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レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第三章 Grow up soul
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Level.86『白魔』




 幻想形態(エリアル)――それは動植物を創り出す類の形態。


 植物や生物、ひいては神話や童話に置ける幻獣などを心象として創り出すことができる、心象武装の中でも最も珍しい、唯一"自我"を持つ形態である。


 俺もウェイカーになって幻想形態を扱うウェイカーは数人知っている。


 以前所属していた椿姫の中にも鳥を創り出すウェイカーがいたが、ここまで異質な形の幻想形態(エリアル)を見るのは初めてだ。


「いきなり何するんですか……!? 迷宮(メイズ)以外での心象武装の使用は禁止されてるだろ!?」


「ああ、そういえば日本(こっち)は法規制が向こうより厳しいんだったな。今思い出した」


「向こう……?」


「まぁ、バレなきゃ問題ないだろ」


「バレなきゃって……」


「お前だって剣を持ってるだろ。この国はいつから銃刀法違反が解禁されたんだ?」

 

 男は俺に手のひらを向けた。


「御託はいい。さっさと構えろ。行くぞ」


「待――っ!?」


 亡霊のようなナニか――仮に『白魔』と呼称する。

 白魔は男の意図を汲み取るように、有無を言わず俺に接近し、その鋭い爪の猛威を振るい始めた。


「くっ、っぅ!」


 爪の連撃を弾きながら、俺は舌打ちを打つ。

 とても会話を試みる状況じゃない。

 男は俺を『敵』だと認識している。

 どうやら戦うしかないみたいだ。


「くそっ、結局やるしかないのかよ……!」


 紫麗の燐火(ブラウス・オーラ)――収束率100%。


 瞬時に足元に収束させた火種で地面を蹴る。

 爆発的な加速を持って白魔を置き去りに、俺は男に急接近した。


 白魔は心象武装。

 能力やスペックが判然としない現状、ウェイカー本人を無力化するのが一番手っ取り早い。


 男の懐へ入り込んだ俺は、ヲリキスを下段から素早く振り上げる。

 狙いは胴体の数ミリ手前。

 次手でバランスを崩した男の首元に刃を添えて強制的に戦闘を終わらせる、というのが作戦だった――が。


「――」


 退屈そうに欠伸をする男と目があった。

 男は顔色ひとつ変えず、どこまでも余裕綽々といった様子であまりにも隙だらけ。

 初めから俺なんて眼中にないかのような瞳で。


「拍子抜けするほどヌルい炎だな」

 

 直後。置き去りにしたはずの白魔が、いつの間にか俺と男の間に現れる。


『――』


 気配はなかった。まるで瞬間移動でもしたかのように、空間を飛び越え出現した白魔の爪にヲリキスの一撃が阻まれた。


「なっ!?」


 火花が散り、弾かれたのはヲリキスだ。


「狙いは良かった。だが致命的なほど遅すぎる。そんな速度じゃコイツは振り切れないぜ」


 考える隙も、驚いている暇もなく、すぐに白魔のもう一方の爪が俺の喉元に差し迫る。


 その一撃を紙一重で俺は回避した。

 しかし完全に避けきれたわけではなく、熱のない冷徹な爪に頬を薄く裂かれた。


 危なかった。爪が掠ったのがもう少し上だったら、眼球を切り裂かれていたかもしれない。


 いや、今はそんなことより――。


「畳み掛けろ、ホワイト」


 男の一声に白魔の感情のない瞳が俺を見据えた。


 後退する俺に追い迫りながら、容赦なく振るわれる白魔の爪、爪、爪――。連撃。


 息を整える時間すら与えれない。

 追い詰められてようやく気づく。

 その爪の脅威に晒されて初めて知る。

 

 ――おいおい。この人、強くないか!?


 圧倒的すぎる白魔の身体能力。


 心象武装は所有者であるウェイカーのレベルに依存し、付随する形でスペックに強化が施される。

 そのことからわかるのは、白魔を創り出した当人である男の実力(レベル)


