表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第三章 Grow
81/132

Level.76『クランへの誘い』




 まるで爆撃のような重爆音と、地が割れたかと錯覚するほどの激しい衝撃。


 訓練室の壁が軋み、悲鳴を上げる。

 比喩なく栃木ギルド春ヶ丘支部全体が大きく揺れた。


 夕日さんの《残照》なる痛快な一撃。

 それは俺の《織紫咲》の何もかもをも凌駕していた。

 範囲も破壊力も、凡そ技の全ての格が違った。

 俺の火種一点集中火力の理想の完成形――。


「なんて……威力だ」


 焔の消えた壁を見て俺はひとり呟いた。


 爆弾や銃撃などでは傷ひとつつかない強度を誇る、俺なんかではビクともしない、訓練室特注の白壁には巨大な裂傷の痕が奔っている。


『《勇焔(ブレイズ)》――能力開放40%』


 能力を抑えてこれだというのだから、全力を出した夕日さんなら白壁を破壊するくらい容易だろう。

 

「うんうん、こんなところかな? 久しぶりに使ってみたけどやっぱりいいね、ヲリキスは」


 満足げにうんうんと頷く夕日さん。


 葵さんもそうだが、隔絶している。

 文字通りレベルが違う。

 技も力も戦闘における全てのレベルが違う。

 極めて高く、限りなく分厚い実力の壁。

 果たして俺は、レベル0という名のこの身ひとつで、目の前にいる壁に手が届く日が来るのだろうか。


 互いの実力差を痛感していた俺の目の前に、ヲリキスの持ち手が差し出された。


「それに、君もすっごくいいよ!」


「え?」


 愛剣であるヲリキスを夕日さんから受け取った。

 握った柄から感じる、ほのかに熱を帯びたヲリキスが、夕日さんに使われて喜んでいるように思えて、少しだけ嫉妬してしまう。

 

「さっきのフェイクは完璧だったよ〜!」


「いや、でも……避けられました」


「そりゃ私だからね! そこは仕方ない!」


 胸を張って自信に満ち溢れたドヤ顔を浮かべる夕日さんが、徐ろにスッと無邪気な笑みを潜める。

 

