られかける。

 じたばたと暴れる俺を尻目に、チコ先輩がため息をついた気配があった。


「これで満足か、チコ」


 そうつぶやくのは黒髪の男だ。


「まぁまぁだな。及第点といったところか」


 チコ先輩が男の言葉に応じる。


「おいおい。お前の方から頼んでおいて、その評価はどうかと思うぜ」


 男は既に心象武装を解除しているようで、俺を苦しめた白魔の姿はどこにも見当たらなかった。


 そんなことより、


「やっぱり、知り合いだったんですね」


 薄々おかしいとは思っていたのだ。

 思い返せば不自然な点も多々あった。

 そもそも俺が男の視線に気づけていて、夕日さんたちが気づけていない理由がない。


「ああ。僕らの仲間の最後の一人だ」


「実力は俺らのクランでもトップクラスだぜ」


「うんうん! 黒くんは強いよ! 私の次にね!」


 チコ先輩に続き、ヒロさんと夕日さんがGrow最後のひとりを絶賛した。

 Growのメンバーということは、やっぱりこの人もレベル8。どうりで強いわけだ。


「黒染だ。さっきは挨拶もなしに悪かったな」


 黒染と、そう名乗る男は申し訳なさそうに苦笑した。


「いえ、俺の方こそ火種のコツを掴めたので。ありがとうございました黒染さん」


 礼を口にし、俺は黒染さんに笑いかける。

 さっきの会話の流れから、今回の黒染さんとの戦いはチコ先輩が仕組んだものだとわかる。


 自己紹介が終わると、チコ先輩がGrowのメンバーを軽く見渡し言った。


「黒染を加え、ようやくGrowのメンバーが揃ったな。では早速仕事に向かうとしよう」


 それからチコ先輩は黒染さんに視線を向ける。


「黒染。飛ばしてくれ」


「合流して早々仕事かよ。少し人使いが荒くないか? ブラックにも程があるぞ……」


 ぶつくさと文句を言いながらも、黒染さんは渋々チコ先輩の指示に従うように、心象武装を発動させた。


「ホワイト。仕事だ」


 再び白魔が俺の前に現れる。

 白魔の方に戦意は全く無かったが、さっきの今だ、反射的に身構えてしまう。


「こいつはホワイト。俺の相棒だ」


 親指で白魔(ホワイト)を指差す黒染さん。


『――』


 大人しくしている白魔は相変わらずの無言。


 改めて近くで白魔を見ると、スラリとしていてちょっとカッコ良い。

 未来的な滑らかなフォルムはとても手触りが良さそうだ。後で触らせてもらうことってできるだろうか?


「で、場所は?」


 黒染さんが目的地を問いかけると、チコ先輩がそれに答えた。


「福島県白河市。ここから直線距離で東北東に20kmといったところか」


「20kmか……遠いな。だいぶ距離がある」


「いけそうか? なんだったら中継地点を経由してもいい。必要ならバフも考慮する」


「いや、ギリギリ届くとは思う。やってみる」


 会話が終わると白魔が右腕を上げた。

 すると次の瞬間、空間に亀裂が奔った。

 パキパキッと薄氷にヒビが入るような音。

 何が起こるのか、俺は息を呑んで見守る中、空間に奔る亀裂が加速していく。

 白魔はジッと真上を見上げていた。

 黒染さんは集中しているのか、黙ってまぶたを閉じている。


 そして――空間が割れた。



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