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レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第三章 Grow
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レベル78『チコ先輩』




「3年くらい空けてたけど、思ったより綺麗だね。もしかして掃除でもしたのかな」


 辺りを見回し、姉さんがそう呟いた。


 言われてみるとたしかに手入れが行き届いていると気づく。

 普通、3年も空き家にすれば、敷地の地面に雑草が生えていてもおかしくないが、地面は綺麗だしログハウスには蜘蛛の巣ひとつかかっていない。


「――したのかな、じゃない。現在進行系で掃除してる最中だ」


 ログハウスの方から男の声がして、俺と姉さんはふたりしてログハウスの方を見た。


 視界の先には、ログハウス入り口の柵に身体を預け、ほうきを手に腕を組んだ男の姿――訂正。少学生くらいの男の子の姿があった。


 髪色は深い紺色で、瞳の色は知的な翡翠色。

 小柄で身長はたぶん150cm前後くらいで、俺の肩ほどしか背丈はない。


 クランに所属する誰かの弟だろうか。

 そんな印象を受けていると、隣にいる姉さんが「あ」と言って少年に手を振った。


「チコ先輩じゃん。おはよ〜」


「え――」反射的に声が漏れた。


 俺は少年の姿を凝視した。

 まさか目の前にいるこの小さな子供が、昨日から時折話題に出ていた件のチコ先輩だったらしい。ということは少年もクランのメンバーで、レベル8――……。


 ウェイカーはよく、相手を見た目で判断してはいけないという。

 なにせウェイカーのレベル差は体格差を有に覆すからである。

 大柄な男が見た目倒しに弱かったり、その逆に小柄な女が素手でコンクリートを叩き割ることもある。

 だからウェイカーは見た目が全てではない。


 まさに今がそれだ。

 きっと少年もといチコ先輩は、コンクリートくらいパンチひとつで粉々にしてしまうに違いない。

 小学生かと思ったなんて口が裂けても言えない。その場合、粉々になるのはコンクリートではなく俺自身になるだろう。


 顔を青くしながら黙りこくる俺には構わず、チコ先輩は姉さんを見て嘆息を溢した。


「おはよう、と言ってももう昼だけどな」


 チコ先輩は柵に身体を預けたまま、右手の指で眼鏡をクイっと上に直す。


「織﨑、里帰りはもう済んだのか?」


「まぁ、一応ね。3ヶ月はこっちにいるんだし、家にはちょくちょく帰ろうとは思ってるけど」


「そうか」と、チコ先輩が短く頷いた。


「他のみんなは?」姉さんが質問を口にする。


「祈子森は明日まで香川の実家にいる。磐井は昨日、師匠と飲んでくると言って出ていったきりだ」


「ほうほう。黒くんは?」


「黒染については知らん。そのうち帰ってくるだろう」


「なるほどね〜」


 何人もの知らない名前が出てくる。

 恐らく皆クラン【Grow】のメンバーだろう。

 俺はあまりニュースを見ない――ニュースを見てる時間をトレーニングに費やしている――から、レベル8の情報は詳しく知らない。


 知っているレベル8と言えば、テレビの中継によく名前の出てくる大型クラン所属のウェイカーで、調べればきっと【Grow】の情報もネットに載ってはいるんだろうけど。


「それで――」


 話が一段落ついたところでようやく、チコ先輩の翡翠の瞳がスっと俺に向けられた。

 

「お前か。あのバカが勝手に勧誘したって言ってた織﨑の弟は」


 なぜかすごい睨まれているような気がするのはきっと俺の気のせいではないだろう。

 厄介者を見る視線に思わず俺の背筋が伸びる。


「そうだよ〜、私の自慢の弟」


 姉さんは相変わらずの緩い口調で応えた。

 それに続いて俺も軽い自己紹介をする。


「はじめまして、織﨑 萩です。いつも姉がお世話になってます」


「なってます〜」


 えへへ、と何故か姉さんが照れ笑いをした。


「ふん、姉とは違ってしっかりと礼節があるな、お前の弟は」


「褒めないでよ〜チコ先輩」


「「いや、褒めてないだろ」」


 脳天気な姉さんの発言に、俺とチコ先輩の突っ込みが見事に被り、チコ先輩に嫌そうな顔をされた。


「大方の事情は日乃神から聞いている」


 気を取り直すようにチコ先輩が眼鏡の位置を直す。


「生憎と日乃神は寝てる。快眠だ。昨日どっかの誰かが焚き付けてくれたおかげでな。あの調子だと恐らく夕方まで起きないだろう。話は日乃神が起きてからだ」


 どっかの誰か、というのは俺のことだろうか。

 どっちかと言えば焚き付けられたのは俺の方だけど。

 隣で姉さんが小さくあくびをした。


「それじゃ夕日が起きるまで私もお昼寝しよっかなぁ」


 そう言うやいなや、姉さんはチコ先輩の前を通り過ぎて、ログハウス入り口の扉を開けて中へ入ってしまった。止める暇もなく、ひとりで。


 俺とチコ先輩のふたりきり。ちょっと気まずい。

 取り残された形となった俺は、おずおずとチコ先輩に話しかける。


「あの、俺はどうしたら……」


 すると、チコ先輩は持っていたほうきを俺に向けて放って投げた。

 飛んできたほうきを俺は手で受け取る。


「手伝え。どうせ暇だろ」


 手伝う? なにを? 決まっている。掃除だ。


「……はい」


 俺はか細い声で頷いた。


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