 近接戦で俺を軽く凌駕する心象武装を操る男のレベルは少なくとも6。もしくはレベル7。

 否――男はまだ心象武装の能力を使用していない。加減してこれならレベル8でもおかしくはない。


 俺が今、男の操る白魔と戦えているのは実力でも奇跡でもなんでもない。ただ手加減されているだけだ。

 レベル5相当の実力しかない俺は、男が本気を出せば一瞬で勝負は決まる。


 なのに何故、男は手加減を続けるのか。

 どうして夕日さん達は静観の姿勢を貫いているのだろう。


「――っ!」


 思考に耽る俺の肩肉を、鋭利な爪が攫っていく。


 考えるのは後だ。

 今はこの戦いに集中しろ。

 脳のタスクを他に取られながら勝てる相手ではない。


紫麗の燐火(ブラウス・オーラ)!!」


 俺は紫炎を強く纏い直す。


 近接線での格上との戦闘上、収束は自殺行為だ。

 単純に収束させている箇所以外は火種の強化が及ばなくなるから。一手でも回避をミスったその瞬間、俺の身体は豆腐でも斬るみたいに容易く抉られるだろう。


 それに俺はまだまだ収束を扱いきれていない。

 チコ先輩も言っていた通り、収束を完了するまでの数秒は大きな隙となる。


 モンスターならまだしも、相手は格上だ。戦闘中、何度も火種の収束を繰り返せば、いずれは男もその隙に気づくだろう。

 

 だったらどうするか。


 決まっている。


 必然的に残された選択肢は火種を『流す』戦い方だ。


 流し方は知っている。

 夕日さんとチコ先輩に教わった。

 

 未だ成功したことはないけれど。

 それでも今はやるしかない。


「――」


 白魔との距離を稼ぎ、ヲリキスを構え直す。

 即座に火種の収束を開始。

 全力で両肩に火種を集めていく。


 足元からヲリキスまで火種を流した方が効率的ではあるのだが、今の俺には不可能だ。

 だからまずは両肩からヲリキスまで火種を流す。


 3秒半後、収束完了――。


「来いよ」


『――』


 薄く笑って白魔を挑発する。

 言葉が通じるとは思っていなかったが、どうやら俺の意思は伝わったようだ。


 収束する火種を警戒して攻撃を止める白魔だったが、脅威ではないと悟ったのか、白魔は長い爪を大きく開くと、再度俺へ向かって駆け出した。


 移動速度(スピード)は葵さんより速い。

 数メートルあった彼我との距離が一瞬で消し飛んだ。


 けれど攻撃速度(スピード)は葵さんの方が上だ。

 嫌というほど模擬戦で味わった、葵さんの瞬殺の刃と比べればなんてことはない。

 視認できる時点で、十分対応でき得る速度。


『――』


 目と鼻の先まで迫った白魔が大振りに爪を振るう。


「――」


 俺は踏み込み、白魔の爪にヲリキスを合わせるべく、肩に収束させた火種をヲリキスへと流す――が、結果は失敗。

 収束させた火種はヲリキスまで辿り着かずに終わる。


 強化が間に合わなかったヲリキスと、白魔の爪が衝突し、俺の身体は容易に吹き飛ばされた。


「ぐっ……!?」


 一旦収束を解除し全身に火種を分散させた。

 空中で体勢を立て直し、地面に着地すると同時に再度俺は両肩に火種を収束させる。


 呼吸を落ち着ける暇もなく、白魔の追撃が迫る。


「う、っ!?」


 なんとかタイミングを合わせてヲリキスを振るう。

 また失敗する。弾き飛ばされる。その繰り返し。

 

『何も考えずただひたすら同じ動作を繰り返すことを努力とは呼ばない。それは失敗の反復だ』


 チコ先輩の言っていたことが俺の脳裏をよぎる。


 そうだ、これは失敗の反復だ。

 失敗を反復し続けたところで意味はない。

 チコ先輩は時間の無駄だと言うだろう。

 悔しいがその通りだ。


 これじゃダメだ。

 ダメだと解るなら考えろ。


 何がだめなのか。

 何が必要なのか。

 何をすればいいのか。


 想像し、思考し、実戦し、挑戦するしかない。


 俺は今までの失敗を振り返る。

 そして一緒にチコ先輩や夕日さんからもらったアドバイスを思い出す。


『肩に力が入りすぎだよ、もっと力を抜いて!』

『今度は緩ませすぎだ。収束が分散してるぞ』

『なんて言うのかな……こう水みたいに?』

『何度も言ってるだろ。理屈は収束と一緒だ。もっと細かく意識しろ』

『とりあえず、深呼吸してみよっか』

『行き詰まった時こそ初心に帰れ。心象武装は最もお前の近くにいる存在だ。理解を深め、親和性を上げろ』


 そして俺はヲリキスを構えた。




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