「でも、私じゃなかったら間違いなく決まってた」


 さっきとは一転して静かな、それでいて力強い声音で断言される。

 夕日さんの黄色の瞳が仄かに陰り、深い黄濁色の瞳が不可視の圧力を含み、一点に俺を見据えてくる。


 俺は知らず息を飲み、気圧されかけた。

 口をついて出そうになった謙遜の言葉も、夕日さんの迫力に負け、反射的に喉の奥へと引っ込んでしまう。


 しかし、それも一瞬のことで、夕日さんは再び無邪気な笑みを纏い直して破顔する。


「ってことで、合格だよ、萩くん。おめでとう」


 突然、そんなことを言われたものだから。


「合格?」


 きょとんと、何を言われたのかわからず、俺の思考が止まる。


「って、何がですか……?」


「へ?」夕日さんが間抜けな声をあげた。


「「……」」


 笑顔の夕日さんと、恐る恐る問い返す俺との間で時が止まり、無言の時間が流れた。


「あ」と誰かが沈黙の中で声をあげる。姉さんだった。


 ギシギシと音を立てて夕日さんの首が明後日の方角――姉さんのいる方向に向けられた。


「サキサキ〜! なんで本人に伝えてないのっ!?」


 慌てたように大声で叫ぶ夕日さん。


 姉さんはにっこりと微笑み、両手を合わせた。


「ごめん夕日、忘れてた」


「もう〜、これだからサキサキは〜……」


 仕方ないなぁ、と腰に両手をあてて渋い顔をする夕日さん。

 なんだか既視感のある光景だと思った。

 それもそうか、ヲリキスの件も姉さんが忘れてたことだし。

 あまり身内の悪口は言いたくないが、姉さんはけっこう忘れっぽい質の人種だ。


「それで、合格っていうのは?」


 合間を見てさっきの質問を繰り返すと、夕日さんが姉さんの方に視線を向けながら頷いた。


「うん。サキサキから頼まれてたんだよね、君に心象武装の使い方を教えてあげてくれって」


「姉さんに?」


「まぁ、条件つきでOKしたわけなんだけど」


「条件っていうのはもしかして」


 思い当たる節はひとつしかない。模擬戦だ。

 俺の思考を読むように夕日さんが笑う。


「そ。模擬戦で君が私を満足させられたっていう条件」


 そこまで聞いて、ようやく腑に落ちる。

 突然の半ば強引な模擬戦の誘いや、模擬戦中の夕日さんの態度は、文字通り俺を測っていたのだ。

 合格ということはつまり、俺は夕日さんのお眼鏡に叶ったのだろうか。


「ねぇ、萩くんさ。うちに入らない?」


「?」


 毎度ながら、夕日さんは突拍子がない発言をする。

 うちとはこの場合、クランのことを言っているのだと思うけれど。


「心象武装の使い方を教えてくれるってだけじゃなかったんですか?」


「うん、初めはそのつもりだったんだけどさ。私、君のことが気に入っちゃった!」


 ニカっと裏表のない清々しい笑みで言われた。


「ね? いいよね、サキサキ」


 俺達の元へと歩いてくる姉さんに向け、夕日さんが話しを振る。

 姉さんは少し困ったような顔で、


「萩がいいなら私は反対はしないけど。むしろ萩と一緒にいれる時間が増えるから私は賛成だけど。でも、ちこ先輩あたりが猛反対するよねぇ、きっと」


「きっと大丈夫だよ、サキサキ! ちこ先輩は頭が硬いけど、話し合えばわかってくれるよ! 絶対!」


「う〜ん、どうだろねぇ〜」


 難しい顔の姉さんと、どこまでも楽観的な夕日さん。


 新しく名前の出てきた『ちこ先輩』というのは誰のことだろう。

 姉さんのクラメンなのは確かだ。

 名前からして女の子だとは思う。いや、二つ名の可能性も……。

 そんなことを考えていると。


「それに萩は困るんじゃないかな?」


「え?」


 姉さんの発言に、俺は小首を傾げた。

 困る? 何が?

 姉さんのクランのことはあまり詳しくない。

 知っていることといえば、日本でも有数の強豪だということと、少数で活動しているワンパーティーのクランだということくらいか。


 そんな強豪クランから勧誘を受けたのは願ってもない話しで、加えて俺と似た心象武装を有した人もいる。

 はっきり言って、断る理由は見当たらない。

 だから俺には姉さんの発言の真意がわからなかった。


 だが、姉さんの次の言葉に、俺はハッとさせられた。


「私達は基本、国内じゃなくで海外で活動するから」


 そうだ。忘れていた。

 姉さんは久しぶりに帰ってきたのだ。

 さっき夕日さんも言っていたじゃないか。

 ヲリキスの素材は欧州に出現した門番のものだと。


「海外ですか」


「そうだね。うちは基本、国外で活動してる」


 海外ということは、アレだ。

 夕日さんや姉さんの所属するクランに入れば、俺は日本から離れることになる。

 それはちょっと困る。


「俺、英語はあんまり上手く話せません」


「単語さえ話せれば、案外ジェスチャーだけでなんとかなるもんだよ? 通訳はちこくんがしてくれるし」


 国外でのウェイカー活動。

 きっと世界には葵さんや夕日さんより強い猛者がわんさかいるのだろう。

 興味がないわけではない。

 けれど即断できる話しでもない。


 悩む俺を見かねて、夕日さんが「別に今すぐに決断しなくても大丈夫だよ」と言ってくれた。

 

「私達3、4ヶ月は日本に滞在する予定だから、その間に考えてくれればいいよ。とりあえずはうちに仮入団って形でもどうかな?」


「……仮入団」


「うん! うちに入る入らないはさておき、絶っ〜対、いい経験になると思うんだ!」


 声のトーンを上げて夕日さんがそう言う。

 嬉しそうに、楽しそうに、期待を孕んだ眼差しで。


 期限は3ヶ月先。

 今のところ先の予定はないし、とりあえずは仮入団という形で夕日さん達のクランに在籍するのも悪くない。


 きっと夕日さんの言うとおりいい経験になるだろう。

 答えを出すのは、その後でも遅くはないと夕日さんは言ってくれたのだから。

 


「それじゃあ――……」


 差し出される夕日さんの手を握り返そうとしたとき。


「なんだ!? なんの音だ今のは!?」

「訓練室からだぞ! 急げっ!!」


 ドタバタドシンガタンと何人かの人が、大急ぎで訓練室へと続く廊下を慌ただしく駆けてきて、入り口の扉が壊れん程の勢いで、顔を青くしたギルドの職員数名が大慌てで訓練室へと入ってきた。


「おい! なんだ今の音はっ!? って、ああああああああああああああああああああ!?」


 俺達の顔を見回した後、訓練室の壁にデカデカと刻まれた裂傷を見て、男達は更に顔を青くし、顎が外れんかという程あんぐりと口を大きく開けて泣叫を上げる。


 俺と姉さんは、やるせない気持ちでお互いに視線を合わせ、それから夕日さんへと向ける。


「もしかして、マズかった?」


 この状況に何の危機感も抱いていなさそうな夕日さんに、姉さんがやれやれと肩を落とす。

 

「もしかしなくてもマズイでしょ……?」


 果たして、モンスター素材を加工した特殊な訓練室の壁一枚を張り替える――作り直す――のに、いったい幾ら修理代がかかるのか、考えるだけで頭が痛くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